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Geister Kontinent   精霊大陸での日常  作者: うぃんてる
第一部 賢者の学院編
10/234

8.閑話 とあるお茶会 1

どこか遠い遠いところのお話しです。


最終改稿2014/08/25

「エリス、それとそこで死んでる姉貴。お茶入ったぞー」

「ありがとう、お兄ちゃん。…………ほら、お姉ちゃん。冷めちゃうから……いこ?」


 何もないただっぴろい名も知らないような小さな花々が咲き乱れる野原のど真ん中に精巧な彫刻が美しい真っ白な円卓と椅子が三脚。

 全身を黒衣に包んだすらりとした男性がお茶の用意をしている。

 そこへ純白のサマードレスに身を包んだ小さな少女が銀糸のワンピースに身を包んだ女の子の手を引いてやってきた。


「姉貴。いい加減立ち直れよ…………な?お気に入りのケーキ、エリスが作ったんだぞ?」

「お姉ちゃん……今回はどっちかというとお姉ちゃんの対応がまずかったんだからもう切り替えようよ」


 黒衣と白衣の兄妹がなんとか銀衣の女の子を椅子に座らせようやくお茶会を開始する。


「そう言えばお兄ちゃん。前々から言おうと思ってたんだけど…………お月様のお仕事してるときくらい大丈夫だからそんなに心配しなくてもいいよ?」

「ダメだ。可愛い大事な妹を夜中に一人歩きなんてさせられる訳無いだろ。後ろからちゃんと見守っていてやるからな、お兄ちゃんが」


 死んだように打ちひしがれていた銀衣の少女が深く、深く溜息を付いてようやくお茶を一口飲む。


「相変わらずね…………このシスコン。いえ、ロリコンかしら?」

「ロリコンじゃねえ!」

「…………もうどっちでもいいよ……はぁ……」


 相変わらずショックを受けたまま、背もたれに身体を預けた兄妹の姉らしい少女が黒衣の男性にカップを差しだし、一言。


「おかわり」

「ん」


 何もない空間からお茶が注ぎ込まれてカップが満たされていく。


「それで、お姉ちゃんは…………どうしてこんな状態になってるの?」

「ん……可愛がっている子に……思いっきり怒られた…………」

「少しは状況とタイミング考えて出てこいって。それからちゃんと仕事してこいっても言われた…………」

「…………姉貴にそこまで言うとか……余程怒らせたんだな……?」

「…………うん……しばらく口聞きたくないから降りてくるな!………って言われたの……しくしくしくしく……」


 あー…………と兄妹はまた再びさめざめと泣き始めた少女を哀れみの視線で見つめる。

 普段は威厳も美貌も可憐さも併せ持つリーダー的存在なんだけれども、こうなってしまうとただの失恋娘状態である。


「ま、怒るのもしょうがねえだろ、今回は。さすがにタイミングが悪すぎるわ」

「そだね……お兄ちゃんの言うとおりタイミングと運が悪すぎ」

「第一、母親が娘をピンチに突き落とすとかありえねぇもんなぁ…………」

「あの子じゃなくても怒るよね。しかも今回はあの子のお姉ちゃんだし……危うくなりかけたの」


 容赦なく兄妹は姉に突っ込み続ける。


「うわーん、反省してるよぅ…………えぐえぐえぐえぐ…………」

「うまく切り抜けたあの子に感謝してやれよ?な?姉貴」

「そだね。よく頑張ったと思うんだ」


 いい加減泣き声が鬱陶しくなり始めた兄妹は突っ込むのを止めて今度は宥め始めたようだ。

 なんとか宥めすかして落ち着かせた兄妹は改めて姉にお茶と特製ケーキを手渡し、まともなお茶会を再開する。


「そう言えばお兄ちゃん」

「ん?どうした、エリス」

「うん、クリスとファリスのバカップル。今はどこら辺ほっつき歩いてるのかな?」

「んー…………あの二人は予測がつかねえからなぁ。大体本来は二人とも相性最悪の筈なのに、なんであそこまでイチャイチャできるんだか、本当に不思議だぜ」

「そうだよねー……あのバカップルの周りって蒸し蒸しするくらい暑苦しいんだもん、何とかして欲しいよね」


 兄妹がぶつぶつと不満を言い合うその隣で、カップルと言う台詞に再び琴線が触れてしまったのかうるうると瞳を潤ませた少女がまた涙をこぼし始めた。


「エルぅ…………私が悪かったから、お願い、もう許してよぉ………………ぐすっ、ぐすんっ」

「あちゃー………………」

「もう、ほっとこう、お兄ちゃん。ダメだよ、これ……回復不能かも」

「そだな…………エルにここまでやられちまったらしばらく無理だな……」


 黒衣の青年が新たに少し離れたところにもう一つ円卓をだしてそちらに妹が椅子を運んでいく。

 姉の残る円卓の上にたくさんの菓子を残し、お茶を入れ直して告げる。


「姉貴、とりあえずなんだ。悲しみは食べて癒すと良いらしいぜ?」

「お姉ちゃん、あとでエルちゃんに早めに許して貰えるよう頼んでみるから…………ね?」

「う゛う゛う゛……ありがどぉ…………ぐずっぐずずっ」


 兄妹は二人きりで溜息を付きながらお茶会を再開する。もう完全にあっちはお通夜状態だ。


「あ、最近小耳に挟んだんだけどね。ようやくシェフィーとグラ。仲直りしたみたいだよ?」

「あいつらまだ喧嘩してたのかよ……懲りねえなぁ……」

「まあ、犬猿の仲だしね。むかしっから」

「今回の喧嘩の原因はなんなんだ?」

「んとね、確か…………シェフィーさんがグラさんのお家を勢い余って削り飛ばしたのが始まりみたい」

「…………この前も似たような理由で喧嘩してなかったか?あいつら」

「…………そうかも」


 兄妹は盛大に溜息を付いた。


「姉貴がこんな状態じゃ……俺たちが頑張るしかないよな?」

「うん……そだね、お兄ちゃん。頼りにしてるよ?」

「ああ、任せとけ、愛する妹よ」

「うん、お兄ちゃん大好き!」

結局誰もまともではなかったというオチ。

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