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Geister Kontinent   精霊大陸での日常  作者: うぃんてる
第一部 賢者の学院編
36/234

32.新入生歓迎探索コンペ 後編

戦闘回です。


最終改稿日2015/04/11

『業務連絡。図書館探索隊より関係各位へ。コードⅠを発令。速やかに対応されることを望む』

『業務連絡。図書館司書長より関係各位へ。臨時措置に於ける対応コードCを発令。グループⅢの行動開始後に所定配置に就かれたし』

『運営事務局よりお知らせします。グループⅢに所属するパーティーのリーダーは最終ミーティングを行います。地下10階第一喫茶室へ集合してください』


 一般の学院生徒を不安にさせないように関係者にだけわかるコードでの連絡放送が飛び交っている。また、先ほど最後のグループⅡ所属パーティーがやや深手を負ったものの無事帰還し地上の救護所で手当てを受けている。


「呼ばれたね、アイシャちゃん。行こうか」

「ウィンちゃんはリーダーじゃないけれども大丈夫なの?」

「司書長さんと探索隊隊長さんから出るように言われているから」

「……状況、そんなに良くないの?」

「分からないけれども楽観視は出来ないかな。気を引き締めてとしか言えないよ」

「そっか……まぁ私も余りいい感じはしていないんだよね」


 一番最寄りにいた私たちが指定された第一喫茶室にて声を潜めてお喋りしていると次第に各パーティーのリーダー達が集合してきた。

 場の空気や飛び交っている業務連絡放送から何らかの異様さを読み取っているのか、その表情は固く強ばって緊張感を纏わせておりひそひそと顔見知り同士で言葉を交わしてはいるものの、とても去年までのコンペと同じとは言えない雰囲気が部屋中に漂っていた。


「ミーティング始めるぞ。全員揃っているな?よし」

「技官、質問してもいいですか?」

「なんだ?ドゥエルフ。言ってみろ」

「アイシャ先輩がいるのは分かるんですが、ウィンテル司書せんぱいまでいるのは何故なんです?」


 そう言われればとその他のリーダー達も私の方を見てざわめき始める。


「静かに。それも含めて今から説明する。まず、これから潜る先については昼間の図書館と同じとは思うな。初めて潜るダンジョンだと認識を改めろ」

「下級生を不安にさせたくはないが、先程図書館側は甲種警戒体制に移行した。そこにいる2人の申し子を含めて二つ名持ちは全員、臨戦態勢にあるようだ。そうだろ?ウィンテル」


 話を振られたので私は頷く。


「司書長さんと探索隊隊長さんはイヤな予感がすると言っていました。私も同様です。ですので最後尾ではありますが同行いたします」

「…………というわけだ。新入生をなにがなんでも守ってやれ。無論お前ら自身も同様だ。蛮勇、犬死には無用、そんなことするくらいならとっとと逃げ出せ。その為の護符だ。そこのウィンテルが毎日倒れそうになるまで頑張ったのに無駄にしたら泣かれるぞ?分かったか!」

『はい!』


 緊張感を保った元気の良い返事が返ってくるのを技官は満足そうに頷く。



「他に質問事項がなければ最終確認終わりしだい階段前に集合しろ。以上、解散」

「アイシャちゃん、ドゥエルフ君。ちょっといい?」


 私は2人に声を掛けて少し残って貰う。


「場合によっては私はその場で踏み留まる可能性がある。その時は迷わず貴方たちはリーダーとして撤退しなさい。これは図書館司書としての命令よ?良いわね?」

「……それは、先輩1人で耐えられるのか?」

「そういう問題じゃないってことよ。後輩君。あたしたちが守るべき対象はなぁに?という事。わかるわよね?」

「しかし……」

「納得出来ないなら今回の参加は棄権なさい。貴方がそんなんじゃ誰か逃げ遅れて最悪死ぬわ。全てを取るなんて甘えは捨てなさい」

「……」

「後輩君。この程度の判断で躊躇うようでは……冒険者としての生計は難しいわよ?」


 私とアイシャちゃんから畳み掛けるように決断と覚悟を迫られて腕組みをして葛藤しているドゥエルフ君。酷な事を言っているようだけれどもこの程度の判断が現場で即座に出来ないようでは困る。だって確実にエレンやミランダちゃんは判断を誤って残留しようとするだろうから。アイシャちゃんは『理解』しているから即座に新入生8人連れて離脱してくれるはずだ。アイシャちゃんが離脱するような事態であるなら同じようにドゥエルフ君たちも離脱してくれないと要らぬ被害が増えてしまう。

 経験が浅いのは分かっているから現場で即断しろなんて言わないし、言えない。だから今……覚悟を決めろと2人で迫っているのだけれども。


「こら!あんた何そんな事で悩んでいるのよ!」

「ラミエル?!」

「アイシャ先輩が離脱するような事態で、ウィンテル先輩が足止めしなきゃいけないようなときにあたしたちに何ができるのよ!とっとと逃げて邪魔にならないようにするしかないでしょう?しっかり現実見極めなさいよ、あたしが認めた未来の旦那様!」


 余りに戻りが遅くて様子を見に来て話を聞いてしまったのだろう。ラミエルちゃんがはっきりしないドゥエルフ君の背中をどやしつけている。


「答えを聞かせて頂戴。棄権する?それともラミエルちゃんにリーダー代わって貰う?……納得して離脱できる?」


 女の子3人に詰め寄られたドゥエルフ君は深く溜め息を吐く。


「すまん。ラミエル……リーダーを代わってくれ。頭では分かっているが、判断を誤りそうだ。情けない旦那候補ですまん……」

「いいわ。それに情けないなんて私は思わない。ドゥエルフが正しく自己分析した上での判断だもの。……ねぇ、先輩方?」


 護符を受け取ったラミエルがアイシャちゃんと私の方をにっこり笑って見つめてくるのを同じように微笑み返す。


『運営事務局よりお知らせします。グループⅢに所属するパーティーは所定の場所へ集合してください』


 ここまで来るとイヤな予感は確信に変わって来る。最悪、歪みはパーティーさえ全て離脱してしまえば放置して私も逃げてしまえばいい。そのはず、なんだけれども。

 ダメだ。今は目の前に集中しよう。まず、みんなに加護をかけなくては。


「おい、嬢ちゃん。全員揃ったから頼む。大丈夫だ、何かあればすぐ駆け付けるから初動だけ頼む」

「えぇ。分かっています。……行きましょう」


 事前に申請のあった通りに私は加護を掛け終えると、グループⅢのパーティーを次々と飲み込んでいく階下へと続く漆黒の闇に覆われた階段の中程を収まらない不安に苛まれながら見つめていた。


***


 前方にラミエルちゃんとアイシャちゃんのパーティーを確認しながら私は順調に階下へと降りて行っている。今のところ確かに頻度の多い歪みに遭遇はしているものの各パーティーとも排除には成功しているらしく、下へ下へと先に出ているパーティーに追い付くことなく進んでいる。

 夜間の探索ということで過敏に警戒してしまっているのだろうか、と一瞬迷いも脳裏に浮かぶものの、アイシャちゃんも技官達もお互いにアイコンタクトを常に交わして警戒を解いていない。そうやって稀に中規模の歪みも何とか排除しつつ更に階下へ進んで行くと階下から引き返してきたパーティーに遭遇した。


「俺たちはこの辺で引き返すことにした。やはり、夜間は……異様だ」

「そうね。いい判断だと思うわ。地上でまた会いましょう。幸運を」

「先輩方もな」


 やはり昼間に比べて歪みに遭遇する頻度が多い。どうしてこんなに多いのか理由は分からないけれども、夜間探索が認められてこなかったのはこのせいなのかも知れない。


「みんな、各自状況を自己申告!」


 ラミエルちゃんが地下22階に到達した辺りでメンバーに続行か否かの判断をするため、各自に申告を促す。やはり新入生の体力と精神力ではかなりきつい連戦だったようだ。


「アイシャ先輩、このフロアの探索と回収で引き返しましょう?」

「そうね。そうしましょう」


 アイシャちゃんとラミエルちゃんは相談してフロアを半分ずつ分けてマッピングと回収をすることにしたらしい。その間私は周辺警戒に努めていた。


 ……と、その時。階下にはっきり分かるレベルの歪みの力場が展開するのが分かると同時に悲鳴が響いてくる。


「助けてくれ!バンパイアだ!!」

「警報!全員直ちに退避!救援は私のみ行きます!簡易詠唱ガイスターフリューゲル!」


 悲鳴を聞くや否や私は階下に向けて全力で駆け出しながらペナルティを気合いでカバーしながら簡易詠唱を成功させ背中に氷翼を生やして更に速度を上げて文字通り飛ぶような速度で階下へと駆け付ける。

 辿り着けばすでに新入生を中心に数人が気絶しているのか床に倒れており、神官戦士らしき男子生徒たちが応戦していた。


『今宵は騒がしいな。折角の食事の邪魔だ……』

「あなたたち、何してるの!早く逃げなさい!!」

「しかし、彼女が!!」


 護符は対象が意識を失っていても運ぶことが出来ることは説明済みだった。

 応戦している生徒の視線の先を見れば1人の気を失っている見慣れないデザインの服を着た少女がバンパイアに腰を横抱きに抱えられている。


「彼女の事は任せて早く逃げなさい!簡易詠唱、ガイスターブレス!」

『ウィザード、だと?くっ!』


 彼らとバンパイアの間に無理やり割り込みフラウを召喚し、デスサイズを手に取る。背後の生徒たちが緊急避難リターンランドするのを感じながら油断無くこちらを憎悪の視線で睨むバンパイアと戦闘態勢入る。


『おとなしくお前も逃げればいいものを。……愚かな小娘よの』

「その子を解放しなさい!」


 無駄だと思いつつも要求事を叫ぶ私はその少女の着ている衣服に見覚えがあって、そのせいで離脱という選択肢が失われてしまっていた。


(あの制服は……!まさか、そんな。どうして前世の学校の……制服を着ているの?!彼女はまさか本当に日本人なの?!)


『断る。折角の極上な食事を手放す理由は無いだろう?安心しろ、お前も一緒に美味しく頂いてやる』

「ならば実力で奪うまで!」


 私はとにかく彼女をバンパイアから引き離すべく横抱きにしている腕へ目がけてデスサイズを振り上げながら突進し振り抜く。


『ち、さすがに片手では分が悪いか。まぁいい……私に両手を使わせた事をすぐに後悔させてやる!』


 バンパイアは少女を私の動きを阻害するように計算して放り投げ、私は受け止めればその隙に攻撃を受けるのを見越して回避したもののやはり避け切れずバランスを崩したところへ、バンパイアがいつの間にか手にしていた毒々しい液体滴るフランベルジュが鋭い一突きにて襲い掛かってきた。


「くぅっ!……これは、毒っ!」

『くくくっ、どこまで耐えられるのか見せて貰おうか?』


 残酷そうな笑みを浮かべたバンパイアがニヤリと笑っている。即効性ではないあたり私を徹底的にいたぶるつもりのようだ。せめて彼女の意識さえ戻ればパーティー受諾してもらって緊急避難リターンランドが出来るのに。眠らされているのか放り投げられて落ちたダメージでも起きる気配がない。


「この程度っ、フラウ行きなさい!」

『中位精霊ごときが!この我の相手ではないわ!』


 フラウが倒れる少しの間に私は解毒を行い態勢を立て直す。


(やはり、強敵……。このままでは、負ける?)


『無駄な足掻きをいつまで続けられるかの?』

「無駄なんかではないわ!貴方なんかにこの子は絶対渡さないんだから!」


 とはいえ前衛の居ない現状強大な魔術が使えず決め手がないのも事実。何か手を考えないと。


『来ないのであれば我から行くぞ?食らうが良い。魔槍嵐』

「っ!フェンリルオブミラー8倍掛け!!」


 漆黒の槍が多数私に目がけて嵐のように襲い掛かってくるのを察知して私は、咄嗟に氷の鏡を複数枚展開して凌ごうとする。


『甘い。視界を塞ぐなど愚策よの?』

「きゃぁっ!!」


 漆黒の槍に砕かれた破片の中から現れたフランベルジュに左足を避けることも出来ずに突き刺され、更に引き抜かれることで血肉を抉られ直接毒が刷り込まれてしまい、私は声にならない悲鳴を上げる。


『実戦経験の差じゃな。ほれ、もう顔色は真っ青じゃ。降伏せい。命迄は取らぬ……永遠にペットとして可愛がってやろうぞ?』

「だ、れ……が……!が、ガイスターチャージ!」


 恐らく出血と毒で顔面蒼白になってきているであろう私に近寄り顔を覗き込むバンパイアに対し、私は本当に最後の手段として至近距離からの体当たり攻撃を行い、油断して対応出来なかったバンパイアを派手に吹き飛ばす。


「ばーか……。ゆだん、たいて、き、っていう、の、よ…………」

『おのれ…………。だが、もう、動けまい?犬死にじゃの、結局は』

「く……」


 ごめんなさい、お父さん、お母さん。ごめんなさい、エレン。……ごめんなさい、ミランダ。みん、な…。そして、見知らぬ異世界の女の子……。

 目の前が霞んで意識が遠退いていく。

 もう、ダメ……また、ダ、メ…………。


「ウィンちゃん、まだ諦めちゃだめーーーーーーっ!!くらえ、8倍掛けテレポート!!」

『なんじゃと?!くそっ!!抜かったわぁぁぁぁあああ!!』


 アイシャちゃんの魔法に抵抗しきれなかったバンパイアがどこかに強制転移テレポートされてその場から消し飛ばされてしまった。


「ウィンちゃん、ウィンちゃん!!まだ意識離しちゃダメェッ!?しっかりしてよっっ!!」

「…………ア、イシャ…ちゃん」

「まだ眠らないで!」

「……あの、こ、は……」

「大丈夫!一緒に連れてくから、死んじゃやだ!血が止まらない?!どうしてっ」

「落ち着けアイシャ、解毒が先だ。……よし、止血して。アイシャ、その少女抱えて先に戻れ。止血したらウィンテルを運ぶから」

「…………お願いします、ウィリアムさん」


 私はなんとか駆けつけてくれたアイシャちゃんに命を救われ、半狂乱になりかけたアイシャちゃんに意識を呼び戻された。そしてその後から来てくれたお父さんの温かい手に触れられながら………………意識を失った。

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