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Geister Kontinent   精霊大陸での日常  作者: うぃんてる
第一部 賢者の学院編
33/234

29.笑う魔女

最終改稿日2015/04/11

 相変わらず楽しそうに笑いながら男子生徒たちを拘束していくアイシャちゃんを遠目に見て苦笑しつつ、怪我をしている女の子の治療を開始する。他の女の子たちはようやくホッとしたのか肩を寄せ合って涙を見せ始めている。


「貴女たち、多分新入生よね?」


 手当てを施している女の子に確認を取ってみる。


「はい。奨学生ですが、私達は新入生です。王都郊外にある農村出身なのですが成績を認められて。けれども、最後まで私達を受け入れてくださる方がいなかったのです……」

「そっか。災難だったね」

「私達、これからどうすればいいのでしょう。昨夜からここに閉じ込められて、今朝の説明会も出させてもらえなかったし……」

「うーん。まぁ、なんとかなると思うよ。取り敢えず詳しい事情確認したいからみんなついて来てほしいのだけれど。いいかしら?」


 立てる?と手を差し伸べて女の子達を急かさないようにゆっくりと立ち上がらせる。ふとアイシャちゃんを見ればいつも通りに相変わらず笑っている。


「ねー、ねー、今どんな気持ち?どんな気持ちー?」

「いつも見下して弄んでいた私たちに見下されて、どんな気持ちー?」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!踏むな、蹴るなっ、やめろぉぉぉぉっっ」


 アイシャちゃんはきゃはははははっ♪と笑いながら容赦なく芋虫のように地面に転がされた男子生徒たちをガシッガシッと踏みつけ時折局部や急所を蹴り付けている。


「なんでー?なんでー?あなたたち、今までに自分たちで止めたことないくせにー?なんでー?」

「ぐぎゃぁぁぁぁぁ!!」

「きゃはははははっ♪あははははは♪」

「助けてくれぇぇぇぇ!うぎゃぁぁぁっっっ!」

「ほらほらほらー♪今まで何人助けてって叫んだ女の子無視したんだっけー?言ってみなよー?」


 ゲシゲシドスッと転がした全員を狂ったように笑い続けながら踏み続け蹴り続けるアイシャちゃんに集まっていた私以外の事情を知らない全員が顔を引きつらせて固まっている。


「…………アイシャちゃん、もうその辺で。全員泡噴いて気絶してるよ?」

「あら?本当だ。ちぇー、つまんないの。ま、いっかぁーウィンちゃんに会えたし♪」


 私は固まったままの学院職員さんたちにハラスメント及び器物損壊、監禁、暴行傷害の被疑者として男子生徒たちを引き渡し処理を頼んだ。そしてアイシャちゃんと一緒に女の子たちを連れて図書館食堂奥の個室へ案内しお茶会の準備をして席に座らせ取り敢えず先に落ち着かせることにした。


「それにしてもアイシャちゃん。いつ帰ってきたの?」

「ついさっき?相変わらずウィンちゃん発想と思い切りがいいよね。感心しちゃった♪」


 どうやら一部始終を見られていたらしい。私の意図をあっさり見抜いたアイシャちゃんは逃げ出す方向を予測してスリープクラウドの詠唱を済ませて一部ではかなり有名になってしまった悪魔の微笑みで待ち構えていたらしい。あとは御覧の通り。多分、男子生徒あのこたちは再起不能かもしれないけれど、まあ自業自得だよね。


「さてそろそろ落ち着いたよね。じゃあこの用紙に所属コースと年次、氏名を書いて?」


 と、女の子たちの目の前にパーティー離脱申請書を取り出して示す。彼らの連帯責任まで取る必要性はないからね。書き終えたのを確認すると最後にある受理者欄に私のサインを入れて完成させる。次にパーティー登録申請書を取り出してリーダー欄を空欄にしたまま同じように記入してもらい臨時編成だけしてもらっておく。


「んー。ウィンちゃん、もう登録締め切ったんだよね?あてはあるのー?」

「ん。今のところは無いけれど学院と相談してなんとかするつもりー」

「じゃあさー、私が引率してあげるよー。逆恨み対策にもなるしねー。だから特例措置申請お願いね?」


 え?と女の子たちの表情が一瞬ひきつる。先ほどの光景を思い出したらしい。うん気持ちはわかる。


「あー、大丈夫だよ。アイシャちゃんは女の子には優しいから。女の子には、ね」

「うんうん、大丈夫。君たちみたいな可愛い子たちに手をあげるとか無い無い。さっきみたいなゴミなら容赦しないけどー♪」


 あはははは♪と楽しそうに笑うアイシャちゃん。


「ん、特例措置申請は任せて。今日中に通すから、アイシャちゃんはこの4人連れて学院倉庫に行って装備見繕ってあげて?今から貸し出し許可証作るから。そしたら話は通して置くからヨーク技官のところに行って説明を受けて、それから訓練お願い」

「オッケーオッケー、じゃあ早速行こうか、まず君たちの寮からいこう。せめてシャワー浴びて身だしなみ整えなきゃね?」


 確かに。よくよく見れば汗まみれホコリまみれで、服装も一部裂けていたりでよろしくない。アイシャちゃんの言うことも尤もだ。


「あれ。そういえばアイシャちゃんのこっちに来た目的って何なの?そっちは大丈夫なの?」

「うん、ウィンちゃんのお母さんに頼まれたんだよ。ちょっと手伝ってくれってね。だから大丈夫。当面女子寮の部屋にいるから気が向いたら遊びに来てよ♪」


 今度はにこにこと天使のような本来の素敵な微笑みを振りまきながら、女の子たちを連れて女子寮へと向かっていった。


***


 彼女たちを見送った私は必要な書類を揃えると必要事項を記入してまず学院倉庫にいる担当職員に許可証を提出しに行く。


「すみません、後ほど本人達来ますのでよろしくお願いします」

「ん、分かった。……げ。彼女戻ってきてるのか」

「えぇ、気を付けてくださいね~」


 うん。この職員さん、アイシャちゃんにお仕置きされて改心した人なんだよね。ある意味弱み握られてる人だから彼女たち4人分の装備揃えるのに多分協力的に動いてくれると思うんだよね。

 さてと次は特例措置申請書を事務局に提出っと。学院長代理補佐おとうさんいるかな~?ああ、いたいた。


「お疲れさまです、学院長代理補佐。この書類の受理をお願いします」

「ん。どれどれ。………………受理するのは構わないが大丈夫なのか?この構成で」

「アイシャちゃんが任せろと笑ってましたから多分大丈夫だともいます」

「『笑う魔女』か。ま、いいだろう。受理するよう手続きさせる」

「ありがとう御座います。それからこちらもあわせて処理お願いします」

「確かに。離脱申請書、受理の件了解した」

「はい、それではよろしくお願いします」


 公私はきちんと区別して弁えないとならないのは当然のことだから特に気になることはないのだけれど周囲の視線が微妙にむずむずする。まあ用事は済んだのだからひとまず退散しておこう。

 事務棟をあとにしてようやく自分の職場である王立地下図書館に戻ると何故かそのまま治療院のベッドに連れて行かれてしまい強制的に寝させられてしまった。曰く、さっさと魔力と精神力の回復に務めろ、とのことらしい。うーん、ウィザードも魔晶石からの移譲ができればいいのになぁ。そうすれば便利なのに。

 ここにいると図書館ロビーの喧噪はさすがに聞こえてこないので少々寂しい。静寂に包まれる私専用と化してしまったこの個室。

 最後に別れてから一年と少し経ってからの幼なじみとの再会は本当に嬉しかったけれども、あの狂ったように笑うアイシャちゃんを見るたびに私は胸がほんの少し痛む。光景自体にはもういい加減慣れてしまったから表情には出ないようになってしまったけれども。

 元々のアイシャちゃんは私と同じくらい本来はおとなしい、今女の子達に見せるような天使の微笑みを振りまく女の子だった。それが一変したのは…………私のせい。私が………………誘拐されてしまったあの日のせい……。



 私が学院に新入生として入り、あの時はまだウィザードの素質は発覚していなくて代わりにアイシャちゃんの魔法語魔術師としての才能は良く知られていて。アイシャちゃんには新歓探索コンペの勧誘が殺到していたのだけれどもアイシャちゃんは全て断っていた。大切な親友と組みたいから、と。

 私は私で結構昔は人見知りで、男の子と一緒に行動するのはとても苦手だったからアイシャちゃんを誘いたい目的の男子生徒たちからしつこくつきまとわれて困っていた。断っても断ってもしつこいくらいに。そのうち状況を察してくださった女子生徒の先輩のみで構成されたパーティーに2人とも無事拾って貰えて勧誘攻勢からは解放されたのだけれども、やっぱり逆恨みする人はどこの世界にも時代にもいるみたいで。逆恨みとあわよくば脅迫ついでに強要しようとでも考えたガラの悪い最上級生の男子生徒パーティーに野外訓練中、一瞬の隙を突かれて背後から忍び寄っていた特殊技術コース所属と思われる人に薬品のような物を染みこませた布で口元を塞がれ意識を失い拉致されてしまった。後で聞いた所によると気が付いたときには私の姿は見えなくなっていて先輩方もアイシャちゃんも相当混乱したそうだ。

 私も気が付いたら石造りの壁に両手を繋がれていて首には魔力封じの首輪までされていた挙げ句にその部屋には同じように繋がれている疲れ切った表情の女子生徒の先輩方が半裸に近い状態でいたものだから状況を受け入れるまでに相当の時間を要していた。この頃の学院は今よりもかなり治安が悪くて女子生徒の一人歩きは危険が伴うような場所があったりして全体的に荒廃していたような雰囲気があった気がする。

 メンドゥーダ学院長おじいちゃんもそれまでは学院統治より自分の研究が大事、といったものだったのが私が入学してようやく重い腰をあげて学院統治に手を触れ始めたらしいのだけれども、まぁ遅すぎたんだよね。

 暗くてじめじめしたような環境に身を置かれたせいか私は程なくして熱を出し病気になってしまった。一緒に囚われてる人たちの中には神官候補生の人もいて魔力封じの首輪がなければすぐにでも癒してあげられるのに、と嘆いて治せなくてごめんね、と謝ってくれていた。私はなるべく周りに心配を掛けまいとしてどんなに苦しくても笑顔を絶やさないようにとしていた記憶がある。

 拉致されてどれだけの時間が経ったのかは分からないのだけれども私たちは脅迫状を貰ったアイシャちゃんと、アイシャちゃんが相談した私の両親たちにより解放された。その頃にはもう意識もハッキリしてないからあんまり記憶が定かでないしアイシャちゃんも両親も未だに教えてくれないからどういう状況だったのかは覚えていないんだけれども、唯一覚えているのは発見された私たちの状況を見て顔色の変わったアイシャちゃんが表へ駆けだし多分縛られていただろう被疑男子生徒たちを蹴り飛ばし始めたこと、そのうちに楽しそうに笑い始めたこと、そしてお父さんが必死に止めようとしていたことくらいだった。

 それからのアイシャちゃんは似たような男子生徒はんざいしゃを見つけると笑いながら潰しにかかるようになってしまった。私が拉致されていなければ今でも可愛い笑顔だけのアイシャちゃんだけだったのかも、と考えると心が痛む。


「お、いたいた♪ウィンちゃんウィンちゃん。こんなものでどーお?」

「…………相変わらずコーディネイト素敵だねぇ」


 アイシャちゃんが何か立派な装備品と可愛らしい衣装を身につけた女の子達を引き連れて病室に入ってきた。あれ、そのレベルは貸し出せるのかな?と言う物もあるけれど。


「職員さんあんまり泣かせたらダメだよ?アイシャちゃん」

「いーの、いーの。第一向こうから喜んで貸し出してくれたんだから♪」

「ならいいけれど。それでこれからはどうするの?」

「もうお昼だからご飯かな。それから軽く潜るつもり。前衛いないけれど私が補助するから大丈夫」

「でもこの前低層階でシンとか竜種とか出たよ?」

「マジで?」

「うん、ホント。だから油断は禁物だよ」

「分かった。少し考えて置くよ。じゃあお昼ご飯にしよっか。みんな、このチケットあげるから隣の図書館食堂で好きな物食べておいで。これあれば何でも大丈夫だから。食べ終わったらここに集合。いいね?」


 嬉しそうに部屋を出ていく女の子達を見送った後アイシャちゃんは私のベッドの近くに椅子を持ってきて腰掛けて異空間から包みを二つ取り出し私に一つ渡す。


「はい、お弁当。久しぶりだから味付け合うかどうか分からないけれどどうぞ召し上がれ」

「ありがとう」

「それにしてもまーだあんなバカいたんだねぇ。在学中に結構再起不能にしたつもりなんだけど」

「ドルカイルが増やしちゃったからねぇ」

「あー、あのクソガキかー。今度出会ったら闇討ちしとこ」

「こらこらこら。第一停学中だし、もう私が懲らしめ済み」


 ホントにもう。こういった話題になると心底楽しそうに笑うんだよね、この子は。仕方がないのだけれども。昔は気にしてばかりいたけれども、どちらも本当の自分だから気にしないで欲しいと言われてからは受け入れる事に努めて今では殆ど表には出さないように出来るようになったと思う。


「んー?こーら。まーた気にしてたわね?まったく」

「ごめんなさい」

「何度も言ってきたけれど、ウィンちゃんのせいじゃないからね?単純に私が本当の自分を誤魔化していただけのことなんだから。だから、ウィンちゃんは普通にしててよ」

「うん。分かっているつもりなんだけれどもね……」

「次気にしたらお仕置きしちゃうよ~?」

「え、ちょっ、それはやめてっ?!」


 顔色を変えた私を見てアイシャちゃんはまたきゃははは♪とおかしそうに笑い、冗談だよと言うのだけれどもあのお仕置きは思い出したくもないくらい恥ずかしいから気を付けようと心に決めた私だった。

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