34.神隠しの少女と記憶のかけら
最終改稿日2015/04/11
「こんにちは燐ちゃん。今日は……元気そうだね?」
「こんにちは、愛ちゃん。いつもお見舞い来てくれてありがとう」
ようやく高校生になれたと思ったのに再び私は体を壊して入院してしまった。
今日も学校帰りに幼なじみで小学校からの親友である秋川愛ちゃんが学校のお話しをしに病室へと来てくれていた。
「そう言えば今日は葉月ちゃん、一緒じゃないの?」
夏海葉月ちゃん。愛ちゃんと一緒でやっぱり小学校からの親友だ。いつも大体この3人で遊んだり勉強したりしている。部活も同じで料理部に所属しているくらい、何をするにしても一緒だった。
「うん……。その、ね。気をしっかり持って聞いて欲しいの」
「…………え?」
「葉月ちゃん、今朝お家を出てから、行方不明、に、なっちゃったの……」
「え………………」
「それも、ね。まるで、神隠しにあったみたいに……消えちゃったんだって……」
「そん、な…………」
堪えられなくなったのか、愛ちゃんはポロポロと涙をこぼして押し黙ってしまった。私はゆっくりと上半身を起こすと愛ちゃんを手招きして両腕でそっと抱きしめ、嗚咽を漏らす愛ちゃんを抱きしめたまま大人しい性格の葉月ちゃんの身を案じて静かに涙をこぼした。
この事件は目撃者も多数いたことから大々的に報じられて警察も専従捜査班を編成しかなりの年月の間捜索が行われたものの、葉月ちゃんの行方は依然として判明しなかった。目撃者達の証言はいずれも、まるで空間の中に飲み込まれるように消えてしまったのだという。葉月ちゃんの様子も取り乱した感じはなく普通に歩いていて何も問題が起こっているというようではなかったらしい。
(空間に飲み込まれただなんて…………まるで…………歪み……)
(歪み…………?)
私はふと、瞼を開いた。そして見慣れた自分のベッドの天蓋を目にして今までのことが前世の夢だと思い至る。
「…………ゆめ、か……」
「……おねえちゃん?」
疲労の色濃い憔悴した表情のエレンが私の方を呆然と見ている。私が視線を向け小さく頷くとエレンの瞳にはたちまち大粒の涙が溢れ出しボロボロと涙をこぼし始める。
「おねえちゃん……よか、った。本当に……良かった……」
「……心配させて、ごめん、ね……」
「せんぱい。おき、て。おねえ、ちゃん……が……」
「……ん。…………ウィンちゃん……?」
エレンが泣きながら側のソファーでいつの間にかに眠っていたらしいアイシャちゃんを軽く揺すって起こすと最初は寝ぼけ眼だったアイシャちゃんも私の視線を感じて意識が覚醒したのか、私の横たわっているベッドの方へふらふらとよろけながらも歩み寄ってきて枕元で膝立ちに腰を落として涙声で私の顔を覗き込みながら言葉をぶつけてきた。
「ばかっ……ウィンちゃんの、ばかぁっ。どうし、て……こんな、無茶、したのよっ!」
「……ごめん」
「ほんとうに、しんじゃうとこ、だったんだよっ」
「……うん」
「もう、いやだよ……だいじな、たいせつなっ、おともだちをなんどもなくすなんて……したくないよっ」
「……ごめん、なさい」
「もう、ひとりで、無茶、しないでっ、わたしを、おいていかないでっ……ひとりぼっちに、しないで……よぉぉぉぉ…………!」
最後は私の胸元に掛けてある毛布に縋り付いて大声で号泣し始めたアイシャちゃんに私はただ、ただ、謝るほかできなかった。
いつの間にか席を外していたエレンは多分他の人を呼びに行っていたのだろう。程なくして同じく疲労で憔悴しきったリリーちゃんとミランダちゃんが部屋に入って来て私が少し困ったような微笑みを2人に向けるとやっぱりヨロヨロとおぼつかない足取りでアイシャちゃんとは反対側の枕元に座り込んで2人で嬉し涙に泣きながらおそらくなけなしであろう魔力と精神力で弱い回復魔法を掛けてきてくれる。
「リリーちゃん、ミランダちゃんも……ごめん、ね。ありがとう……もう、ゆっくり……休んで……」
そのまま魔力切れをおこしたらしい2人が崩れ落ちるのは私の言葉とほぼ同じで、けれどもその表情は安心しきった微笑みを浮かべて私のベッドに上半身を預けるように座り込んで眠っていた。
「みんな……本当に、ごめん、なさい……」
***
それからエレンの知らせを聞いて駆けつけてきたヨハンとお父さん、お母さんに改めて軽いお説教を頂いて、意識を失ったリリーちゃんとミランダちゃんが別室の寝室に運ばれていった。アイシャちゃんもその頃には少し落ち着いたらしく腫れぼったくなった目の周りを侍女さんたちの1人が気を利かせて用意してくれた蒸しタオルを当ててソファーに身体を預けながら癒している。
私は私でさっきのアイシャちゃんの言葉に少し気になっていた。アイシャちゃんの私以外の親友って今まで聞いていなかったし、ましてやいなくなったとか亡くなったという話も初耳だったから。
部屋の中に私とアイシャちゃんだけになったのを見計らってタイミングは少し微妙な感じはするのだけれど思い切って聞いてみた。
「ね、アイシャちゃん」
「……なぁに、ウィンちゃん」
「さっきアイシャちゃん、私の他にも大切な人たち無くしたって言っていたのは……?」
「え?……あ、いや、その…………」
不自然なくらいに思い切り視線をずらされた。……あれ。この仕草、誰かに似ているような。だれだっけ……。
「私の親友はウィンちゃんだけだよ。さっきのはなんていうか……夢の記憶というか、その……」
アイシャちゃんは私の方をまともにみることなく視線をさっきからあちらこちらに彷徨わせてしどろもどろになっている。
んー……?この狼狽えぶりってもしかすると……?
「ねぇ、アイシャちゃん。つかぬことを聞くけれど、もしかして前世の記憶、持っていたりしない?」
「……え゛」
うそん。この表情、うわー、うわー。もしかすると大当たり?
「私、前世の記憶、最近思い出してきたりしてるんだけど。よくよく思い出して見るとアイシャちゃん、似てるのよね」
「え?……ええ?」
「アイシャ・フォーリンちゃんて、もしかすると、秋川愛ちゃんだったりする?」
「!!」
あ、絶句してる。……何この状況。あり得無さ過ぎるんですけれど。
「アイシャちゃん?戻ってきてー?」
「はっ?!……て、待って。そうしたらウィンちゃん、貴女って……」
「うん。高校生最後の年にお別れした、園樹燐だよ。ええと……久しぶり?」
「うん、久しぶり…………えええええっっっっっ?!」
アイシャちゃんが絶叫したあと再び絶句して私の顔を凝視したまま口をぱくぱくと言葉に出来ない状態になっている。うん、普通そうなるよね。この状態で比較的冷静にしている私のほうがきっとおかしい。
「……ねぇウィンちゃん。ちょっとだけ席外すね?」
「うん。行って来て。私は当面絶対安静だし……」
今度は自力で戻ってきたアイシャちゃんがはっと気が付いたらしく、そして恐らく私と同じ考えに至ったらしく、隣室で昏睡状態らしい少女の下へと駆け込んでいく。
そうして数分後。開け放たれたままのドアの向こうからアイシャちゃんが絨毯の上を腰でも抜かしてしまったのか顔を俯かせたまま這うように戻ってきて、肩を震わせ、既に涙と鼻水でぐじゃぐじゃの顔を私に見せると、声を振り絞ってポツリと呟き嬉しそうに泣きじゃくっていた。
「葉月ちゃん、生きてた……」
これは偶然何だろうか。偶然にしてはいささか作為的すぎるような気がする。けれども情報が少なさ過ぎて推測すら困難だ。
「とりあえず、葉月ちゃんが生きていてくれたことを素直に喜ぼうかな……いろいろ問題は山積みだけれども……」
騒ぎを聞いて再び駆けつけてきたヨハンに、お父さんとお母さんを呼んで貰えるように頼み、身体をベッドにゆっくりと預けたのだった。




