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Geister Kontinent   精霊大陸での日常  作者: うぃんてる
第一部 賢者の学院編
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74.領都レイニームーンへの道程

 翌日も澄み切った秋晴れの下を私たちは元気よくフォレスト地方の中心都市で陛下に代わりこの地方を治める領主様が居を構える領都レイニームーンへと足を進めていた。

 領都にはその地方を治めるための行政機関や犯罪を裁くための司法機関、そして治安維持のために騎士団本部が設置されていて俗に領都騎士団と呼ばれている。領都騎士団自体は王都騎士団の指揮下に入っているものの、通常の運営に関しては独立していて領都騎士団で手に負えない事案が発生したら王都騎士団から応援が派遣され、その指揮下に一時的に編入されるようだ。

 それぞれ地方を陛下に代わり治めている領主様方は一応貴族扱いで爵位を与えられてはいるものの、そこはやはりウィシュメリア。地方を治める以上の特権的な権力は与えられておらず陛下からの信任と統治能力を鑑みて爵位を与えられ、王都にいる貴族同様にそれを目安とした給与が支払われているとの事。ただ、爵位はだいたいが男爵か子爵がほとんどで伯爵を賜る人は滅多にいないらしい。帝国崩壊直後の南方三ヶ国に近い地域には辺境伯爵として二人程任命されたと歴史には記されているものの、現在のように平和な時代には不要だということだろう。


『今日は日が暮れる前には領都騎士団本部によりたいからお昼は適当な時間にホテルで作ってもらったお弁当を食べましょう』

「じゃあ街道沿いの自然公園だな。この時期なら一般市民は寄り付かないから丁度いい」

「そうね、特に今年は狩りの獲物が多いからあまり郊外には出ないように言われているはずだし」


 今私たちが歩みを進めているフォレスト地方は夜間は勿論のこと、昼間でさえもあまり郊外への出歩きは控えるように通達が一般市民に出されていると聞く。それだけ異常な繁殖が確認されているということで、目下ギルドの冒険者が必死に“狩り”をしている真っ最中。レベル帯的に余程のドジを踏むか致命的な不運でも掴まない限り死にはしないだろうけれど……本当に今年はどうなるのか予測が付かない。


『そう言えばラミエルちゃんの幼なじみの吟遊詩人バードの彼、確か同じ方向よね。やっぱり行き先も一緒なのかしら?』

「デュリーですか?そうですね、雨の森で巨大ジャイアント種を狩る事になったと言ってました」

『そう。……巻き込まないように上手くタイミングを外さないといけないわね』

「そうなんですが……んー、領都騎士団本部で得られる情報次第のような気がします」


 私たちの請け負った依頼は雨の森にて広がりを見せ始めた正体不明の濃霧がどこまでの範囲を覆っているのかの現地調査。さすがに原因究明までは求められていない。それは最低でもBランク以上のパーティーのお仕事だろう。

 パーティーといえば暗殺者サンドラが雇ったという人達はどういう構成なのかが気になるところだけれど今のところそれっぽい人達は見かけていない。マリア先輩は専門家が、と言っていたから特殊技術協会の探索者だとは思うのだけど。情報が足りない。


「先輩、そろそろ良い時間になるけど……どうする?近くにあるにはあるけどあんまり雰囲気良くないぜ?」

「ちょっと品の無い方々がいらっしゃるようです、ウィンテル様」


 魔法語魔術師のセレスちゃんが使い魔の黒猫を先行させて自然公園の状況を探ってくれていた。待ち伏せ、されているみたいだ。


『どれくらいいるの?見た目は?』

「男性ばかり六名でしょうか。戦士、神官戦士、弓使い、魔法使いが二人……多分魔法語と精霊語だと思います。それと最後は短刀ダガーを弄んでいますね。足元には酒瓶が転がっているように見えますけれど…………」

「行ったら間違いなく絡まれるわねぇ、ミランダたち可愛いからね」

「それは俺もだぞ、ラミエル。ぱっと見てどー見てもハーレムパーティーだしなぁ…………いい加減慣れたけどな」

『ドゥエルフ君頑張って』


 ドゥエルフ君のぼやきにみんなが声を上げて笑う。さて、どうするべきだろうか。私とエレン達は一食くらいなら遅らせても大丈夫だけれどミランダちゃんたちはどうだろうか。作ってもらったお弁当はサンドイッチだから最悪食べ歩きもありだけど……。


「ウィンテル様。私たちは食べ歩きでも大丈夫ですわ、こちらに来てからエレン先輩方と何度か食べ歩きを経験致しましたから。最初は……行儀悪いと思っていましたけれども、今は楽しさを理解しています。さすがに食べないのはわたくし達には厳しいですので……申し訳ありません」

「じゃあ食べ歩きにしよっか。リリー、ドゥエルフ君、それからセレスちゃん。みんなに配って?」


 それにしても、だ。もしも彼らがくだんの雇われパーティーだとするならば目的は一体何だろう。偵察されることは可能性の一つとして向こうも想定しているだろうし、恐らくあの酒瓶は欺瞞だと思う。さすがにこんな昼間から飲んだくれているのはおかしいし、今年は危険すぎるから。

 ……とすれば考えられるのは監視、かな。手段は使い魔による……あ。


『みんな、悪いけど今から外にいる間はフードを深く被って貰える?敵側の使い魔による監視が考えられるから。それから不自然な小動物には気を付けて』

「成る程、それには気付けなかったな。しくじったか」

『セレスちゃん。貴女の使い魔はもう戻した方がいいわ』

「あ、それは間もなく……戻りました。お帰りなさい、ミーシャ。お疲れさま」


 セレスちゃんの使い魔は毛並みがとても綺麗な雌の黒猫で、セレスちゃんの労いに小さくにゃあ、と鳴くとその左肩にちょこんと陣取った。可愛いなぁ、私も欲しいなぁ。

 そう思いながらさりげなく辺りを見回してみるけれど特に不審な物は見つけられない。となれば後は上空……かな。ポシェットからお化粧に使う手鏡を取り出して化粧を確認するかのように装って空を確認してみたら。


『……さ、出発しましょうか。それから空は余り見ないで。上空にそれっぽい鳥がいるわ』


 正直なところ上空から監視されるのは厄介ではあるものの、建物の中まで入って来られない点では少しホッとする。それから夜間は使い魔による視点が使えないというのも気分的には楽になれるところだ。

 今回の旅立ちにあたり旅装としてみんなには既製品ではあるけれども湿気や水分を弾く効果の付与魔術を付けたフード付きコートをプレゼントしていた。これがあれば万一雨が降ったり濃霧に長時間包まれたりしても下に来ている衣服や下着まで濡れることは無いので、冒険者でなくても特に一般人の女性に人気がある優れ物なのだ。私たちが着ているのは冒険者仕様なので男女共用の機能性重視の品物だけれども一般向けは男女別々に生地や見た目などを変えたファッション的な物が販売されていて冒険者仕様よりも少しだけ値が張っている。とはいえ買えないお値段ではないけれどもね。

 明日以降の探索で役に立つだろうと考えて揃えたコートだけど、まさか今から役に立つなんて思っては見なかったよ。ホント。フードを被った事で上空からなら誰が誰なのかは見分けが付かなくなったはずだし、深めに被っているから単純にすれ違ったくらいでは分からないはずだから。色も同じ色だしね。


***


一方、自然公園の森の中では雇われたパーティーの男たちが苛立っていた。



「おい、まだガキどもは来ないのかよ?」

「あぁ、もううるさいですねぇ。得物を振り回すしか能が無い能筋は黙っていてください。気が散ります」

「んだと?こら。もやしみたいなヒョロ長エルフ野郎のくせにやんのか、ゴルァ」

「……そこまでだ、ケレス、フューリー。少しは落ち着きを見せろよケレス。そんなだから女房に逃げられるんだよ。フューリーもだ。あんまり毒吐くな、闇討ちされても知らんぞ?」


 なかなか自然公園にやってこないウィンテルたち一行に痺れを切らしたサンドラに雇われたパーティー《失われた希望》は魔法語魔術師であるフューリーの使い魔、鳶を使って上空から一行を探索させていたところだった。


「それにしても今回は楽な仕事ですな。女二人を殺したあとは残りのガキどもで楽しんでいいそうじゃないですか。しかもお貴族さまときたもんだ、ヒィヒィ言わせてヤりますぜ」

「だが油断はするな。地下図書館の司書が付いているということはそれなりに脅威だからな、不意討ちできるかどうかが鍵だ。頼んだぞ?マーク」

「へぇ、ガキども程度に遅れはとりませんよ」

「……見つけました。悠長に何か食べ歩いていま…………ちっ。こちらの存在に気付かれましたね。リーダー。あいつら一斉にフードを被りました」

「んだとぉ?なんで俺たちの存在がばれるんだよ、朝一番に出てここに陣取ったていうのによぉ!」

「…………使い魔ですね。小さな生き物らしい生命の精霊反応が急激に離れていってるようです」

「ケレス、うるさい。でそれは確かなんだな?トーマス」

「多分猫か何かだとは思いますけど」

「あっ、じゃあさっきまであそこらへんにいた綺麗な黒猫ちゃんかな?」

「…………おい、気付いていたなら早く言えよ。こんなところにそんな猫がいたら使い魔を疑えよ。治療してやんねぇぞ?レンジャーのくせに役立たずだなロラン」

「すいません、勘弁してくださいクレストさん」

「しょうがないな。フューリーはそのままトーマスに足元補佐されながら監視しろ。あとを追いかけるぞ。襲撃は取り止めだ、行くぞ!」



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