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着鎧甲冑ヒルフェマン  作者: オリーブドラブ
第四話 呼ばれざるヒーロー
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やられたら、やり返すッ!

 おーし、カッコよく名乗ったからにはやるしかないな!

 勝算はあるにはあるけど、それに実効性があるかはこれからに掛かって来る。まずは、試しにこっちから仕掛けてみるか……!


 俺は腰を落とし、中段構えの姿勢で「呪詛の伝導者」に狙いを付ける。拳の先を相手に向け、利き腕のある右半身を前面に出す。そうしておくことで、スムーズに攻撃に移れるようになるという、「少林寺拳法」におけるスタンダードな構えだ。

 昼間の強盗との戦いで、「救済の先駆者」になれば「普通の護身術程度の拳法」でも相当な威力を発揮できることがわかった。俺がこの力を戦いに応用するなら、「対『解放の先導者』用格闘術」より手慣れてる、こっちのやり方で立ち向かった方がマシだろう。


 俺はすり足で確実に距離を詰めるべく、構えを崩さないようにジリジリと近づいていく。

「……あの時の、構えだね。お兄さんに教わったのかな」

「ご名答! 兄貴までとは行かないが、簡単にはやられないぜ」

 やっぱり、強盗の一件での戦いは向こうに筒抜けだったらしい。俺のこの構え、既に周知のことだったか。


 なら違う構えで意表を突くか――と、中段構えを解いた瞬間。


「そうか。じゃあ、精一杯立ち向かって見せてくれ」


 何の躊躇もなしに――腰からピストルを抜いた。

 そして、その真っ黒な銃身を目の当たりにして固まる俺に向け、迷わず発砲!


「どわあああッ!?」

 思わず瞬時に横に飛び、積み上げられていたドラム缶の山に身を隠した。おいおいおい! 飛び道具なんてアリですか〜!?

「慌てなくても着鎧甲冑なら、この距離から一発当たったくらいで命に関わるようなケガはしないだろうに。全く、騒がしい子だ」

 ちっくしょう! 向こうは戦闘用、こっちは救命用。そんな用途の違いが、こんなのっけから出てくるなんて!

 確かに向こうはこっちと違い、バリバリの戦闘兵器。ピストルの一丁くらい持ち歩いてなきゃ、逆に不自然なくらいの相手なんだ。

 「救済の先駆者」が非戦闘用である以上、ああいう飛び道具の類は一切持てない。この身体能力だけが、唯一アイツに対抗できる「武器」なんだ。


「変態君、ダメよ! 逃げて!」

 矢村におぶられる形で、戦場から離されていた救芽井が悲痛に叫ぶ。あんのバカ、まだあんなコト言ってやがる。

「お前独りでどうにかなるわけじゃなかったんだろ!? こうなった以上、一人やられるも二人やられるも一緒さ!」

「でもっ――!」

「でももデーモンもないの! 矢村、救芽井のこと頼むぞ!」

「う、うんっ……!」


 とにかく、まずは救芽井と矢村を助けることを最優先にしないと。俺は脱兎の如く駆け出し、「呪詛の伝導者」や周りで様子を伺っている「解放の先導者」の注目を集中させる。

「そんなゴテゴテしたもんぶら下げてたら、動きづらくてしょうがないだろう! 速さならこっちが上だ、照準付けられるかやってみなー!」

 ちなみにコレは、ゴロマルさんの弁だ。「呪詛の伝導者」は「救済の先駆者」にない武装を持っているが、それ故に機動力がオリジナルよりも低下している……んだと。要は、武器引っ提げてるせいで動きが鈍くなってるんだそうだ。


 そういうことなら、全力で走ればこっちの方が速い。背後を取れれば、ピストルに怯える心配はなくなるはずだ!

 俺はしばらく「呪詛の伝導者」の周りをぐるぐる走り回り、彼の左半身の部分を狙うことに決めた。

 ピストルを握っているのは右手――つまり、得物を持っていない側から仕掛ければ、ソレを向けられる前に一撃を加えられる。そういう理由だ。


「――よし、もらったァッ!」


 遠心力に引っ張られていた身体をふん縛り、俺は地を思い切り蹴飛ばす。狙うは、古我知さんの左三日月!

 向こうもこっちに反応して来たが、ピストルの手は動いてない! コレは行けるッ!

 俺は左腰に左腕の肘を当て、反動のようにその腰を思い切り回転させる。そこから生まれる衝撃に打ち出さた拳が、古我知さんの急所を捉えた――


「残念。ピストルだけが飛び道具だと思った?」


 ――時だった。

 不可解な彼の発言と共に、視界が真っ赤な炎に覆われたのは。


「ぐわああああっ!?」


 熱い。体中が、焼けるように熱い! ――いや、本当に焼けてる?

 着鎧甲冑越しでも強烈に感じられる、肌はおろか肉や骨までも焼き尽くしてしまうような――激しい熱。

 俺は熱から生まれる痛みに呻き、せめてもの意地で「倒れはしまい」とその場にうずくまる。後ろの方からは、二人の少女による悲鳴が上がっていた。


 痛みはそれだけには留まらない。

 腰に忍ばせていた一振りの剣を引き抜き、「呪詛の伝導者」は俺目掛けて容赦なくそれを振るった。

「ぐ――あぐぁッ!」

 俺の痛みを象徴するかのように、「救済の先駆者」のボディから鮮血の如く火花が飛び散っているのがわかる。立ち上がろうとしていた俺は、その無情な連続攻撃にたまらず膝を着いてしまった。


「君がいけなかったんだよ――君がッ!」

 心なしか、僅かに震えたような声で……古我知さんは吠える。そして、俺を蹴り飛ばす。

 俺はサッカーボールのように少しばかり転がされ、その勢いが止んだ途端に身を起こした。完全に立ち上がるにはちと時間が掛かりそうだが、顔を上げるくらいなら……なんとか大丈夫そうだ。


「『救済の先駆者』における、酸素供給システム――その中枢を担うマスクの唇型だが、この『呪詛の伝導者』は少しばかりアレンジされていてね。酸素と言わず――炎を出すんだ」

「口から火炎放射かよ……! 寒い冬には、ありがたすぎるプレゼントだな……」

 人を救うために作られた機能から、こんなドギツい代物に仕立てあげられちまうとはな。こんなもん、人間に使ったら骨も残らねぇだろ!


「さて――君がどういう意図で僕に挑んだのかは知らないが……まずは、その勇敢な瞳を閉ざさせてもらおう」

「そ、そんなっ……! 変態君、逃げてぇっ!」

 少しずつ身を起こし始めていた俺に追い討ちを掛けようと、古我知さんがズンズンと迫って来る。開始三分でチェックメイトってか……!?

「……あ、アヅッ……!」

 とっさに頭を庇った腕を火傷したらしく、立ち上がろうと地面に押し付けた両手に鋭い痛みが走る。あーくそ、しょっぱなからキツいなコレは……。


 やっと両足の筋力を杖に立ち上がると、既に「呪詛の伝導者」の姿が眼前に迫っていた。端から見れば、絵に描いたような「絶体絶命」ってとこだろう。


「君の頑張り――短いものだったけど、覚えておくよ!」


 俺にとどめを刺さんと、古我知さんはさっき俺を散々痛め付けた剣を振りかざす。年貢の納め時――ってことになるのかな?


 だが、彼の動きには迷いが見えた。

 勢いで殺してしまうのではないか、という迷いが。


 兵器を作り出した者としての、その矛盾した感情が現れると共に、俺に反撃の機会が訪れたのだった。

「……ぉああああッ!」

 気力だけを頼りに、俺は慣れた姿勢からの蹴り上げを放つ。腰を落とし、軸足を踏み込み、蹴り足を水月(要するにみぞおち)に向けて振り上げる。

 振り子のように弧を描いて突き刺さった蹴りは、一瞬にして古我知さんの肺から空気を奪い去った。


「ぐっ……はッ!」

「え……うそ……!?」

 予期せぬ反撃に、思わず彼は膝をつく。救芽井も俺の攻撃が効果を発揮していることに、驚愕を隠せずにいた。


 「この瞬間」こそが、俺の勝機。

 ゴロマルさんと兄貴から教わり、信じると決めた俺だけの戦法。そして救芽井になく、俺にあるもので立ち向かう手段。

 それは相手の攻撃を誘い、「立派な急所」を持つ「生身の人間」である古我知さんの隙を突くというものだった。「守主攻従」の原則に従う、「少林寺拳法」をもってして。


 胸の辺りを抑えつつ、全く予期していなかった苦しみに喘ぐ古我知さんを、俺は一瞥する。

 そして、精一杯の虚勢を張った。彼を、俺の唯一無二の策に引きずり込むために。


「――どうせ短いんだ。せっかくなら、一秒でも長く焼き付けて貰わないとな?」



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