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着鎧甲冑ヒルフェマン  作者: オリーブドラブ
第四話 呼ばれざるヒーロー
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だんだん秘密が秘密じゃなくなっていってる気がする件

 救芽井は、戦いに行ってしまった。

 止めることはおろか、励ましの言葉さえ掛けられないまま。しかも、最後に彼女の声は震えてもいた。


 あまりと言えば、あまりにも最悪。

 こんなもん、余計に気を遣わせたようなもんじゃないか!


「くそっ! 追い掛けて――!」

「待ってや龍太! 行ってもアタシらじゃ何も……!」

 彼女の後を追おうとする俺に対し、矢村は両手を広げて立ち塞がる。声色は酷く張り詰めていて、表情は慈悲を乞うかのように切ない。

「だけど……!」

 なんとしても救芽井を追いたい。そのために反論しようと口を開きはした――が、その具体的な言葉が出て来ない。


 ――わかりきってるからだ。矢村の言うことが、紛れも無い正論であると。

 俺がしゃしゃり出たところで、役に立つことはないのは明白だ。訓練は逃げ回るだけの中途半端な結果に終わり、「救済の先駆者」のレスキュー機能の使い方もよくは知らない。

 代わりに戦おうにも「解放の先導者」一体にすら歯が立たず、彼女が傷ついても助けることすらできない。そんな俺が、救芽井に何をしてあげられるってんだ?


 ――なんだよ。なにも出来ねぇじゃねーか。何が「ヒーロー」だ!

 肝心な時になにも出来なくて、こんなっ……くそっ!

「なんで『俺』なんだよ……! なんで救芽井の味方になったのが『俺』だったんだ! もっとちゃんとした奴が一緒にいてくれりゃ、救芽井だって――!」


 そこで、俺は一人の人物を思い出した。――ゴロマルさんだ!

 彼なら、なんとか救芽井を助ける方法を捻り出してるかも知れない。

 都合のいい妄想に過ぎないというのはあるかもだが、今は彼を当てにするしかない。

 ――救芽井にとっての「大人の味方」は、彼しかいないはずだから。


「ゴロマルさんッ!」

 救芽井本人が慌てて飛び出したせいか、鍵が開けられていた救芽井家に入り込むと、俺はコンピュータをパチパチといじる音を頼りに彼のいる場所を目指す。矢村も俺に続き、「お、お邪魔しま〜す……」とたどたどしく入ってくる。


 もう聞き慣れてしまった、救芽井家仕様のコンピュータを使う音。それだけの情報を元手に俺は――居間でパソコンに向かい続けていた、人形のように小柄な老人を発見した。

「ゴロマルさんッ! 大変だッ! 救芽井と古我知さんが戦うつもりだって……!」


「……そうか、行ってしもうたか。できるものなら、避けるべきであったのじゃがな……」

 こっちに振り返ることもせず、ゴロマルさんはただ黙々とキーボードを打っていた。その声色からは、状況に見合うだけの焦燥感や悲壮感が感じられない。

 なんだよ……なんであんたはそんなに落ち着いてんだ!?

「避けるべきだった――って、そうに決まってるじゃないか! 今からでもなんとかならないのか!?」

「無駄じゃ、もはや選択肢はない。今戦えば樋稟に勝ち目はないが、今戦わなくてはいずれ警察に感づかれ、着鎧甲冑は世界から消える」

 そんな八方塞がりな状況のはずだってのに、目の前の小さな老人は「我関せず」というような態度のまま、コンピュータにだけ注意を注いでいた。


 ……なんでだよ!? あんたあの娘のじいちゃんなんだろ!? 孫娘がやられそうだってのに、なんでそんなに冷静なんだ!?

「――そんなアッサリと言わないでくれよ。あんたは、救芽井の味方なんだろ!? あいつはいくら凄くたって、俺みたいな一般人と大して変わらない『普通の女の子』なんだ! そんな子供には、大人の味方が――必要なんだよッ!」

 あいつだって、ゴロマルさんに助けを求めたかったはずだ。誰かに、寄り添っていたかったはずなんだ。それなのに!


「言ったであろう。もはや選択肢などない、とな」

「簡単に、言うなよ……!」

「それが現実じゃ。諦めるしかないじゃろう」


「――簡単に言うな、っつってんだろッ!」


 酷く冷静で、それを通り越して「冷酷さ」さえ感じられたゴロマルさんの応対に、俺はいつしか自分を抑えられなくなっていた。俺は我を忘れてずかずかと踏み込み、彼の両肩を掴んで無理矢理振り向かせる。

「龍太、アカン!」

 俺の行動に、状況を見守っていた矢村が制止を求める声を上げた。しかし、俺は手に込める力を緩めようとはしなかった。


 ゴロマルさんが余裕ぶっこいた顔で、言い放った一言を聞くまでは。


「――お前さんがいなければ、わしはそう割り切るしかなかった」


「お、俺が……?」

 こんな時に、ゴロマルさんは何を言い出すんだ? 俺がいなければ……って、俺に何ができるってんだ?

「龍太君。お前さんには、話しておかなければならんことがあってな。そっちから来てくれたのは都合が良かった」

「な、なんだよ。どういうことなんだ!」

「今にわかる。お前さんが剣一を倒し、『王子様』となる方法がな」

 彼は小柄な身体を活かして、肩を掴む俺の力からすり抜けると、トコトコと地下室に向かいはじめた。

「ちょ、ちょっと! どこ行こうってんだよ!?」

「お前さんに会わせておきたい人がおってのう。ついて来なさい」


 ゴロマルさんは詳しい話をすることなく、ただ悠長に階段を下っていく。……早く救芽井を助けたい俺には、じれったくてしょうがないわけで。

「ああもう、なんだってんだよ! とにかく、行くぞ矢村!」

「ええ!? あ、うん……」

 矢村の手を握り、俺はゴロマルさんのあとを付いていく。彼が救芽井のことを見捨てていないのなら、何か状況を変える方法があるのだと期待して。

 ……俺が古我知さんを倒す、みたいなことを言っていたけど――無茶苦茶にも程があるんじゃないか?


「連れて来たぞい」

 ゴロマルさんの言うことに理解が追い付く前に、俺達は彼が言っていた人物がいるのであろう、地下室にたどり着いてしまった。

 そして――


「おー。来たかい、龍太。なんだか、大変なことになっちまってるらしいなぁ」

「なっ……!」

 そこにいた人物は、見慣れた顔――どころか、俺の家族だった。一煉寺龍亮……俺の、兄。

 普通ならありえない場所にいて、普通ならありえないことを喋っている彼の調子は、いつもとなんら変わらないものだった。ちょっと待てよ、なんでウチの兄貴がここにいるんだ!?

 しかも、彼の傍らにはボロボロに砕けた「解放の先導者」の残骸が。ここで一体、何があったんだ!?


 状況が飲み込めないでいる俺と矢村の前に立ったゴロマルさんは、さっきまでとは打って変わって真剣な表情で俺を見上げる。

 ここでようやく本題に入る。彼の眼差しが、その意図を強く現しているようだった。俺と矢村は顔を見合わせて、彼の言い分に耳を傾ける。

「よく聞いておれよ龍太君。これは樋稟を救うための、君にしか出来ないことじゃ」


 そして、彼が第一に口にしたことは……俺が今、最も求めていた答えだった。


 ――俺にしか、できないこと……!?



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