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Geister Kontinent   精霊大陸での日常  作者: うぃんてる
第一部 賢者の学院編
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1.前世の記憶

最終改稿2014/08/25

「お姉ちゃん、どうしたの……?ぼーっとして」

「…………え?ううん、何でもないのよ。ただ、いい天気だなぁって」


 ベッドの中から大きな窓を通じて心地よく晴れた青空を暖かな優しい光の春の日差しを身体に浴びながら眺めていた私に妹のエレンが少し心配そうな表情で声を掛けてくる。


 私の名前はウィンテル・ウィンター。古王国ウィシュメリアのウィンター伯爵家に長女として転生した。家族は他にお母さんで伯爵夫人のフェルリシアとお父さんで伯爵家当主のウィリアム、そして大切で可愛い一歳年下の妹、エレンがいる。

 私が自分を転生者だと理解したのはつい最近のことだった。高熱に倒れ自分のベッドの中で唸っている時に見た夢の中で見たこともない物体や明るすぎる照明に囲まれ、何故か懐かしい気配の年輩の男女と自分と同じくらいの女性、それから私の手を握って涙ながらに励まそうとしてくれている愛しいと思える男性がいて、そんな彼らに私は精一杯の笑顔で、けれども苦しい息づかいで感謝を述べ……永い眠りについたところで意識をこちら側に戻したのだ。

 前世で私は病弱だったらしい。そして今世でも私は体力があまり無く病弱気味だった。今まではそんなに生きることに何も感じていなかった私だったけれども、前世を少しずつ思い出しては今世こそは悔いの無いように生きて天寿を全うしたいと思うようになっていた。


「本当に大丈夫?お姉ちゃん。……また前世?のことを思い出してたの……?」

「少しだけ、ね。でも前世は前世。私はウィンテルでエレン、貴女のお姉ちゃんだよ。大丈夫よ、心配してくれてありがとう」


 そういって私はエレンを優しく抱きしめて艶やかな淡いアッシュブロンドの髪を撫でる。

 私は前世を思い出した後に病床で伏せる私を心配し集まっていた家族に特に思うところ無く正直に告白してしまっていた。普通であればそれはただの夢だと一笑に付されるのが普通なんだろうけれど両親と妹は何の疑いもなく受け入れてくれた。

熱が下がったあとに様子を見に来てくれたお父さんにどうして疑わないのか聞いてみたところ、お父さんは特に悩むような表情も見せずきっぱりとこう答えてくれた。


「可愛い私たちの娘がこんな病床で苦しんでいるときに嘘偽りを言う理由がないし、お前が不必要にそんなことを言うような娘じゃないことは理解しているからな。その前世とやらはお前の大事な思い出なのだろう?」

「うん…………前世で私は病弱で、いつも伏せっているような毎日だったけれどみんな大切にしてくれたの」

「じゃあそれでいいじゃないか、前世を思い出したことで何か問題が起きる訳じゃない。ウィンテルはウィンテルで私たちの娘でエレンのお姉ちゃんだ。思い出は大事にして、けれども今を悔いの無いように生きなさい。それで充分だと思うよ」

「…………ありがとう、お父さん」


 少し心が軽くなった気がした私は未だベッドの上の生活ながら順調に回復してきた。これなら職場復帰もそんなに遠くないだろう。


 この世界はヘキサニア大陸と呼ばれる一つの大きな大陸にウィシュメリアを含む七つの王国が存在している。

 大陸の中央部に四方を山脈に囲まれて古王国ウィシュメリアがあり、北の方に迷いの大森林を擁したエルフ達の王国、森王国シェルファ。北東部にこの世界の宗教の主神の総本山がある王国、精霊王国コッタン。南東部には魔導を極めんとして魔術師達が集いて作られた研究都市を中心に作られた王国、魔法王国ケイオス。南部には海運業が盛んで古代の海上都市を王都に海の漢たちが集まる、海上王国シャーキン。南西部には国土の95%を平原とし、大陸随一の軍事力を誇る王国、平地王国ユールシア。そして北西部に位置し国土の大半を不毛の砂漠とする熱砂王国アスランとなっている。

 この世界の宗教は世界を構成すると言われる七柱の精霊神様と創造神とされるヴァシュヌ神を中心に信仰されていてこの世界に住むあらゆる種族が信仰しているのだという。

 また文明もファンタジー世界にありがちな中世程度の文明ではなく、転生前の現代日本によく似た高度魔導文明であり庶民の生活水準は国によって違いはあるものの、概ね現代日本並みに高かった。ただ、やはりどこかアンバランスな面はあるようで、軍事大国が飛空戦艦を飛ばしているのに石畳の道を馬車が普通に走っていたり、魔導の力で動く洗濯機などの家庭製品はあるのに生活圏を離れれば一般市民では太刀打ちできないようなモンスターが存在している。そして、火薬の類は発見されなかったのか存在しないのか分からないけれど銃や大砲などの兵器はこの世界には存在していなかった。

 もう一つ、この世界には転生前の世界には無いものがあった。それは冒険者を養成するための学校機関である賢者の学院。普通の学校とは別に存在していて魔術師や戦士、神官やトレジャーハンターなどの冒険者と呼ばれる職業に就くための学院があり、この世界では冒険者として活躍することが一種のステータスになっていた。勿論私も去年学院を卒院し、王立地下図書館に冒険者兼司書として勤務している。妹のエレンも在籍していて特に何事もなければ来年ぐらいには卒院できるのだろう。

 一般的に前世での常識では冒険者は荒くれ者で市民権を得ていないような流れ者……といった知識しかなかったのだけれども、この世界では賢者の学院を卒院した冒険者は引く手数多の花形職業で高度な技術と知識を兼ね備えた立派な職業だった。良家の子女ほど学院に入学し、一般庶民の子でも入学試験さえ突破できれば入学できたし、学費も王国の補助を受けられるため事実上誰にでも門戸は開いていた。

 私は魔術の才能が高かったため本来はなかなか手にすることの出来ない名誉導師位まで卒院時に与えられてしまったけれども、体力の無さと病弱というステータスのために国内外での華々しい活躍は求められず、私を心配した両親と学院長たっての希望で王立地下図書館の司書として配属された。余程のことでない限り戦闘には巻き込まれないし、定時には帰宅できるので安心なのだろう。

 最初初めて王立地下図書館に本を借りに行ったとき、物々しい防具を身に纏った完全武装の冒険者らしいグループが地下へ降りていくのを見てびっくりしたものだった。聞けば下へ潜れば潜るほど貴重な文献や魔法の品物などが見つかるらしいのだけれども、その代わりにどうも地下の方は時空間が歪んでいるのかモンスターに出くわしやすくなるとのことで、最深部に近いあたりではエルダードラゴン種まででるらしいとの噂もある。

 だから王立地下図書館の司書は不測の事態に備えるために有力な冒険者しかなれないと教わっていた。当時はその司書に私がなるとは思っても見なかったのだけれどもね。


「あ~あ。早くお仕事に戻りたいなぁ。もう背中が痛くて寝ていたくない…………」

「ダメだよ、お姉ちゃん。しっかり治さないとまた倒れちゃうよ?私が来年お姉ちゃんの所に行くまでは何かあってもサポート出来ないんだからね?」

「う、うん。分かったよぅ……」

「もうすぐお夕飯だからね。今日は久しぶりにお母さんが作るっていうし、しっかり食べて元気になろうね」

「うん。いつも心配ばかり掛けてごめんね。お姉ちゃんなのに……」

「ほらもう、すぐにそんな顔して。私はお姉ちゃんが居るから頑張れるんだよ?来年にはフェンリル神様の神官戦士として卒院出来そうだから、そうしたら司書になってお姉ちゃんのこと助けてあげる」


 そういってエレンはにっこりと愛らしい笑顔を向けて微笑んでくれた。


***


 古王国ウィシュメリアは別名『冒険者たちの王国』と呼ばれている。その理由は他の国々には無い政治形態があげられる。基本的に王制なのは変わらないのだけれども、世襲制では無い。例外的に貴族院が認めた場合のみ世襲が認められるけれどそんなことはここ数百年無いのだという。

 ではどのようにして決めるのかと言えばその時々の王がふさわしいと思う冒険者を指名し貴族院の協議を経て認められればその人物が新しい王となるのだという。

 現在の国王陛下はサーレント・ダナン陛下で種族はエルフ。聡明な賢者でその治世は評判が高く王都ラドルを中心に戴冠からこの数十年以上栄えていた。

 またこの国の貴族達も他国のような身分的な差別という事に関して言えば元々が名高い冒険者であるということなだけで国内では特権階級的に威張り散らしたりする者はどちらかというと滅多におらず大体が人格者であり、豪華絢爛よりは質素堅実。名目上、他国の貴族制度に対抗する形で制定された経緯もあるためある程度の華やかさはあるにしても庶民的な一面を併せ持つ人間が多い。

 ウィンター伯爵家もそのひとつで必要最低限の使用人だけを雇い、伯爵夫人であっても自らキッチンに立って料理をしたりするがこのことは別に珍しい事でもなく他家でも家庭的な雰囲気を大事にする夫人達は何かあると自分で家事をしていた。


「お姉ちゃん、もうすぐご飯だから用意するね」


 普段であれば食堂の長テーブルに家族で座り、執事でお父様の忠実なる部下のヨハンが給仕する中暖かい団欒を迎えるのだけれども私が病床に伏せってからは私の寝室に家族四人が座れる程度のテーブルをエレンが持ち込んで一緒に食事を摂るようになった。さすがに毎食は難しいので夕食のみの限定だったけれど。


(貴族の生活ってこんな感じで本当に良いのかなあ……?まあ私としてはこっちのほうがやりやすいからいいんだけれども……)


 両親と妹が納得しているのなら別にいいかとウィンテルは気を取り直して寝間着の上に軽く衣装を羽織り、春とは言えども日が沈めば肌寒いどころか晩冬のように寒くなる王都の夜を前にしてヨハンが暖炉に薪をくべているのを眺めながら自分のために用意された席に腰掛けて当番の侍女たちが用意してくれるのをいつものようにありがとう、と微笑むのだった。

お読みいただきありがとう御座います。

オリジナルの世界観に基づいて執筆しておりまして他のファンタジー世界には無いものも御座いますが、そう言う世界だと御了承くださいませ。

また、著者の仕事の関係や健康問題(主人公同様病弱気味で申し訳ありません)により更新は不定期となりますので、なるべく頑張りますが気長にお待ち戴けると助かります。

また、通常なら執筆上の作法的におかしいと思われる場所も御座いましょうが、理解した上で意図的に記述しているものも御座いますのでお気になさらず。

それではどうぞよろしくおつきあいの程お願い致します。

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