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Geister Kontinent   精霊大陸での日常  作者: うぃんてる
第一部 賢者の学院編
9/234

7.エレンの想い

ちょっと長めです。


最終改稿2014/08/25

 一方。ウィンテルに見送られたエレンは王立地下図書館の敷地に隣接して建てられている賢者の学院ウィシュメリア校にいつも通りに登院し神官戦士育成コースに割り当てられた教室へ入って自分の机に荷物を下ろしたところでクラスメイト達に取り囲まれてしまった。


「おはよー、エレン。お姉さん大丈夫?」

「よ、エレン。お前の姉ちゃんマジやばいって」

「さすが魔術の申し子。まさか敷地地上部全域に加護掛けるってどんだけなんだよ」

「しかもあれだろ?地下に突入した奴ら、チビ竜のブレス浴びてるのに髪の毛焦がしただけで生還したって言うんだろ?おかしいだろそれwチビ竜だとは言ってもさ」


 あー…………………。まぁ、こうなることは分かっていたんだけど、これ、どうしようかな……。エレンは取り囲まれて興奮気味に喋り続けるクラスメイト達に辟易しつつ、でもどうしようも出来ず、取り敢えず自分の椅子に座ることにした。


「おーい、お前ら。とっとと席に着け!点呼とるぞ」


 そうこうしているうちにクラス担当で戦闘技官のヨーク先生が入ってきて手にしている点呼簿で教卓をバシバシ叩くとエレンを取り囲んでいたクラスメイトたちは慌てて席に戻った。


「よし、昨日の図書館地下突入組以外は全員いるな?ああ、それからエレン。昨日は看病ご苦労だった。きつかったろ?意識失ったウィザードへの看護は」

「そう、ですね……お姉ちゃんの精神力の量もあれでしたけど、何より意識を失った人間を運ぶことがどれだけきついのかを身を以て実感しました」

「結局あれか?意識戻らないから移譲したんだろ?」

「はい。…………私が意識失うかどうかのギリギリを移譲してようやく……でした」

「そうか…………ごくろうさん」


 ヨークとエレンのやりとりを聞いている他の生徒達の顔が一様に引きつっていたのは言うまでもなかった。普通の人間ならほんの少し移譲すれば意識を覚醒させられるのに、比較的普通の人よりも精神力の多いエレンが気を失うギリギリまで移譲しないと意識が戻らないというキャパシティを想像して絶句してしまっているのだ。


「さてと、だ。本来なら今日は地下図書館の地下15階くらいに潜って小手調べと連携確認、他科の連中との顔合わせを兼ねた実地修練という予定だったが…………知っての通りまだ安全確認の為地下10階以下は閉鎖中だ。従って本日の予定を一部変更するぞ。具体的には行き先を変更する。それから今から名前を呼ばれる4名は別の予定があるのでここに残ること。それ以外の者は実戦に即した装備をして他科の連中と運動場にて合流して適当に6人パーティ編成しろ。組み終えたら本日の特別講師、ウィリアム・ウィンター高等精霊語魔術師の指示に従い最近発見されたバハル湖付近の遺跡を探索して貰う。今回の目的は引き際の見極めだ。どこまでが限界なのか、自分ばかりだけではなく他職の様子もきちんと把握して見極めろ。いいな?」

「「「はい!」」」

「よし。じゃあ今から名前を呼ばれた者以外は1時間後までに運動場へ集合。そこからはウィリアム特別講師の指示に従え」


***


 なんとなくイヤな予感はしていたんだけど、やっぱり案の定私の名前も呼ばれてしまった。一番最後に。名前を呼ばれたのは私の他に3人。炎の精霊神官のラミエルちゃん、大地の精霊神官戦士のドゥエルフ君、そして光の精霊神官、リリーちゃんだった。

 他のみんなが装備を抱えて更衣室へと向かうのを見送りながら私たち4人は少し不安そうな面もちで待機する。みんながいなくなったのを確認して辺りに人気が無くなるのを待ってからヨーク技官と、もう一人。学院長であるメンドゥーダ・ドレン侯爵様がいらっしゃったのを見て私たちの表情が一層強張る。


「ああ、そんなに緊張しなくていい。楽にしてろ」


 そんなこと言われても、とみんなが同時に顔を見合わせる。


「ヨーク君、あとは私が話そう。…………君たちに残って貰ったのは、ある一つのことを確認したかっただけなのだ。君たち4人は魔法系の感受性が他の院生よりずば抜けて高い。特に…………エレンさん。君は特に高い感受性を持っていると聞く」

「その上で君たちに聞きたいことがある。……昨晩、深夜。…………何か普通ではないモノを感じ取ってはいないかね?」


 私たちは言ってる意味がよく分からないといった風に顔を見合わせる。そして私が意図を確認するために口を開こうとするのを学院長が遮り、リリーちゃんを指名する。


「そうだな、君。リリーさんから聞こうか」

「あ、はい。ええと…………昨晩は満月でしたから、満月神であられます光の上位精霊神ノヴァ様の波動をいつもよりは強めに感じました。もちろん、そんなに強くは無いですけれど、闇の上位精霊神グラビィティ様の波動もですが。」

「なるほど。じゃあ、えーと、君。ドゥエルフ君。君はどうだね?」

「えーと……僕は特には。熟睡してしまいまして…………あ、でも何か……歪みのような感覚があったような気はします。それからなんとなく肌寒さも。でも……そんなに気にするほどでも無かったと思いますが」

「なるほど。じゃあラミエルさん。貴女はどうだね?」

「ええと…………」


 エレンは黙り込んでいた。どう答えるのが一番お姉ちゃんの為になるのかを一心に考えていた。確かに私たちはこの学院で魔法系感受性、特に職業的に精霊系の感受性はトップクラスに高い。しかし、この聞き取り方はかなり意図的すぎる。私を一番最後にしようとしている事が違和感ありすぎている。

 昨晩の事象について学院長は何があったのか薄々気が付いている。だからフェンリル信徒の私をメンバーに加えている。どうすればお姉ちゃんの平穏は守られる?どう答えればさりげなく学院長の意図を外せるのだろう。表情は至って普通にポーカーフェイスで。けれどもエレンは必死に思い悩んでいた。


「なるほどね。何かしらの愛情の精霊力…………つまり炎の精霊力みたいなものに近いものは感じた、と」

「ええ。我が子を慈しむような……そんな感じでした」

「ありがとう。さて、エレンさん。貴女は何を感じたかね?」


 ちょっと待ってください、学院長。…………私は感じていること前提で確定なんですか?それはどうなんですか。と小一時間問いつめたい気持ちになったけれどもなんとか努めて平静を装うことに成功して返答した。


「…………この季節には珍しく、下位精霊のフラウが屋敷の中の私の部屋についてるバルコニーに迷い込んで来ているのを見つけました。ちょっと寝付けなくて満月を眺めていたら目の前をふよふよと横切っていくのを見つけたんです。もう殆どはシャープル山脈の際の方へ移っているはずだと思うのですけれど……」

「ほう。どうしたのだろうね?」

「はい。私も不審に思いましたので様子を見ていたのですけれど。そうしたら、お姉ちゃんのお部屋の窓の外から中を心配そうに見ている様に見えました。そこで、私がバルコニーに出て、安心させるために笑顔を見せましたら意図が伝わったのかどうかは分かりませんが、窓から離れてふわふわと…………街の中へと消えていきました」

「そうか……。他には何かなかったかね?空間の歪みから生じる力場の乱れとか……」

「いいえ、歪みなどは生じていなかったと思います。それに力場が発生するような歪みが発生すればお父様やお母様も気が付いて駆けつけてくると思うのですが…………そのようなことはありませんでしたし」


 私は言葉を良く選んで学院長からの質問に平静を維持しながら答えていく。今のところ、特には不審がられていないように思える。けれども背筋には冷や汗が流れている感じはするし、心臓もドキドキしっぱなしだ。でも、お姉ちゃんの平穏な生活のためがんばらなきゃ。


「そうだな、私の娘なら…………確かにそんな力場が発生すれば起きるだろうね。なるほど。ところでエレンさん。貴女は確かフェンリル神の信徒であると聞いているが」

「はい、ウィンター伯爵家はフェンリル神さまを信仰しております」

「フラウが君のお姉さんの部屋を覗き込んでいたように見えた、とのことだが…………理由はわかるかい?」


 ……とうとう来た。ここで返答をしくじると全てが水の泡になりかねない。学院長の両目がすうっと細くなって私をじっとどんな表情も見逃さないと言ったように見つめてきている。


「貴女のお姉さん…………ウィザードのウィンテル名誉導師は確か氷と時空間系の分野が強いとは聞いているが……ただの使役対象であるフラウが意志を持ってやってくるような事例は今までに聞いたことも、そんな記述を見たこともない」

「それから君のお姉さんが持っている氷の精霊石に惹かれたんだとしたら、心配しているように見えたという事象とは辻褄があわなくなるだろうしね」


 私と学院長の間に漂う微妙に居心地の悪いピリピリとした、お互いの腹の内を探るような雰囲気にさすがに他の3人も気が付いたようだ。ヨーク技官に至っては関わり合いになりたくないのか出入り口の方に移動してドアにしなだれかかっている。

 さて、どう答えようか。

 バカ正直に真実を告げるわけにはいかない。とても大変なことになるのは目に見えている。だから、真実をぼやけさせながらも嘘にならない程度に事実を答えるようにするしかないだろう。…………と、私が返事をしようとしたところに険しい表情をしたリリーちゃんとラミエルちゃんが口を挟んできた。


「学院長。エレンが何か悪いことをしたと言うのですか?……その問い方は……」

「そうです。ちょっとその質問の仕方は酷いと思いますし、明らかにエレンちゃんと私たちとは問い方が違います」

「そうですよ。私たちには何か感じたか?という事実があるかどうか分からないと言う前提の質問でしたのに、エレンに対しては事実が確定している前提の問いかけ方じゃあないですか」

「エレンちゃんが戸惑うのも仕方のない、酷い決めつけ的な質問はどうかと思います!」


 思わぬ二人からの、援護射撃に学院長の視線と気持ちが私から明らかに外れたのを感じながらこの隙にと頭をフル回転させてよりベストな答えを求めて考える。


「ああ、すまんすまん。そう言う風に聞こえてしまったかね?ラミエルさんにリリーさん。そう言う意図は全くなかったのだが……その様に聞こえてしまったというのなら謝罪しよう。貴女達の大事なエレンさんを問いつめたりいじめたりする意図は全くないから安心したまえ」

「ただね…………魔力とか時空の歪みみたいな変化はフェンリル神の範囲だから何か知っているのではないかと思ったモノだからね。……ふぅ、つい気が逸ってしまったようだ。済まなかったな、エレンさん」


 ラミエル、リリー。貴重な時間を稼いでくれてありがとう。おかげでなんとかなりそうだよ。


「いいえ、特には気にしていませんわ、学院長様」


 にこやかに何も気にしている様子は無いとさりげなくアピールしながら私は学院長に軽く微笑む。


「それで、フラウの行動の理由ですが…………あくまでも私の主観です。窓ガラスに数度コツンコツンというように見えるような動きをしているからそのように私には見えてしまったのです」

「それからお姉ちゃんは良くフラウを召喚しては使役いたしますし、もしかしたら眠る前にいつものように召喚してお喋りしてから解放して寝たのかな、とか思いましたので」

「ふむ……君のお姉さんは直接精霊界にそのフラウを送還せず放した、そういうのかね?それはちょっと不自然だし、そのフラウにも優しくないのではないかね?」

「普段なら送還していると思います。ですが、昨晩は全力加護魔法、それも父によれば咄嗟の三種混合魔術とのことでした。ですから召喚することは何とか出来ても送還するほどの魔力も精神力も余力がなかったんだと思います。……私の意識を保つギリギリの精神力で意識をかろうじて戻せたくらいの状況でしたし」


 これで何とか自然に話を紡げたはず、だと思う。その証拠に学院長がなにやら黙り込んで口を閉ざしてしまったし。


「…………なるほど。その様な状況であれば……解放された後も心配そうな動きに見えたというのも頷ける話では、あるな。……了解した。君たち、時間を取らせてしまって済まなかったな。どうもありがとう。感謝するよ」

「いえ…………じゃあこれで解散という形でよろしいのですか?」

「ああ、大丈夫だ。じゃあ、ヨーク君。後を頼むよ」


***


 学院長が立ち去り部屋の中の緊張感が雪解けのようにさっと緩んでいく。4人とも椅子の背もたれにだらしなく背中を預けて「疲れた…………」と言うようにグッタリとしていた。


「ラミエルちゃん、リリーちゃん。ありがとね……助かったよ」

「ううん、親友として当然のこと言っただけだよ。それが例え相手が学院長でもね」

「そうだよ。さすがにあの言い方はどう考えてもおかしいもの」

「けどよー、一体昨晩何があったんだろな。こんな風に学院長が動くなんて珍しいぜ?」


 そこにドゥエルフも口を挟んでくる。取り敢えずこの話題は早く終わらせておきたい。いい加減疲れたし、どこでボロを出すか分からないし。


「んー…………でも、もういいよ、この話題は。難しい話は私たちじゃどうしようもないしね」

「そだなー……」

「「うんうん」」

「それよりもさ、学食でお茶しようよ。お腹空いた~…………」

「おっけ、じゃあ行こうか。技官はどうされます?」


 一応ヨーク技官にもラミエルちゃんが話を振る。


「んや、俺はいい。4人でゆっくり休憩してこい。特に、エレンな」

「はーい。じゃあヨーク技官、失礼しますー」

「「「失礼しまーす」」」

「おう、お疲れー」


 ああ、どっと疲れた。本当に疲れた。倒れるかと思ったよ……。けれども、お姉ちゃんの平穏は守れた……のかな。そうだったらいいな。うん。あとで文句言っておかなきゃ……余計な余波立たせないでくださいって。いくら上が暇だからってそんなに気軽に遊びに来ないで欲しい。疲れるし。……まったくもう。


「エレンー、どうしたのー?早く行かないとグランドパフェプリン、売り切れちゃうよー?」

「待ってー、今行くよーーー」


 取り敢えず難しいことを考えるのは止めよう。グランドパフェプリンの方が大事だし。あー…………本当にお腹空いた………………。

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