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Geister Kontinent   精霊大陸での日常  作者: うぃんてる
第一部 賢者の学院編
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62.クエスト

 翌日。私は再び冒険者ギルドに赴きクエストカウンターの受付で学院時代から顔見知りのクレアさんに頼んでここ数週間の依頼状況と達成状況を確認させて貰っていた。


『……これ。ずっとこのような状態なのですか?だとすれば少しどころではない違和感がありませんか?』


 違和感の正体はそのモンスターの討伐総数だ。例年の倍だなんてものじゃないくらいの個体数がまだシーズン半ばにして討伐されている。これじゃあユールシア支部が悲鳴をあげるのも頷ける。そして他国支部がウィシュメリアに派遣する余力が無いことも。


「はい。ギルド上層部ではすでに調査に入っていますが、討伐の方を優先せざるを得ない状況に追い込まれておりましてなかなか手掛かりを掴めないようです」


 そう、クレアさんは言いながら私に向けて一通の依頼書を差し出して来た。


『これは?』

「ギルドから王立地下図書館司書でもある貴女への調査依頼書です。期限は特にありませんが出来るだけ早くとは言っておりました」

『ああ、成る程。過去にこういった異常繁殖が発生したかどうかを知りたいのね』

「はい。現状地下に潜れそうなフリーの実力者が導師以外にいらっしゃいませんから……報酬は必要経費と地下探索契約に基づく危険手当て、入館記録に基づく日当に成果報酬になります」


 ただし、最優先は指名クエストですので無茶や無理をする必要はありませんから。と穏やかに微笑んでくるクレアさんに私は、そういう事ならと受諾のサインを記入して書類をクレアさんに手渡した。


『ところでクレアさん。学院生徒に出す予定のクエストはどの地域になる予定なのですか?』

「まだ確定事項ではありませんが、学院事務局の要望に沿う形で王都近郊北西エリアになると思われます」『……除外地域は?』

「今のところ設定されていません」


 クレアさんにお礼を言ってギルドの建物を出たところで私は軽くため息を吐く。


『……万が一に備えて置いたほうが良さそうね。今度こそ正夢にさせちゃ、いけないから』


 異世界日本あちらのせかいで過ごした日々の思い出のうち、秋川神社の七夕の日に真理さんから初めて聞いた“未来視”のお話は結局変わることなく、人生の大半を残して私は死んでしまった。マリア先輩が仮に真理さんの転生後の姿だとして未来視の異能ちからが予知夢という形として働いているのだとしたら。……私は今度こそ未来を切り開いて見せなくちゃならない。きっとそれだけの能力はすでに手に入れているのだから。


『可能性として考えるのならば、私は避けられないのではなくて、誰かを庇って避けないパターンなのかな?おそらく。だとすれば……』


 そこまで口にしながら考えてふと何かの視線を感じて私は口を閉ざす。周りをさりげなく見れば丁度休憩時間なのか多数の学院生徒や職員が付近を歩いている。


『……?』


 先ほど感じた違和感を伴う視線は一度は付近の雑踏に紛れて消えたものの、再び私の背中にかすかに刺さっている。強く凝視するような感じではなく間に何人か挟んでいるようなさり気ない感じで。

 一瞬の見渡しではあるけれども視界内にいたのは学院生徒と学院職員、幾人かの顔馴染みな冒険者たち。地下図書館が結界修繕中のために休館中なので一般市民は居なかった。


(……監視、いえ……観察されて、いる?)


 当初の予定どおりに特に歩む速さを変えることもなく王立地下図書館へと歩きながら私は自分の後ろ姿を彷徨う視線に違和感から居心地の悪さ、そして気持ちの悪さを感じていた。


(今年の学院生徒の中に身元不審者はいなかった。ギルドの関係者でもない。とすればくだんの臨時採用された学院職員……かな)


 問題は何の目的で私を観察しているのか。ウィザードになったばかりのころは物珍しさから注目を浴びたが今はそんなに見られることもなくなった。では異性としての視線かとしてもまんべんなく感じる視線が気になる。第一、私は病弱なせいか健康的な肌色というよりは白く、何より私よりスタイルのいい女の子は他にたくさんいるし。そうこうしているうちに私は図書館に着き出入口にて一般市民に説明するために立哨りっしょうしている同僚司書さんに声を掛けられた。


「あら、ウィンちゃん。どうしたの、今日は」


 話しかけられたと同じくして私の後ろ姿にまとわりついていた視線がそっと消えていくのを感じて私はその同僚に後ろを振り向いたりしないまま小さな声で確認を取る。


『ねぇ、私の後ろの方に誰か付いてきてたかわかる?尾行されてたっぽいんだけど……』

「……んー。それっぽいのは三人くらいかしら」

『その中に学院職員みたいな人はいた?』

「一人だけ。あとで特徴教えてあげるわ」


 流石はベテラン冒険者。私の僅かな情報量だけで状況を理解してくれた。そのうえで対象となりそうな人物をざっと識別してくれるとか、本当に助かるなぁ。


『レックスさんはお部屋ですか?』

「ええ、そうよ」


 声を潜める必要性がない司書長さんの所在確認のやり取りを境に少し近況を交えたお喋りを交わしてから私はロビーに入り、目的の場所を目指して関係者専用階段を上がっていくのだった。


***


《コン、コン》

『司書ウィンテルです。いらっしゃいますか?』

「ああ、開いている」

『失礼します』


 一時は処理しきれない書類の山に侵食されきっていた司書長室も優秀な処理能力を備えた葉月ちゃんの活躍ですっかり駆逐されて、綺麗に整理整頓された執務室に戻っていた。レックスさんはその部屋の中で新しくセッティングされたテーブルセットで昼飯片手に書類を読んでいるところだった。


「どうした?何か問題でもあるのか?」

『二つほど。一つはギルドからの依頼なんですけれど』

「そうか。まあ、座れ。飲み物は好きに淹れてくれ」

『えぇ』


 勝手知ったるなんとやら。以前隣室に居座って作業していた時のように慣れた手つきで置きっぱなしにしておいたカップにお茶を淹れてレックスさんの向かいに腰掛ける。


『それ。……葉月ちゃんの差し入れですか。たまには自分でお弁当作るなりしたらどうです?ただでさえ激務続きなんですから。栄養偏って倒れますよ?』

「無茶言うな。その激務だからこそ疲れ切って作る余裕など無いぞ。……まぁ、ハヅキには感謝しているがな」

『まったくもぅ。じゃあ次からレックスさんの分も作って来ますよ。あとでシフト表くださいね』

「おぅ、サンクス」


 私は黙ってお茶を飲みながらレックスさんの昼食が終わるのを待つ。葉月ちゃんが最近お弁当をたまに一人分以上を作っていたのは知っていたけれど、やっぱりレックスさんの助手みたいな事をやっていて気になってしまったんだろうなぁ。顔色一時期悪かったしね。


「悪い、待たせたな。それで起きた問題を言ってみろ」

『ギルドから今回の異常繁殖について過去にも起きていないか調査して欲しい、と。原因と結果、ですね』

「つまり、探索許可か。まぁ、お前ならなんとか大丈夫だろう。少し待て」

『ありがとうございます』


 通常であるならば王立地下図書館司書であり、ギルドの依頼も受けている立場ならわざわざ司書長直筆の探索許可証は必要ないのだけれども。今の図書館は非常事態宣言が出されている甲種警戒態勢と同じレベルにある状態で探索制限が課されている。何せ、普段なら安全とされているエリアにでさえも歪みが発生するため、図書館の全戦力は最終防衛ラインでの警戒及び迎撃に付きっきりで、地下で誰かが遭難しても救援にいく余力が皆無なのだ。だから探索許可が必要になっており、最低限自衛か自力脱出ができる人間にしか発行されることはない。


「よし、これでいいだろう。だが無理をするんじゃないぞ?最悪逃げてこい。防衛ラインは死守しているからな」

『はい。分かっています』

「それでもう一つの問題とは?」

『はい。……実は…………ギルドからここに来るまでの間、学院職員らしき人物に尾行・監視を受けました』

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