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Geister Kontinent   精霊大陸での日常  作者: うぃんてる
第一部 賢者の学院編
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6.秘めた想い

最終改稿2014/08/25

 翌朝。あの不思議な女の子の言った通りに体感としてあれだけすっからかんだった魔力も精神力も半分くらいに回復していた。

 快晴の青空に昇り始めた暖かな太陽から差し込む光が私を柔らかく包んでくれる。


「……あの女の子はいったい……。よく、分からない、な…………」


 私の前世を知っていると思われる女の子。あの口振りだとその前の前々世すら知っていそうな感じだった。


「なんだか、怖い……な……」


 大きな羽毛枕をぎゅっと両手で抱きしめる。そうしてそのまま再びベッドにコロンと横たわる。魔力や精神力は回復が進んだとはいえ、体力や疲労に関しては大して回復してはいない。むしろ昨夜の異様な情景にショックを多少なりとも受けて何とも言えない気怠さが身体を包んでいた。


「お姉ちゃん、おはよー」


 エレンが私の部屋に白いシンプルな寝間着のまま元気に挨拶しながら入ってくる。


「おはよう、エレン。……寒くないの?そんな格好で……」


 季節は春とはいえ、ウィシュメリアの朝晩はまだまだ冷える。国土の周囲を標高の高いシャープル山脈に囲まれ、王都の目の前には澄んだ青々としたバハル湖が広がり冷えた湖風が気温に影響を与えてくる。


「う、そういわれるとちょっと肌寒いかも……」

「まったく、もう。いくら身体を私より鍛えていても、風邪引く時は引くんだから……ほら、おいで」


 そういって私はエレンをベッドに招き入れ身体を寄せ合う。しかしエレンの身体はちょっとどころか驚くほどにかなり冷え切っている。


「……エレン?何してたの……?」

「何にもしてないよ?」

「起きてすぐにこんなに冷えるわけないじゃない。白状しなさい」

「お外眺めていただけだよ……?」

「本当に……?」

「うん、お姉ちゃんに嘘付いたら後が怖いもの……」


 何かを隠している気はするけれど、その瞳は嘘を付いてるものではなかったので追及することはやめた。


「それよりお姉ちゃん。昨日はぐっすり眠れた?」

「うん。何かよく分からないけれど結構回復できてるみたい」

「それじゃあ満月の女神、エリシア様のおかげだね」

「あれ?エリシア様って光の……じゃなかったっけ?」

「うん、そだよ?新月の男神はエリシア様のお兄さん。アルカイト様だよ」

「あれ、そうだったっけ……?」

「うん。お姉ちゃん知らなかったの?意外…………。ほら、お月様って満ち欠けするでしょう?あれはシスコンのアルカイト様がエリシア様の後ろをいつも付いていくからなんだって~」

「…………本当に?」


 凄く嘘くさいんですけど。いや、確かにアルカイト様が妹神のエリシア様を凄く大事にしているという伝承は良く聞くし、神殿の巫女様達もそうお話ししてくれるけれど……。確かめようが無いしなぁ……。


《コンコン》


 ドアがノックされヨハンがドアの外から声を掛けてくれる。


「お嬢様方、朝食の支度が出来ましたので食堂の方へお越しくださいませ」

「「はーい」」


 部屋備え付けの振子時計を見ればちょっと定刻を過ぎてしまっている。エレンを部屋に戻して着替えさせ、私はどうせまたお布団生活だからと寒くないように上着を羽織ってエレンの支度が終わるのを待って食堂に向かうことにした。


***


 質素だけれども栄養たっぷりな朝食をいただいたあと私は昼食まで読書をしようと思っていたのだけれども、昨夜のことがあってか小さな欠伸をしてしまったところをお母さんに目敏く見つかってしまい、きちんと睡眠を取るように言われてしまった。とは言うもののそんなには眠くはないため、エレンの登院をバルコニーから見送った後にベッドに腰掛け、昨夜の出来事に思いを馳せる。


 昨夜の少女との会話で分かったことはかなりある。まず、一つ目は私の前々世はこの世界の人間で死んだあと異世界日本に転生し、そしてまたこちら側へ転生したらしいこと。二つ目は、“フラウ”と話ができる……つまり最低でもウィザードかシャーマン、フェンリル神官であること。三つ目は、凍り付いた忌まわしき廃都ギルドギダンにてお父さん達が彼女と何らかの関わりを持っていることから見た目通りの年齢ではない、つまり人間以外の長寿種族であること。四つ目、歴戦の実力者で二つ名持ちのヨハンが本気で警戒するほどの実力者であること。


 …………うん、ヒント多過ぎ。


「あの女の子に心当たりは……一人だけ、ある。あるけれど……ありえなさすぎるよ。うん、たぶん気のせい……だと、おもいたい、な。あはは…………」

「まさか、ご本人だなんてことは……私の平穏の為に勘弁シテクダサイ」


 本当に勘弁して欲しい。わりと本気以上で。これ以上二つ名いらない。増えても困る。私は普通の生活がしたいんだから。それに私には叶えたい夢がある。誰にも言えない、言ったとしても信じて貰えそうにない夢がある。けれどももしこの夢が叶ったなら、きっと私は幸せになれると思うんだ。その片鱗を私は異世界日本でほんの少しだけ感じることができた。今は胸に秘めざるを得ない夢物語だけど、いつかきっと叶えるんだ。だからそのためにもこの平穏はまだ続いてほしい。


《けれどもその夢を叶えようとしたら、間違いなく貴女の平穏はなくなるわ。それでもいいの?》

「っ!?」


 頭の中に突然声が響く。


《貴女の嫌う二つ名も間違いなく増えるわ。それに命の危険もある》

《貴女の大事なものが壊されるかもしれない。…………それでも求めるの?》


 いやだ。私の大切なものは壊したくない。壊されたくない。私が壊されるのは構わないけれど…………。けれども永い間追い求めてきたこの夢は叶えたいの!永い間彷徨って、いつもひとりぼっちで、もうこんなのはいやなの!

 あの世界で最後の最後に掴んだ微かな光。ようやく見えた、掴んだ糸口。

 だから、だ、か、ら、叶えたいの………………


***



「…………テル?ねぇ、ウィンテル、どうしたの?何か悲しい夢を、みたの?」

「…………え、あ、おかあ、さん……?」


 いつの間にか眠ってしまっていたようで、太陽はすでに天頂を越えかかっており、柔らかな春風に乗って中庭から美味しそうな匂いが漂ってきていた。そんな中私は、私の隣に腰掛けたお母さんにそっと優しく抱き抱えられており、すらりとした細くきれいな指をしたお母さんの手のひらで赤子をあやすかのように髪の毛を撫でられていた。


「大丈夫?今日はいい天気だから中庭で、と思って用意して貴女を呼びにきたら……貴女が辛そうな、悲しい表情で泣いていたのよ」

「………………うん、そうなのかもしれない。でも良く覚えてないの」


 私は嘘をついた。大好きなお母さんに、嘘をついた。本当に胸が苦しくなる。けれども……本当のことなんて言えない。言えっこない。


「そうなのね。でももう大丈夫よ?私がそばにいるからね。さ、お顔と手を洗っていらっしゃい?可愛いお顔が大変なことになってるわ」

「ありがとう、お母さん…………。ねぇ、今日は夜まで一緒にいてもいーい?」


 お母さんに渡されたハンカチで涙と鼻水で塗れた顔を拭いながら久しぶりに甘えてみる。


「ええ、いいわよ。たまには母娘でガールズトークも悪くないわ。じゃあ待っているから早く支度していらっしゃい?私の可愛いウィンテル」


 そういうとお母さんは最後に私を軽く抱きしめてから前髪を掻き上げて額にキスをしてくれた。私はそんなお母さんを見上げてようやく笑顔を取り戻して支度をし直し、大好きなお母さんの待つ中庭へと降りていった。


***


 久し振りの楽しい、お母さんと二人きりの食事のあと、私は先にヨハンに用意だけしてもらったティーセットでお母さんと二人分の紅茶を淹れてくつろいでいた。楽しいひとときが終わる、その少し前にお母さんが優しく微笑んだまま、私に思いもしなかった話を切り出した。


「ウィンテル。貴女が何か悩みを持っていて、苦しんでいることは……私もお父さんも、多分エレンも……知っているの」

「けれども貴女は我慢強くて心優しい子だから、私たちに迷惑を掛けないように、その小さな胸の中に秘めているのよね?」

「貴女はフェンリル様の加護を生まれつき授かっている難しい立場にいることは分かっているから…………私たちは貴女の事を見守り、癒し、庇うことしか出来ないけれど……」

「もしも、貴女が心の底から助けがほしいなら、構わないから私達家族を巻き込みなさい。遠慮なんてしなくていいから。……ね?」

「…………お母さん、ど、う、し、て……?」


 呆然と、けれどもうれしくて溢れる涙をこぼしながら聞き返す。するとお母さんはにっこりと笑いながら心配することなんてないのよと応えてくれた。


「あのね、ウィンテル。お父さんは現役の英雄候補で二つ名『氷風の使い手』持ちの高等精霊語魔術師。お母さんは引退したとはいえ、二つ名『魔炎の申し子』持ちの高等上位魔法語魔術師ルーンマスター。ヨハンは二つ名『武神』の元守護戦士。エレンはまだ戦闘技術は未熟だけど神官戦士としての腕も才能もあるわ」

「そして貴女は……その歳で二つ名『魔術の申し子』『生ける伝説』を持つ初等精魔語魔術師、そして秘密が神殿に漏れれば間違いなく『神々の恩寵』がつくような子なのよ?言うつもりも漏らすつもりもないけど」

「……こんな化け物が揃った家族なんて早々いないわよ」


 何ていうか、何も言えなかった。多分間抜けな顔をしているだろう私の額をお母さんは人差し指で軽くつつくと、


「だから、私達は貴女が話す気になるまで待つわ。私達が必要なら迷わず使いなさい。それが貴女の幸せに繋がるというならば……それが私達家族の幸せに繋がるのよ」


 フェルリシアは紅茶を一口飲んで喉を潤すと席を立ち、愛する娘を背後から抱き締めるとそのまま耳元で囁いた。


「たっぷり悩んで、じっくり考え抜いて、フェンリル様の教義に従い力を尽くしなさい。………大丈夫、私達はいつでも貴女のそばにいるわ」

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