80.身の程知らずは身の破滅
そう言えば、と気になった事があったのを思い出して私よりはギルドに出入しているはずのアイシャちゃんにあることを確認してみる。
『アイシャちゃん、私たちの他に雨の森に討伐来ている学院パーティーあったでしょう?引率者のランク知ってる?』
「確かD+だったはず。でもそれだけあれば……」
『それがね。昨夜領主様との会談の結果、最低ランクがCに上昇しちゃったのよ。昨日は彼ら来ていなかったから多分今日辺り来ると思うんだけど……』
「あっちゃぁ……その事はギルドには?」
『報告書に併せて、一番最初に記載したよ、もちろん』
「代わりの引率を依頼されたらどうするの?」
『拒否するに決まっているじゃない。私たちは指名クエストの真っ最中なのよ?そんな余裕ないし、それに領主様の意向を無視出来ないでしょう?』
「あ、やっぱり?まぁ状況的にこれ以上足手まといは増やしたくはないわね。ま、そこら辺を考えて意図的に誘導する辺りウィンちゃんも腹黒だよね」
『失礼な事言わないで。無駄に散りそうな未来を回避させてあげただけよ』
「はいはい。そういうことにしてあげる。ところでみんなは?」
みんなは騎士団の訓練場で汗を流しているはずだよと伝えるとアイシャちゃんは様子を見てくるといって部屋から出ていったのだった。
『……ま、普通なら引き返してくれるはずなんだけどね。ただなぁ……』
あの温厚なクレアさんを引きつらせたり不真面目な態度を隠そうともしなかったりといった問題児たちはまた一悶着を起こしそうな気はする。引率者さんが誰かは知らないけれどまともな人ならこういう事もあるのだということを説明してくれるんだろうけれど。どっちにしても現状においてD+の引率者とE−−相当の学院生たちではあの森はもう危険すぎるのだ。
『ま、今の私はただの冒険者。彼らがどんな行動を起こそうと責任持つのはあっちの引率者だから関係ないわ』
ポーション飲んで精神的に疲れたしまだまだ眠いからもう一眠りしよう、そうしよう。私は柔らかな肌触りの羽毛布団をすっぽり顔が隠れるくらいに引き寄せて再び眠りの世界へと旅立ったのだった。
***
お昼時になりアイシャの容赦無い指導による訓練でへとへとになった一行が部屋に戻ってみるとウィンテルはまだ深い眠りに落ちたままだった。そこでウィンテルの食事は自然に目覚めてからお願いすることにして自分たちは先に頂くことして給仕してくれる人にそのようにお願いして、ゆっくり食事を終えたあとに隣接する騎士団の外来受付のある建物の方が騒がしくなり、暫くして女騎士さんが部屋に訪れた。
「おくつろぎのところ、失礼します。少々相談というかお願い事がありまして。ウィンテル様はいらっしゃいますか?」
「んー。まだ眠ってる。あの子の休養は妨げて欲しくないんだけど……あっちが騒がしいのと関係あるのかな?」
一応私もウィンちゃんの同僚でランクCの二つ名持ちなんだけど?とアイシャが水を向けると騎士は、代わりにお願い出来ますかとアイシャの了解のもと外来受付まで連れていくと。
「だーかーらー、責任者をだせっつってんだよ!偉いさんだかなんだかしらねえけどよ、ランクが足りないから森に入れないじゃ納得できねぇだろうが!」
「もうよしなよっ、何か事情が変わったんじゃないの?」
「骨折り損で頭に来てるのはわかるがもう少し冷静になりたまえよ、リーダー」
外来受付担当者の女性騎士に怒りの形相で立場も弁えずに食って掛かり怒鳴り散らしている学院生を真面目そうな神官の少女と吟遊詩人の男の子が間に入って宥めすかし引き剥がそうとしている。
「……確かにうちの管轄だな、こりゃ。ていうかこいつらの引率者は?Dランクの奴がいたはずだけど」
「あそこの暴れてる学生を真っ先に羽交い締めして取り押さえようとしたんですが、急所に反撃入りまして現在医務室送りです」
「…………情けなー……まぁいいや。迷惑掛けてすみませんでした。あとは黙らせますので」
「いえいえ。私たちは民間人に正当防衛や明確な罪状以外で手を出せないものですから助かります」
アイシャはつかつかと揉めている三人に歩み寄ると無言で右拳を握り締め暴れている戦士職の少女を派手に殴り付け床のうえに転がし倒す。
「ぐはっ!て、てめえなに、げはぁっっ!」
自分に向かって牙を剥こうと転がったまま睨み付けてきた少女にアイシャは威圧感を放ちながら更に容赦無く翻るスカートの裾から下着が覗くのも顧みずに思い切り反動を付けた渾身の蹴りをわざと少女の身につけている防具の装甲が一番厚いところに入れた上でダメージを通す。そしてその胸ぐらを掴んで引きずりあげてアイシャはとても静かな声で言葉を掛けた。
「……うるさい。ここは公共の場、静かにしなさい。……いいわね?」
「あんた誰だよ、お呼びでねーやつは引っ込んで、ぐがぁっ?!」
「立場を弁えなさい。貴女は礼儀も扱えない野蛮人?足手まといの実力もないくせに粋がっているわけ?」
「ぐっ!」
「私みたいな魔術師に素手やただの蹴りで動けなくなるようなひよっこのくせに何様のつもりなの?」
「がぁぁっっ?!」
「も、申し訳ありません!もうその辺で許してあげてくださいアイシャ先輩!お願いします!!」
先ほどの神官の女の子に必死に縋り付かれて懇願されたアイシャはようやく掴んでいた胸ぐらを解放する。
「…………彼女に免じてここまでにしてあげる。ただし私はウィンテル導師のようには優しくないからね。身の程知らずには容赦しないわよ?」
「…………………」
「返事一つまともに出来ないの?」
「わかったよ」
「ふぅん?やる気がないなら貴女、もう帰っていいわよ?」
「…………わかりました」
「よろしい。さてランクの件について教えてあげる。治安上の問題により雨の森周辺はパーティー内にCランク以上を含むと言う制限が、今朝から課されました。ですので現状あなたたちのランクでは入れないということです」
「それじゃあ私たちのクエストはどうなってしまうんですか?」
「新しく該当ランクの引率者を確保するか、別のクエストを受け直すか。いずれにせよ一度ラドルへお戻りなさい。ギルドにもこの事態は報告してあるから交渉次第では何らかの補償も引き出せるでしょうね」
アイシャにより精神的にも肉体的にもボコボコにされて大人しくなってしまった少女を治療しながら今後のことをどうするのかヒソヒソと話し合っているのを見ていて、もう騒ぎは起こさないだろうと考えたアイシャはギルドの引率者が運び込まれたという医務室へと足を運ぶ。
「…………何ド素人の制圧に失敗してるのよ、貴男」
「げ、魔女かよ。う、うるせえ」
「不用意に背後に立つから金的なんて貰うのよ……まったく」
「しょうがないだろ。まさかいきなり受付に突進するとは思わなかったんだよ、あの直情型戦士。あいつ、まだ卒業させない方がいいんじゃないか?」
「それについては同感ね。丸腰の私に一方的に制圧されるようじゃ話にならないし」
「……あいつ、女で良かったな……」
どこか遠い所を見るような目付きする男を尻目にふと何かに気が付いたアイシャはそれを確認する。
「そう言えばさ。あのパーティーって特殊技術職ていないの?見当たらなかったんだけど」
「あ?いや、いるぞ。こうなるとは思わなかったから北門から先に偵察に行くとか言っていたが」
「当然もう呼び戻しを掛けたわよね?」
「…………………………」
「…………………………」
「まさか、遠距離通話護符とか持たせないで行かせたとか?」
「ぴんぽーん、大当た、ギャー!」
「一回死んで来い、このバカ!」
アイシャはここから第二城壁北門への所要最短時間を概算で計算をするとその足で騎士団の通信部門に赴き、第二城壁北門に学院生らしき人物が来ていないか確認をお願いしたところ数分前には来ていたらしいことが分かった。許可証が無いため数分押し問答をしていたらしいが、「もう頼まない」と捨て台詞を吐いて立ち去ったという事が分かった。
「……凄く嫌な予感しかしないんだけど……」
けれども第二城壁門以外から外に出ることは飛行系魔術や転移系魔術が使えない限りは出来ないのだからと思い直し、東門と南門の騎士団にお願いして見つけたらすぐに戻るように伝えて欲しいと依頼したのだった。




