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Geister Kontinent   精霊大陸での日常  作者: うぃんてる
第一部 賢者の学院編
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71.宿場町

 状況が状況だけに、と私たちは初日の休憩時に口にする飲食物を事前に用意してから出発してきたのでそれらを口にしながらマリアさんからの連絡を待ちつつ、外にいる暗殺者サンドラにも気を配りながら待つこと少し。


《コン、コン》

「失礼します。メッセージをお届けに参りました」

「あぁ、ありがとさん。ドアの下の隙間から入れてくれないか?」

「畏まりました、どうぞ」


 ドゥエルフ君の応答にお店の人と思しき若い女性の声の主は二つに折り畳まれた紙片をすっと差し入れて戻って行く。差し入れられた紙片は近くに座っていたセレスさんが拾い上げてそのまま私に渡してくれたのでお礼を言って受け取り中身を見る。


『……なるほど、ね』


 紙片にはたった一文。[あとは引き受けた。裏口より出発されたし、料金支払い済み]とだけ書かれていたのだった。私は紙片をラミエルちゃんたち四人にも見せると出発の準備をミランダちゃんたちに促す。


『さ、そろそろ出発しましょうか。日暮れ前には今日の目的の宿場町にたどり着きたいわ』

「事情により裏口より出ることになる。店の人間に話は付けてあるから気にするな」


 ドゥエルフ君の事情があるという言葉に疑問をぶつけることなくミランダちゃんたちは素直に受け入れて静かに返事を返すと、若干気を張りながら準備を済ませリリーちゃんとエレンを先頭にゆっくりと、そして静かに部屋を退出していく。窓際で外の様子を私とラミエルちゃんで最後まで窺っていると途中で一瞬だけサンドラからこちらを窺うような視線を受けた気がしただけで、それ以外のリアクションは受けることなく私たちは再び街道を北上し始めたのだった。


***



 街道沿いには領主様の治める街の他に先ほど休憩したような施設中心の小規模な集落と、その集落がさらに発展した宿泊地としての宿場町がある。いずれも陛下が任命する領主さまという存在がいないのが一つの特徴で、代わりに治安や何かの問題が起きた場合の対処を行う組織として存在するのが最寄りの街から派遣されて駐屯している騎士団分隊や小隊である。まあ、異世界日本でいう警察みたいなものではあるけれど、あちらみたいに平和ぼけした世界ではないので常に武装している。また、市街地での止むを得ない状況における戦闘行為は騎士団や冒険者、神官戦士団であれば許可されているものの原則魔法は使用禁止で、唯一認められているのは治安維持担当の騎士だけと言うことになっている。けれどもたとえ法律で禁止されていようと使う人間は容赦なく使ってくるので荒事に関係の無い一般人でもないかぎり油断は禁物だ。


「それにしても今年はモンスターの大量発生の影響があるからか、いつもより駐屯している騎士さまたち、多かったですね、先輩」

『だから私たちみたいなアマチュアが駆り出されているのよ。本来なら騎士団からも“狩り”への応援があるはずなんだから』

「……そうだね。今年は騎士団、完全に防衛主体になっちゃったね、お姉ちゃん」


 道すがらリリーちゃんの疑問に私はギルドが苦渋の判断でアマチュアを投入するという暴挙をしてまでも騎士団には防衛に専念して欲しいのだ、ということを説明する。特に騎士団は拠点防衛も“狩り”のような戦闘系クエストも、そして平和な世の中になって久しいけれど国家間戦争もやろうと思えばできる集団戦闘のプロ中のプロだけれども、私たち冒険者は特に拠点防衛には不向きだ。ならばこういう緊急事態において求められるのは役割分担だと言うことなのだろう。


『そう言えばミランダちゃんたちはコッタンからウィシュメリアまでどうやって来たの?』

「徒歩で、という訳にはいきませんので基本的には大使館の外交官の方と、その護衛の騎士団の方々と一緒に馬車や船などで、です」

『学院の転移陣テレポーターではないの?』

「それも一つの選択肢ではあったのですが、せっかく国外に出るのですから道中にあたる魔法王国ケイオスや海上王国シャーキンの風土や情勢、雰囲気を見ておくのも悪くないかなって思いましたの」

『……なるほど、ミランダちゃんのお父様の影響なんだね?』

「はい。お父様は今の地位に就く前までは、若い頃は各国にて外交官を、それから外務大臣をなされておりましたから……」


 私は前世でもこちらでも病弱だから外国旅行というものを一度たりともしたことはない。前世に至っては国内旅行すらしたことがないのだ。修学旅行はもちろん身体を壊して入院しているくらいのお約束っぷりだったしね。もしかしたら比較的元気だったと葉月ちゃんに聞かされている幼少の頃にお出掛けしていたのかもしれないけれど、残念なことにその頃の記憶はほとんど思い出していなかった。


『いいなぁ。私も国外旅行してみたいなぁ。前世なんてほとんどベッド生活だったし……』

「まぁまぁ。今はこうやって普通に冒険できるんだからいいじゃない、お姉ちゃん」

『そうだけどさ。うぅ。家族旅行したい……』


 ちょっとしょんぼり気味になった私をエレンが慰めてくれて嬉しく思いつつも、いつかは家族で観光旅行とかしたいなぁと心に誓い周囲の旅人たちと共に歩き続けて日暮れ前には予定していた宿場町に到着し、予約しておいたホテルにチェックインすることが出来たのだった。

 ところで本来の冒険であれば宿泊する場所はもっと値段の安い宿屋か冒険者が集うような居酒屋付きの安宿を利用して経費を抑えつつ、ついでに情報収集といきたいところなのだけれども。今回に限ってはセキュリティの安全性が高いホテルを利用する事に決めている。

 理由は第一に若い女の子しかいないうえに未成年ばかりなので酒の席はそぐわないということ。特に貴族に対する価値観や考え方が国外と全く異なるので面倒ごとは極力回避したい。そして第二に魔法使い系が多いこのパーティーは更に実戦経験が足りていないため、夜間の睡眠ぐらいはしっかり取らせないといざというときにかなり怖い。それから見知らぬ他人から夜這いされたなんて話もちらほら聞くのでみんなの貞操は守ってあげないと。


『ま、一番の理由は……お部屋ごとにゆっくり入れるお風呂がついてるから、なんだけどね……とはいってもさすがに最上階のワンフロア貸し切りはやりすぎだと思うんだ、お父さん』


 滅多に泊まることが無いみんながやや興奮気味にはしゃいでいる様子を視界の片隅に収めながら私はここにはいない人物にため息を盛大に吐きながらツッコミを入れていた。ギルドを通して私たちの素性と宿泊時の要望は伝わっていたらしくなるべく人目につかないように小分けに案内してくれたのはいいのだけれど、まさかこんな大部屋というか、これ、豪華過ぎるでしょう?!そりゃ確かに表向きは外国の貴族令嬢たちとその護衛という設定にしたけどさ。頭痛くなってきたよ…………。


「お姉ちゃん大丈夫?取り敢えず部屋割り決めたよ。寝室は全部で四つあったから、私とリリーとラミエルで一つ。ミランダちゃん以外のコッタン組で二つ。最後のお部屋はダブルベッドしかないからお姉ちゃんとミランダちゃんで使って。ドゥエルフ君はバルコニー近くのソファーで休むって言い張るので、その代わり一番風呂は譲ったから」

『……はいはい。ドゥエルフ君らしいわね。了解よ』


 一応バルコニーに通じる出入口や窓などは寝る前に“強化施錠ハードロック”の魔法語魔術で侵入されないようにするつもりだけれども念には念を入れて警戒しながら仮眠するつもりなのだろう。……単純に女性陣に気を遣っているだけかもしれないけれど。

 ただ、何事も経験なのは間違っているわけではないので致命的な問題点が無い限りは見守るつもりでいる。さすがに私の受諾した指名クエストに差し支えがある場合は介入させてもらうけれど。文字通り生命の危機になるわけだしね。


『私はちょっとギルドの人にこのホテルで会う約束があるから一時間くらい離れるけれど、みんなはこのフロアから降りないでね?何か問題が起きたらラミエルちゃんに渡した遠隔通話護符コールのアミュレットで連絡して』

「はい、先輩。行ってらっしゃいです」

『じゃあ、またあとでね』


 私はフードつきの学院紋章刻印の入ったローブを羽織りフードを深めに被って顔を隠したあと、専用のキーワードで発動する転移陣テレポーターから一度フロントロビーへ降りると予め指定されていた貸し切りの会議室へと足を運んだのだった。

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