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Geister Kontinent   精霊大陸での日常  作者: うぃんてる
第一部 賢者の学院編
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31.新入生歓迎探索コンペ 前編

最終改稿日2015/04/11

 闇の日の王立地下図書館は午前中にて一般開放を終了して閉館するのだけれども、今日は午後から隣接する賢者の学院ウィシュメリア校による新入生歓迎探索コンペが開催される為、一般開放自体は通常通り終了したものの昼前から学院関係者や学院生たちが集まり始めてロビーや周辺は賑やかになっていた。

 『笑う魔女』ことアイシャちゃん率いるパーティーはあの後発覚した不祥事により解散したパーティーからうまい具合に前衛系の新入生女子生徒を4人吸収する事ができて、新入生8人+卒院生1人という異例の編成ながらもなんとか図書館に挑める形になれたことから私もアイシャちゃんもホッと胸を撫で下ろしていた。

 いつものコンペであればお祭り的な雰囲気の方が強いのだけれども、今回は場所が場所だけに場の空気はピリピリとした緊張感に包まれている。

 いつものこの時間であれば帰り支度を始める図書館司書や図書館探索隊員の人たちも不測の事態に備えて帰宅どころか、逆に非番の人間たちまで召集されてものものしい状態になってしまっている。建物の外に臨時に設置された救護所にはフェンリル神殿から派遣された若い神官たちが恐らく発生するであろう怪我人の為に準備とミーティングを開始しはじめていた。


『運営事務局よりグループⅠに該当するパーティーリーダーに通達します。最終ミーティングを行いますので図書館一階第二会議室まで集合してください』


 30近くあるパーティーを一度に潜らせるわけにはいかないため、3グループに分けて探索させることになり先程のアナウンスに従って第一陣としてグループⅠに属する10パーティーのリーダーたちが受付脇にある第二会議室に入っていく。これから緊急避難用の護符を渡し、最終的な確認事項のチェックを行い、各種加護の希望状況を集計するはずだ。


「はい、ウィンテル。取り敢えず魔晶石はこれだけあれば足りるかしら?」

「あ、すみません学院長代理。助かります……」


 差し出された大きな皮袋をありがたく受け取り中身を確認する。これだけあれば全員分の加護は問題無く掛けられるはず。なるべく自分の精神力や魔力を温存しておきたいから非常に助かる。


「いよいよね、ウィンテル。何事も事故が起きないようフェンリル様にお祈りするほかないわね」

「はい、お母さま。みんながせめて生還できるよう、お祈りしようと思います」


 もうここまで来たらあとは本人たち次第。無事を祈り、緊急時に迅速な行動が出来るように準備する以外はすることが殆んど無くなってきている。


『運営事務局より通達します。グループⅠに属するパーティーの皆さんは予定通りの時刻までに準備を整え図書館地下10階、現地対策本部前に集合してください』

「そろそろね。……ウィンテル。無理はしないで頂戴。足りなくなったら追加を支給するから」


 私は小さく頷き学院長代理おかあさんと別れて地下へと階段を降りて行ったのだった。


***


 加護を掛け終えたパーティーが順次15分おきに潜って行くのを見送りながら私は用意されたお茶を一口飲んで一息をつく。

 今回の採点ポイントは探索中一番深いフロアのマップ作成、探索中の行動及び判断力、そして一番価値があると判断した書籍の回収と生還の3つだという。タイムリミットは特には決めていないものの、新入生の体力や気力がそんなに長く保つわけはないし、無理を強制しようものなら判断力ミスとして減点対象になってしまうから大体は適度な時間で帰還してくるのだろう。

 グループⅠは基本的に探索経験の浅いパーティーを中心にまとめて、ベテラン技官たちが監督している。グループⅡは上級生主体のパーティー、そしてグループⅢにはアイシャちゃんたちやエレンたちのような特殊編成のパーティーと最上級生率いる安定的な信頼がおけるとされるパーティーがそれぞれグループ分けされている。どうしてこのような分け方になってしまったかと言えば、グループⅢが探索を開始する頃には夕方になってしまい、夜間のモンスターは基本的に強力なものが多いため、グループⅠやⅡに所属するパーティーよりも総合的に力のあるグループⅢに与えるハンデとしては丁度良いだろうと判断されたためだった。また、特殊編成のアイシャちゃんたちとエレンたちの2パーティーに限っては不測の事態に相互に助け合っても良いとされ、通常は間を空けて潜るところを同時に進行することになっていた。

 グループⅡが半分くらい潜り始めた頃にはぽつぽつとグループⅠのパーティーが疲れた表情で帰還してくるのが見受けられるようになってきた。幸いにして目立つような外傷の跡は見られず、監督していた技官たちの話では今のところは歪みも正常なレベル帯のようだった。やはり問題は夜間に潜る事になるグループⅢだろうか。


「なーに心配してるの、ウィンちゃん?大丈夫、大丈夫!必ず生還させるから」

「アイシャちゃん。うん、必ずだよ?」

「任せなさいって。伊達に一年、1人で探索してないわよ」


 アイシャちゃんにそう言われ少しは気を和らげるものの、首の後ろに来るこのチリチリとした感覚。イヤな予感を告げるこの感覚は何だろう。同行できるのならした方がいいかもしれない。


「アイシャちゃん。悪いけれど、私もついていくよ。さっきからイヤな予感が収まらないから。メンバー表に加えてくれる?」

「…………本気?」

「本気。ただし、緊急時のみの加勢しかしないよ」

「分かった。上への話は通しておいてね」


 私は頷くと本部の運営事務局に赴き、夜間の図書館探索は今まで余り例が無いためどれくらいの歪みがあるか分からない事、他国の貴族令嬢がいらっしゃること、そして万が一の場合に私がいれば初期対応が出来るということを意見陳述して緊急時のみの対応として参加を無理やり認めさせた。

 何もなければ問題ないし、何かあっても私なら何とか対処はできると思うから。少なくともみんなを逃がす事くらいは間違いなく可能なはずだ。

 グループⅡのパーティーには日暮れ前には戻るように事前通達を各リーダーにしてあるのでそろそろ帰還してくるはずだ。まもなくあと小一時間ほどで日没となる。すでに東の空には満月が昇り始めており周囲の魔力がやや活性化してきているような気がする。

 何事も起きませんように。そうしたら今夜はゆっくり回復できるんだし。

 運営事務局にて手続きする間の待ち時間に、私が地下に降りることをどこから聞き付けたのか、司書長レックスさんと、探索隊隊長ミッシェルさんが連れ立って私のところにやってきた。


「ウィンテル司書。潜るという報告を受けたのだが……詳しい事情を確認させて欲しい」

「まだ時間がある。少しお茶でもどうかな、嬢ちゃん。落ち着けるよう、そこの個室で」


 拒否できる雰囲気でもなさそうなので大人しく後に続く。地下10階にも地上まで戻るのが面倒くさいという司書の為に小さいながらも喫茶スペースは存在している。そこに私たちは移動してお茶を飲むことになった。


「さて、嬢ちゃん。建前はいいから本当の理由を教えてくれないか?」

「そうだ。我々は色々な肩書きを持っているが基本的には同じ『冒険者』だ。だから、本音と言うものを聞かせて欲しいのだ、ウィンテル司書」

「…………ただの、イヤな予感です。首の後ろがチリチリするような、です。あなた方のような修羅場をくぐり抜けてきた方なら理解出来ると思いますが」


 私の説明に2人が揃って押し黙る。


「明確な理由や根拠に基づいたわけではありませんから、事務局にはもっともらしい理由を付けましたが、つまるところ、生存するために必要とされる勘に従っただけの事です」

「言わんとしている事はわかるが、それは大ベテランのセリフだな。普通は。……嬢ちゃん本当に新米なのか?」


 言っている事を否定するわけではないが、と言いながらミッシェルさんが呆れたように私を見ている。


「まぁ、いい。我々の予感と一致していることが分かっただけでも収穫だろう?ミッシェル。……実力者が揃いも揃って同じ予感を感じているのは異常だ。悪いがウィンテル司書。潜る前に申し訳ないが、臨時編成即応支援隊に加護を掛けてくれ。既に隣室に控えているから」


 いつの間に、と私は少し驚きを隠せなかった。連れられるままに隣室に赴けばそこには探索隊と司書たちのトップクラスによる即応支援隊が武器や防具を手入れしつつ待ち構えていた。


「……名誉導師が来たということは、俺達の勘も当たりという事ですか。隊長」

「そういう事だ。一応ウィンテルはお前たちに加護をかけたら『笑う魔女』と同行し、侯爵令嬢の護衛任務に就く事になる」

「了解。これより臨時編成即応支援隊は甲種警戒体制に入ります。導師ウィンテル、加護をお願いします」

「はい、分かりました。魔力節約の為に少し時間かかりますが我慢してください」


 学院長代理から支給された魔晶石を全て使いきり最低限必要と思われる加護をかけて私は学院長代理のもとに追加支給おねだりをしに行き大きな皮袋を貰う頃には完全に日没を迎えていた。

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