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着鎧甲冑ヒルフェマン  作者: オリーブドラブ
第四話 呼ばれざるヒーロー
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ヒロインの愛で復活! ……なんて素敵な展開があるはずもなく

 ……あれ……?

 俺、生きてる……のかな……?


 天井を見上げた格好――つまり仰向けに倒れたまま、俺は意識を取り戻していた。どうやら、しばらく気を失っていたらしい。

 死んでないばかりか、記憶をなくしてもいないらしい。俺が撃たれる瞬間のことは、今でも鮮明に焼き付けられている。

 しまいには、「腕輪型着鎧装置」まで俺の手に残されたままだった。古我知さんも詰めが甘いな……いや、俺なんて取るに足らないってことなのか?


 こうして、朧げながらも目を覚ます前から、顔に何かコツコツ当たってるような感じがしていた。何かと思えば……戦いの衝撃による小さな破片が、パラパラと俺の顔に降って来ていたらしい。

 そんな一センチにも満たないような金属片に、俺はたたき起こされてしまったわけだ。ここまで情けないと、もはや笑うしかないな。

 首を上げて辺りを見渡すが、人っ子一人いない。いるとするなら、カプセルの中で眠らされている救芽井の両親くらいか。


「全く、もうちょっとで三途の川でも渡ろうかってとこだったのによ。ははは……あぐッ!」

 目を覚ませば、既に傷は癒されていて――なんて都合のいい話はないらしい。身を起こそうとした俺の感覚神経に、鋭い痛みが走る。

 さらに、喉の奥から込み上げて来るものを抑えられないまま、血まで吐き出してしまった。口元に赤い筋が伸びていくのがわかる。

 そして、痛みの発信源である左の脇腹からは、じんわりと血が滲み出ていた。赤いダウンジャケットを着ているせいで、傍からは見にくいが――撃たれた当事者である俺には、文字通り痛いほどよく見える。


 こんな痛い目に遭って、よく死なずにいられたもんだよなぁ。着鎧甲冑を着ていたとは言え、銃で撃たれた上に、寒い廃工場で意識不明になってたってのに。

 ――俺は、銃撃を受けたショックで気を失いはしたが、金属片が顔に当たった感覚のおかげで意識を取り戻せた。

 それがなければ、助けも来ないような薄暗い部屋の中で、出血と衰弱と冷気でくたばっていただろう。凍死する前に目を覚ましてくれた金属片の皆様に感謝だ。


 さて、意識が戻ったからには出血を抑えなくてはなるまい。もうほとんど止まっているようだったが、万一、これ以上噴き出されたら今度こそ死んじまう。

 俺はダウンジャケットを傷に障らないようそっと脱ぎ、銃創の部分に帯を締めるような気持ちで、袖同士を結び付けた。

 これで傷は完全に塞がれたが、代わりに俺の上半身は黒シャツ一枚になってしまった。敢えて言おう。死ぬほど寒いと!


 ……が、今は傷を応急処置しておくことが先決だ。俺はキツイくらいに袖をギュッと縛ると、ゆっくり立ち上がって辺りを見渡してみた。

 やはり、このフロア一帯は既にもぬけの殻。「解放の先導者」達も機能停止したままで、ピクリとも動けずにいた。

 ここに来たときには引っ切りなしに響いていた機械音が、今はまるで聞こえて来ない。これほど静かだと、かえって不気味だな。


 ……ちょっと待て。古我知さんはどこに行ったんだ? それに、救芽井や矢村は!?

 さっき人っ子一人いないとは言ったが、よくよく考えると、これはおかしい。ふとそれに気づいてあちこちに視線を移すが、彼ら三人の姿は――やはり見当たらない。

 ま、まさか救芽井が……! それに、矢村まで……!?


「……んッ!?」

 目が覚めて早々、ヒーローを気取ってまで守ろうとした二人を見失うとは。そんな自分の失態に焦りながらも、俺はあるものを見つける。

 今ここに存在し、俺が撃たれる前にはなかったはずのもの。それに気がついたのは、周囲の明るさに気がついた時だった。


 俺がここに来たときは、この部屋は薄暗く……十メートル先が見づらくなるような場所だった。しかし、今はフロア全体が明るめになっており、部屋の隅々――それこそ壊れた照明の数まで、ハッキリと見えるようになっている。

 なんだ……? 俺が寝てる間に一体何が――


「さぶっ!?」

 元々、あるのかどうかも怪しい知能を働かせようとした瞬間、俺の全身をクリスマスイブの冷気が貫いた。――心まで。

 ……まぁ、着鎧甲冑を着てるときは暖かかったからな。それに、今は黒シャツだけって状態だし。

 だけど、これはちょっと寒すぎじゃないかい? それに、かなり奥の部屋だってのに風まで吹き込んでるし……。俺は素肌を晒している両腕を摩りながら、その風の入口に視線を送る。


 ――どうやら、その入口ってのが、この明るさの正体だったらしい。

 俺が戦ってた時には、間違いなくなかったはずの、高さ二メートル程の大穴が開けられていたのだ。

 力任せにこじ開けられたのか、その辺りの壁や鉄骨が無残にひしゃげている。これはもしかして……いや、もしかしなくても……!


「うっ、ぐ……! はぁ、はぁっ……!」

 俺は寒さに凍え、傷の痛みに歯を食いしばりながら、自分の身体を引きずるように歩き出す。

 例の穴からは月明かりが差し込んでおり、それがこのフロアの全貌を鮮明にしていたらしい。つまり、この穴からは外に繋がってるってわけだ。


 この穴を潜った先にあるもの……それはきっと、廃工場と隣接した採石場だろう。地元に詳しくない古我知さんが、救芽井達を人気のない場所に連れていくとしたら――そこしか考えられない!


 ……しかしまぁ、辛いもんだよなぁ。

 銃で撃たれるのなんて、当たり前だけど初めてだし。すげー……痛いし。血も出てるし。

 おまけにイブの夜に黒シャツ一枚で死ぬほど寒くて……既に手先に感覚がない、ときた。

 普通なら、即救急車呼んで、早急に病院の暖かいベッドでスリープするものだろう。つーか、出来るもんならそうしたい。


 だけどね、その前にやっておきたいコトってのも、ちゃんとあるわけでして。

 「技術の解放を望む者達」をとっちめないことには、落ち着いて受験勉強にフィーバーすることもままならないんですよ。


 ……だから、これは俺のため。俺のために、救芽井と矢村を……着鎧甲冑の未来ってモンを、助けに行く。

 呼ばれちゃいない、頼まれてもいない、そんなお節介なヒーローだけど。


「それでもあの娘は『お姫様』で……俺は『ヒーロー』、つーことみたいだから、な……」



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