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Geister Kontinent   精霊大陸での日常  作者: うぃんてる
第一部 賢者の学院編
20/234

16.神託と寵愛

最終改稿日2015/04/11

 お華見から三日後の深夜。ラミエルは夜着の上にもう一枚更に羽織って炎の神殿、居住区画の月明かりに照らされた廊下を急いで歩いていた。

 ラミエルはファリスからついさっき言われたことに困惑していた。

 曰く『神託』授けたいから神殿長おとうさま高司祭おかあさまを今すぐ呼んでこい、と。


「お父様、お母様。まだ起きていらっしゃいますか?」

「おお、ラミエルか。どうした……?まぁ入りなさい」

「失礼します」


 大きなキングサイズのダブルベッドに両親が横たわり、お父様が衣服を正して私の方へと歩み寄ってくる。


「一体この夜更けにどうしたのだ?」

『それについては私、ファリシエール・イルフェーンが答えるわ』


 突然ラミエルが炎のようなオーラに包まれ明らかにラミエルではない雰囲気で話し始める。


「なっっ?ま、まさか。いや、そんな?」

『安心なさい。この子は大丈夫。降臨するのに身体を借りているだけ』

「ははぁっっっ」

『聖別された紙と筆を。紙は四枚でいいわ。文字は古代神霊語にするわね……』


 そうして炎の精霊神が降臨したラミエルが4通の古代神霊文字で書かれた文章を記し筆を置く。


『此度の騒動、誠に許しがたし。エリシア・グルノバが許すとも我が姉ナーシャ・フェルリシアが立腹されておる。この神託をそれぞれウィシュメリア王家、シルフィニアス公爵家、賢者の学院へ渡せ。よいな?』

「はっ」

「…………ときに、ファリス。貴女……私の娘に手を出したでしょう?」

『れ、レミリア?!起きていたの?!…………こほん。ウィシュメリア神殿長。しかと頼むわよ?』


 ラミエルをまとっていたオーラが消え去りその場に崩れ落ちる。あわててラミエルの父が駆け寄り抱き上げて妻のレミリアの隣へ寝かせる。


「ところでレミリア。さっきのはいったい……」

「案外貴男って鈍いのね?ラフィ。私が旧ファリスの寵愛もち。ラミエルが現寵愛もちよ……ったく、あの時ね?私のラミエル、押し倒したのは…………」


 神殿長は石像のように立ち尽くして固まっていた。神託を目の前で授かった以上にショックだった。


「まぁいいわ。その4枚目は神殿で保管しておけという意味だと思うのだけれど…………ラフィ、なんて書いてあるの?貴方なら読めるでしょう、古代神霊文字」

「あ、ああ……。…………っっっ?!」

「ラフィ?……ラフィ~?あら、ダメね。硬直しちゃってるわ」


 余程ショッキングな内容が書かれていたのだろう、夫ラフィールが目を見開き冷や汗らしきものを垂らしながら完全に固まっていてレミリアの声すらも聞こえていないらしい。


「んぅ……あれ、お母様?」

「おはよう、ラミエル。降臨お疲れさま。大丈夫?身体」

「え、ぁ、うん……ごっそり魔力持って行かれた以外は…………」

「そう。じゃあまともには歩けないわね。お部屋まで連れて行ってあげるわ。丁度話したいこともできたしね?」


 妻子が立ち去った寝室のなかでラフィールは何度も何度も繰り返し、奉るエフリート神からの神託を読み直していた。通常、神託はある程度の事象をゆるく表現していて解釈が分かれるモノであるというのに、今回のソレは…………あまりにも具体的であり、限定的であり、衝撃的だった。


『氷神ナーシャ・フェルリシア及び光神エリシア・グルノバ、炎神ファリシエール・イルフェーン、そして闇神アルカイト・グルノバは寵愛する子らを傷つけ悲しませた者を許さない。従って直接危害を加えし男より加護を剥奪する。子らに不要な接触を試みる事なかれ。 ファリシエール・イルフェーン』


「誰だ…………よりによって神々、しかも4柱も激怒させた大馬鹿者は…………一大事だ、すぐにでも王宮に行かねば」


 蒼白を通り越して真っ白になったラフィールは王宮に先触れを出し、王国にとっての火急の件として陛下への謁見を要望し『神託』を納めた聖なる専用の箱と共に深夜の王都を馬車で疾走して文字通り駆け込んでいった。


 ウィシュメリア王国国王執務室。

 炎の神殿ウィシュメリアは本来の大神殿が現在見つからない状況では2番目の規模を持つ中神殿の位置にあり仮初めの大神殿として機能していた。その神殿の神殿長自らが火急の一大事と先触れがあり真っ白な表情で今、国王の前に立っている。そして差し出された『神託』を手に取り目を走らせた国王・サーレント・ダナンは…………盛大に溜息を吐いた。


「ラフィール。このことは誰ぞに話したか?」

「いいえ。ですが、授かった場には我が妻子がおりまして…………ファリシエール様は我が娘ラミエルに降臨為されました」

「分かっているとは思うが、他言無用を守らせろ」

「畏まりました」

「…………それにしても、あれか。よもやこの国に寵愛持ちが3人もいるとは思わなんだな…………いやはや」

「…………」

「よろしい。本日午後、改めて学院長と公爵家当主をここに召集させる。その際お前も臨席せよ。下がって良いぞ」

「畏まりました。御前を失礼致します」


 ラフィールが立ち去り静かになった執務室でサーレントは呆れ顔で呟き『神託』を異空間に保管すると寝室へと戻るのだった。


「…………相変わらずだな、あの女神様たちは。もう少し威厳を…………無理か。やれやれ、800年前と変わらないな…………」

「そういえば……彼女は元気だろうか。ナーシャが転生させたという……リン・エンシェは……」

「…………幸せになっていればいいのだが……」


***


「さてと、ラミエル。貴女……寵愛持ち、よね。いつか様子のおかしい日があったけれども、あの時授かったのね?」

「お母様……どうして?」

「貴女の前に寵愛受けていたのは私だもの、当然よ。そして今回貴女は降臨の器になった。それで確定よ」

「え…………?」

「神様が降臨出来る要件はね。一つは自身が祀られている神聖な場所。もう一つは寵愛している相手の器を借りること、または寵愛相手のそば。最後は神霊魔術の『コール・ゴット』やウィザードの遺失魔術による力場固定の降臨儀式。この三つなのよ」

「えっと……それじゃあ……今回のことで私のこと、ばれちゃう?」


 降臨よりもやっぱりそっちの方が心配になるとは我が娘ながら賢い。レミリアは心配そうな顔をして不安がる娘を抱き寄せて頭を撫でながら安心させるように微笑んだ。


「大丈夫よ、王家が箝口令を敷くはずだしお父さんも私も貴女を必ず面倒事にならないように守ってあげるから」

「う、うん。ありがとう……」

「そう言えばドゥエルフ君とはどこまで行ったのかしら?ん?」


 ニヤニヤと娘を問いつめる母親。その母親に顔を朱に染めて俯く娘。


「き、キスだけだよ……」

「あら意外。もうしてるのかと思ったのに」

「だってドゥエルフ、純情だもの」

「……案外貴女から押し倒さないと無理かも知れないわよ?」

「お母様!?」

「するときは言って?神殿娼婦の部屋、用意しておくから♪」

「~~~~~っ///」


 顔を真っ赤に染めて言葉を失い照れている娘にレミリアはそっと囁く。


「そうそう、してもらうときはまだ学院生なんだから避妊しなさいね?」

「お、お母様?!!」


 初々しい反応を示す自分の娘を微笑ましく見つめながら同じくらいの年頃に同じように母親に言われた事を思い出していた。


『貴女はこれから周りに気を付けて生きていかねばならないよ?寵愛を受けていることは迂闊に話してはいけない。貴女が不幸になるばかりか大切な人も失うかもしれないから』


 まさか自分の娘も寵愛受けるとか思わなかった。けれども分相応さえ理解できていれば少なくとも不幸にはならなくてすむから、まぁいいのかしら。


「ラミエル。聡い貴女のことだから理解していると思うけれど」

「はい、お母様」

「その事は他の誰にも迂闊に喋ってはダメよ?」

「はい。けれども…………エレンとリリー、ドゥエルフとウィンテル先輩は知っています」

「多いわね……」

「みんな口は固いから大丈夫」

「そう。……本当に気を付けなさいね?」


 真摯に頷く娘を抱き抱え直し掛け布団を引き寄せると、どうせ夫は今夜は寝れないでしょうし、と久しぶりに娘の寝顔を堪能するのだった。


***


 翌朝。

 ラミエルたち4人は学院に登院する前に今週の光の日から寄る様になったミランダ達が滞在する屋敷に行き、仲直りした後輩たちと一緒に登院していた。

お華見の場でわだかまりを無くし、更にウィンテルがミランダを義妹として認めた以上彼女たちを守るためにも親密な関係になったことをアピールする必要性もあったし、腹を割っておしゃべりしてみれば実はそんなに悪い性格どころか良い子ばかりであったため、昨日からはお昼休みにウィンテルの勤務する図書館の食堂で一緒にお昼を摂るようにまで仲良くなっていた。


「そういえば最近シルフィニアス、見ないわね」


 教室に着いて担当技官が来るまでの間に最近の疑問をエレンが呟いたの聞いたクラスの男子で精霊語魔術師コースに彼女がいる子が教えてくれた。


「あー、ドルカイルの奴な、実家で謹慎中らしいぜ。兄貴3人に説教と根性叩き直されてるって噂だよ」

「「「「ぷっ」」」」


 思わず笑ってしまった。


「ま、エレンのリリーちゃんいじめた張本人だし、自業自得じゃね?」


 なんかいつの間にかエレンとリリーの仲はクラス公認になってしまっていた。ラミエルとドゥエルフもだったけど。何人かの男子は不満を言っていたけれど、ドゥエルフに『ラミエルが欲しければ俺を倒してから告白しろ』とか言われて引き下がっていたみたいだった。


「それにしても技官遅いねー?」

「そうだね、エレンちゃん。何かあったのかなー?」


 いつまでたっても来ない技官にクラスが騒つき始めている。いつもの時間から30分過ぎた頃ようやく技官が現れた。


「遅くなってすまん。臨時の全体朝礼が長引いてな。よし、全員いるな?本日の予定だが―――臨時休校になった」

『ええええええええ!!』

「静かに。学院側の都合によるものなので、本日分の単位は認定する。それから、可能なら月末の全学年共通の探索コンペのパーティーを決めて置くように。登録人数だが、今年は場所が特殊なため最低6人〜最大10人となった。更に新入生最低4人含める事。つまり―――新入生だけのパーティーは認められない危険性のある場所だということだ。決まったらメンバー表を早めに提出すること。以上だ」


 言うだけ言って技官は帰って行った。


***


 学院の内外は探索コンペのパーティーメンバー勧誘で騒然としていた。


「リリー、ラミエル、ドゥエルフ。行くよ?ミランダちゃん達のところ。早く行かないと可哀想かも」

「あ、うん。そうだね、行こうか」


 今までの彼女らの態度からして孤立しているか、若しくはそれをネタに加入を強要されているか。どちらにしても好ましくはない。

 そして彼女らのいる教室に近づくと既に騒ぎになっていた。


「強情だな。お前らお高いお貴族様を誘ってくれるような奴らはいないんだからおとなしく俺たちのパーティーに入れって言ってるんだよ!」

「そうそう、今なら手取り足取り腰取り、朝から夜まで何でも教えてやらぁ!」

「がははははは!」


 バカ笑いしているのは神官戦士科の2年次生のようだ。不躾な言葉に引き攣る表情のお付きのお嬢様達を後ろにミランダが毅然として断っている。


「申し訳ありませんが先輩方。わたくしたちは既に先約を頂いておりますの。お引き取りくださいませ」

「嘘付け、学院一の嫌われ者が見栄張ってんじゃねーよ」


 チッとドゥエルフが苛ついた表情を何とか押し込めて騒動の中心に歩み寄っていく。その後ろにラミエル、エレン、リリーの順で続く。


「ミランダ、悪い。遅くなってすまんな。迎えに来たぞ」

「ドンガー様!……お言い付け通りお待ちしておりましたが、この方達が何度先約があると仰いましても…………」

「ドゥエルフ・ドンガー!?な、何であんたらが。……」

「何でって、私たちとウィンテルお姉ちゃんの可愛い義妹いもうとたちだもの。お姉ちゃんから今度のコンペも面倒見るようにお願いされてるの。…………何か文句あるの?」


 ドゥエルフの背中から顔を出して男たちを睨み付けながら言うと形勢悪いと判断した男たちは顔を見合せるとそそくさと逃げ出した。


「怪我とか無さそうだな。取り敢えず場所を移すか、図書館の食堂でいいな。今なら混んでないだろ?」

「ドゥエルフ君、甘いよ?休校だから多分混んでる。この際だから、エレンちゃんちに行こう?」

「そうね、うちなら落ち着いて話せるわ。一度ミランダちゃんとこの屋敷に寄って荷物置いてから行こう」


 お昼は私とお母さんたちで作るから楽しみにしていてね?と笑うエレンをミランダたちはコッタンではあり得ないことにびっくりしていたものの、この国では普通なのかなと少しずつ現状を受け入れ始めているようだった。


***


 昼過ぎ。

 王宮の国王執務室は緊張に包まれていた。

 その場所には賢者の学院学院長メンドゥーダ・ドレン侯爵。ウィシュメリア宮廷筆頭魔術師パリウス・シルフィニアス公爵。そして炎の精霊神エフリートの事実上の大神殿神殿長ラフィール・フィーレハルト。

 そうそうたる顔触れではあるが、何故このメンバーなのかと思えば思い当たる事件に学院長と公爵は嫌な予感がしてならなかった。


「忙しいのに悪いな、皆の者。ちょっと面倒な事が起きてな…………ラフィール、説明を頼む」

「は。実は昨夜、エフリート神さまが降臨なされまして……『神託』を授かりました。その際、異例な事に宛先を指定されまして」


 その頃には学院長は蒼白に、公爵は昨夜のラフィールのように真っ白になって倒れそうになるのを何とか踏み留まっていた。


「…………公爵と侯爵はどうやら心当たりがあるようだな。まあ、取り敢えず読め。古代神霊文字だが、お前たちなら読めるはずだ」


 国王自ら渡される聖別された『神託』を震える指先どころか震える手で受け取り読み始め…………2人とも卒倒し気失った。


「やはり、か。ラフィール、ひとまず起こせ。落ち着かせてから話を聞くとしようか」


 一時間後。


 人払いをして静寂に包まれていた、国王執務室のある離宮に普段は冷静沈着、滅多に声を荒げないサーレントの怒声が響き渡った。


「この、愚か者どもがっ!!この件がなくとも、深刻な外交問題になりうる案件を隠蔽するなど何を考えておるのだ!!特に公爵、我が側近でありながら何を考えている!!」

「も、申し訳ございませんっっっ!!母が、あの愚弟を庇いたて致しまして罰するなら自分を殺せと言い張り…………」

「馬鹿者!そうであっても報告するのは当たり前であろうが!!お前は我が国の不利益の責任を取るのが誰だと思っておるのか?!思い上がりも大概にせいっ!!」


 土下座して平身低頭したまま謝罪する公爵を陛下が容赦なく罵倒している様を見て侯爵も膝を付き頭を垂れている。

 叫びすぎて酷く乱れた呼吸を整えたサーレントは次の矛先を侯爵に向ける。


「……学院長。確か私は彼女らを頼む、と言ったはずだが?」

「は、確かにそのように承りました。しかし、明確に被害の申告を受けなければ…………」

「お前も同類か?賢者とは知識だけの木偶の坊か?想像力がないのか、お前たちは。ミランダ嬢たちが故国の外交官に接触しなかったから良かったものの、されていたら同盟関係にひびが入るどころの問題ではないわ!」


 ひとしきり叫び尽くして深く深くため息を吐いたサーレントは精魂尽き果てた2人にもう感情すら込めたくもないかのように言い渡した。


「追って再び召還する。さがれ。…………うまく事を納めてくれたウィンター伯爵家に感謝せよ。それから、ラフィールは今しばらく残れ」

「「……は……」」


 まるで死人のような表情で退出する公爵と侯爵をラフィールはただ、見送るしか出来なかった。

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