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Geister Kontinent   精霊大陸での日常  作者: うぃんてる
第一部 賢者の学院編
24/234

20.地下図書館探索

最終改稿日2016/10/28

 私は図書館に潜るときいついかなる場合でも手を抜いたりはしない。油断が即、死に繋がる危険な場所だと知っているから。どういう訳だか知らないが図書館の歪みは深さに比例して出てくるモンスターの危険度が上がる。けれどもそうだと言って安心は出来ない。この前みたいな大規模歪みの時には本来なら奥深くで出るはずの竜種なんてものが出てきたりするから。

 だから、装備品や所持品に関しては予算の許す限り一級品を揃えておく。それが図書館司書としての最低限の備えだから。能力や技能は人それぞれだから仕方がないけれど、条件が同じであるならばなるべく努力して自分やパーティーメンバーのために足を引っ張らないようにしなくちゃいけない。


「お待たせ。遅くなってごめんなさいね?」

「いや、まだミランダのグループが着替えに手間取っているみたいで今エレンとラミエルが手伝いに行ってる」

「新入生だし、事実上今日が本気で潜る初日だからしょうがないか」

「まぁな。魔法使い系のミランダ、セレス、クレアは良いんだが……戦士のミューとカレン、それからハンターのジーナが少し手こずってるようだな」


 ミランダちゃんはフェンリルの神官。セレスちゃんはルーン・マスターを目指すソーサラーでクレアちゃんは精霊使い。ミューちゃんとカレンちゃんは戦士よりの神官戦士でジーナちゃんはこのパーティーである意味要になりうる特殊技術を学んでいるハンターだ。

 そう、エレン達のパーティーには罠関連のスキルを学んでいるのがジーナちゃんだけという、図書館ダンジョン以外の場所では最悪、罠に突っ込んで踏み潰すを地で行くような危険なパーティー編成をしていた。幸い、ミランダちゃんの侍女のマリスさんがその道のエキスパートでジーナちゃんをしっかり事前指導してきてくれたらしく、初級ダンジョンくらいならなんとかなるらしい。

 図書館ダンジョン自体はギミックの類はあっても罠というものは滅多に存在しない。未踏の階にならあるかもしれないけれど、ベテラン探索隊の到達階にはまず、あり得ない。……とはいえ油断は禁物。イタズラ好きな精霊が仕掛ける可能性を否定できないから。


「お、ようやく来たみたいだ」

「ごめん、お姉ちゃん。ちょっと遅れちゃった」

「済みません、お姉さま。初めてミューとカレンが金属鎧を装備したので手間取りました」

「んーん。いいのよ、命を守るのには大切なことだからね?ドゥエルフ、貴方がリーダーでパーティー組んでくれる?」


 私に言われたとおりにパーティー編成を済ませ受付に登録してくる。潜るための依頼内容としては私の実験助手と言うことにしておいた。勿論今回はきちんと報酬を支払う予定だ。コンペの事もあるし、遠慮なんて絶対させない。報酬をきちんと受け取ることと必要経費を要求することも冒険者として大事な事なんだから。喩えそれが身内だとしてもね。

 どうやら準備が終わったみたい。ミランダちゃんたちには受付で改めて注意事項の説明をマリア先輩にお願いしておいたのだけれどもみんな熱心に聞いてくれたようだ。この世界、信頼が置けるのであれば先輩冒険者の話には勉強になる情報がたくさんある。それを吸収できるかどうかも命の分かれ目になったりするからね。


「じゃあ行こうか?……うん、隊列は組めているね。戦闘は余程でない限りは手出ししないからみんな、頑張ってね。ただし無理はしないこと。ミランダちゃんたちは先輩4人の指示に従うこと。いいね?」

「「「「「「はいっ!」」」」」」

「ん。じゃあ出発」


 ドゥエルフ君とエレンを先頭に、私が殿で、落ち着いてゆっくりと階段を降りていく。

 地下11階への階段に張られた結界をミランダちゃんたちがドキドキしながら通り抜けていくのを見ながら私の初めて潜った日を思い出す。


「よーし、全員神経を集中しろ。ここからは少しの油断が命取りになるぞ?迂闊に本には触れるな、モンスターが化けてる場合もあるからな」

「「「「「「はいっ」」」」」」

「よし。それで先輩。何階まで降りるんですか?」

「ん、今日は地図を作りながら出来たら15階まで。多分コンペは物品探索系になる可能性が高いからせっかく先に入ったんだし作ってしまいなさい」

「いいのかな…………?」

「別にルール違反じゃないから気にすんな。綺麗事だけじゃやっていけないぞ?」

「そうだね……ミランダちゃんは王太子妃候補でしょう?もし選ばれて王宮に嫁いだとき、ここでの経験はきっと生きると思うよ?王宮という場所は綺麗事だけで済まない場合もあるからね。……私のご先祖様のように、ね……」


 不安がるミランダちゃんにドゥエルフ君がフォローを入れ、リリーちゃんが諭すように言い聞かせている。オルテリィート家はその昔、空中都市国家オルテリーナから政治的な争いに敗れて地上に追われ、ダナン帝国の帝都付近に流れ着いた歴史を持つ旧い高貴な血筋を受け継いでいる。今でこそ平民階級だけど。…………そのあたりをミランダちゃんに教えてあげたらびっくりして、本当に必死に謝っていたっけ。リリーちゃんから他言無用を言い渡されて何度も頷いていた。

 そんな回想に浸れるほど今のところは順調に地図を作れている。まあ、こんな場所で歪みが早々発生したらそれはそれで学院に中止を勧告しないと拙い気はするけれど。

 カンテラで照らす薄暗い中、やたら広い部屋に整然とは行かないまでも床に本が散らばるわけではない本棚の迷路をミランダちゃんが記録しながら残りのメンバーが周辺警戒を続けている。

 地下11階、12階は順調に記録を終え13階に降りて気合いをみんなで入れ直したその時…………目の前の空間がぐにゃりとひしゃげて人型の極端に青白い肌をした、眼球が白濁している明らかにどう見てもアンデッドと思える存在が5体出現した。


《ウォァァォゥァァ…………俺タチノ宝ヲカエセェェェェェッッッッッ!!!》

「ちぃっ!よりによってシンかよ!数が多い、リリーとラミエルも前に出て壁を作れ!」

「分かった!」

「任せて!」

「ミューとカレンは防御に専念しろ、後ろに行かせるな!」

「「はいっ」」

「ミランダたちはその後ろから5匹目に魔法を集中して叩き込め!治癒魔法もダメージを与えられるが、状況を見極めて頑張れ!」

「「「わかりました!」」」

「ジーナは全体を見て援護射撃を頼む!」

「はいっ」


 パーティーリーダーのドゥエルフ君がモンスターの正体を一発で見抜き、的確に指示を出して戦闘態勢に入っていき、ミランダちゃんたちに近寄らせないように積極的に攻勢に出る。

 激しい戦闘が始まる。範囲系の魔法はみんなを巻き込むため使えない。ミランダちゃんたちは自分の覚えている魔法を自分の精神力に見合わせてミューちゃんとカレンちゃんが防御に専念して耐えている間に削っていき、ミランダちゃんは2人の回復のために精神力を温存しているみたいだ。

 相変わらず激しい打撃音が続いている。私はそんな彼女らの周囲を警戒している。さすがに連戦はきついだろうし、未だに歪みの穴が開いたままなのが気になるからだ。


「ミュー、カレン、もう少しだけ耐えて!」

「はやく、結構、きついの!」

「でも、ひぃさまのために……がんばるわ!」


 ミランダちゃんの回復が徐々に追いつかなくなってきている。それでもミランダちゃんは必死に歯を食いしばって意識を飛ばさないようにしながら2人に癒しの手をかざし続けている。


「うぉら!トドメだ!」

「ドゥエルフ、次はこっちお願い!私は2人の方を引き受けるわ!」

「任せろ、オラオラオラァッッッ」

「リリー、もう少し粘って!」

「大丈夫、これくらいなら私だって!」


 ドゥエルフ君が一匹を屠りラミエルちゃんが相手していたモンスターに横から殴りかかり注意を引きつける。その間にラミエルはミューとカレンに回復魔法で傷を一気に癒してミランダちゃんを守って下がるよう目配せして相手を変わる。


「ミランダちゃんたちは周辺警戒を続けて。まだ歪みは閉じてないわ」

「「「「「「はい」」」」」」


 ドゥエルフ君の鈍器が炸裂して相手をしていたシンの一体を粉砕して屠る。エレンもなんとか倒しきりリリーちゃんのフォローに入って戦い続け、その間にリリーちゃんが傷ついてるみんなの傷を癒し始め…………なんとか一人の脱落もなく戦闘に勝利した。

 歪みの方も戦闘の終わりと同時に閉じ連戦はどうやら避けられたようだ。


「みんな、お疲れさま。初めて組んだパーティー戦にしては上出来だったんじゃないかな」

「……5匹で助かったよ……これ以上増えてたら間違いなくミューかカレンが怪我してたからな。それにしてもよく耐えた。ミランダも……な。ほれ、取り敢えずこれ飲んで精神力回復しとけ」

「「「ありがとうございます」」」


 受け取ったポーションをミランダちゃん達魔法職の3人が苦さに顔を顰めながらもこぼさずに飲み干していく。


「さて。どうする?続けられる?それともここまでにする?」

「ミランダ、お前はどう思う?遠慮無く意見言って見ろ」

「……え、あ、はい」


 ミランダちゃんはカンテラに照らされたみんなの顔色や疲労の度合い、自分たちの状況を確認して少し考えた後はっきりとこう答えた。


「残念ですが、わたくしたちはここまでが限界だと思います。先輩達はまだ余裕がありそうですが……ミューとカレンが限界だと思いますから」

「……よし。良い判断だ。……先輩、俺たちはここまでのようだが、ところで先輩の実験というのは?」

「うん、本番で使う緊急脱出用の護符を試して欲しいのよ。はい、これ。受け取って?」


 私は風の精霊力と大地の精霊力が込められた護符をドゥエルフ君に握らせた。


「その護符はね、リーダーが合い言葉を唱えることでメンバー全員を地上に戻してくれるの。さ、使ってみて?合い言葉は『リターン・ランド』よ」

「分かりました、先輩。じゃあいくぞ、『リターン・ランド』!」


 ヒュンッという風切り音を残して私を除くみんなが一瞬にしてどこかへ飛び去ったようだ。どうやら成功したらしい。


「ふぅ…………成功かな。さてと……私も帰ろうかな」


 地上へ向かう階段を上りながら私は今回現れたアンデッドのレベルが高めなのを懸念していた。こんな低階層で出現したのは初めてだと思う。どうも最近ここの時空間の歪みが酷いのはきっと気のせいじゃないと思う。無事にコンペを終わらせるためにはもう少し調整が必要になるだろう。

 出口まで延々と考えながら上り続けたところで地下10階にて待っていてくれたみんなに出迎えられた。


「はい、お疲れさま。受付に行って報酬を全員必ず受け取ったら着替えて再びロビー集合ね。お昼ご飯にしましょう?」

「「「「「「「「「はーい♪」」」」」」」」」「おう」


 ようやくみんなに笑顔が戻るのを微笑ましく見守りながら今後の安全対策の面倒さに少しだけ、頭が痛くなった…………。

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