22.安全対策会議
最終改稿日2015/04/11
翌日。今度は学院側は私も顔馴染みのお世話になった各科技官達が打ち合わせにやってきた。もちろんヨーク技官もいる。
なので今回は図書館側も隊長さんと司書長さんに加えて私も会合に出ることにした。
「それにしても……おかしな話だよなぁ。危険を冒す職業の卵たちの為に安全確保を協議するっていうのも」
ヨーク技官が半ば呆れたようにこぼすと、参加者全員が全くだ、と溜息をつく。
「ともかくだ、うちの新米司書が最低限の安全確保策を今、鋭意製作中だ。一日に数個のペースだがな」
「そうか。助かるよ……今ウチはガタガタしていてな。学院長が陛下から謹慎を命じられた……」
「……例の件か。あれは……ウィンテルの機転と実力、ウィリアムの根回しでなんとかなっちまったから事務方と学院長、油断しちまったんだろ。謹慎くらいですむならまだマシな方じゃないか」
「そうだなぁ。公爵家の方が今、修羅場だしな。まぁ、問題はそっちじゃない。ウィンテル、他に懸念事項はあるか?」
ええ、と私は頷いて昨日の一件を話した。
「……という事がありましたので、現状を知る人間として、私は二つの提案をさせていただきます。一つはパーティー編成をフルメンバー、つまり10人固定に限定すること。二つ目は監督官と言う名目で緊急時に的確な指示をだせる、技官か司書を一名同行させること。以上、協議をお願いします。最優先課題は新入生をいかに死なさないで在れるか、です」
本当に昨日はメンバーに助けられたのだと心底思っているのだ。
信頼の置けるエレン達4人に言われたことをきちんと遂行できたミランダちゃんたち。そして私と護符。これが普通の学院生徒パーティーだったらと思うとゾッとする。低階層だからと油断していたらもっと最悪だ。
「フルメンバーにすることは特に問題はないが、職業の偏り次第だな。でも今なら調整は利くだろう。お目付役に関しては学院技官側は大丈夫だと思うが…………図書館側はどうなんだ?司書長?」
元々場所が場所だけに技官の引率は考えていたというヨーク技官。
「うちは難しいな。戦力の分散は厳しい。出せても少ない人数に留まるだろう」
「…………だよな」
私もその通りだと思う。私が別行動を取れるのはひとえにウィザードという特殊な職業のためだ。それでも敢えて司書の動員を提案したのはここにいる全員に明確な現状確認を共通認識させるためだけだった。
「私も現地本部に待機しますね。いつ大規模歪みが発生しても対処できるように」
「やむを得ないな。許可する」
気休めかもしれないけれど最悪は魔晶石をわしづかみしてでも三種混合することになるかもしれない。
「そう言えば、ヨーク先生。学院長不在時の代理執行者は誰になったのですか?」
一応私も学院長権限の代理執行者ではあるけれども厳密には部外者だ。
「あー、それな。お前の母親に決まったよ。陛下直々の指名でな」
「えっ」
「補佐は親父さんな」
「…………丸投げしましたね?あのエルフ」
黒い笑みを浮かべて呟く私に周囲が引いているのが分かり、コホンと咳払いをして誤魔化す。
「装備品などの貸し出しとかはどのように考えていますか?学院側は」
「それぞれのパーティーからの自己申告に基づく相談に応じる形で既に対応中だ。自己分析も出来ない連中のことなどそれまでの話だしな」
それまで、つまり、準備不足は参加を認めない場合もあり得るということか。……妥当かな。へたな情けは逆に命取りになりかねないほど地下図書館は過酷なんだものね。
私の意見陳述は終わったので司書長に後を頼んで護符の作成に戻ることにした。
今日もミランダちゃんたちはドゥエルフ君たちの引率で地図を作りながら戦闘訓練に励んでいるらしい。ポケットマネーで作った分の護符を念のため渡してあるから大丈夫だと思う。
それにしても思ったよりこれは……ごっそり魔力を持っていかれるなぁ。今ちょっとだけ意識が飛びそうになったから休憩入れよう。少し休まないとダメだ、これ。私は何本目かのポーションを飲み干すと、しばしのお昼寝をする事にした。
***
『…………ん、りん、燐?こんなところで寝たらだめだよ』
「ん……」
『ほら、病室に戻ろう?燐』
「……りん、て、だぁれ?」
『また寝惚けてるんだね?僕の可愛いお姫様は……。君のことだよ、園樹燐』
「あなたはだぁれ?」
『君の婚約者の…………』
「…………ちゃん、お姉ちゃん、起きて?」
「ううう…………」
「ほら、お姉ちゃん。もう夕方だから帰ろう?だから、起きて」
「あ…………。あぁ、いつもの……夢、か」
エレンに軽く揺すられ起こされる。気が付けばもう夕方だった。思いの外消耗していたみたいだ。あとは夜寝る前にやろうかな。
「起こしてくれてありがとうね。手、貸して貰える?」
「うん。外にお父さんとお母さんが馬車で待ってくれてるから、早く行こう」
私は作業の後片付けをして作成した護符を司書長に提出して帰りの挨拶をし、帰路についた。
「ねぇ、お母さん。どうして要請を受けたの……?別にお母さんじゃなくても…………」
帰りの馬車に揺られながら、しっかりエレンに抱きしめられつつ疑問に思っていたことを聞いてみた。
「そうね。可愛い娘を便利屋扱いしたあげく、未来を担う学院生徒たちのことよりも、自分たちの体面とプライドを最優先したのに何にも出来ない事務方責任者達を叩きだして、有能な後進に引き継がせるため、かしら」
とってもいい笑顔で爽やかに笑いながらキッパリ言い切るお母さんは……何となく怖かった。お父さんを見れば苦笑していて、目線で何も言うなと言っているように思えたので黙っていることにした。
ああ、それでお父さんが補佐についているんだ。お母さんが暴走しないように引き留めるために。
「それとね。ウィンテル。貴女……今、かなり魔力と精神力、消費する仕事をしているでしょう?貴女のことだから責任感のあまり、頑張ってしまうでしょうから帰り道が心配なのよ。だから、ね……気兼ね無く使える学院の馬車で貴女たちを送れるから引き受けたのよ」
「「ええっ?!」」
貴女たち大事な娘の安全対策のためなら代理執行なんて全く苦にならないわよ。そう言って笑うお母さんに私とエレンは母親ならではの逞しさと深い愛情を感じて心からお礼を述べたのだった…………。




