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着鎧甲冑ヒルフェマン  作者: オリーブドラブ
第四話 呼ばれざるヒーロー
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彼女を捜して三千里……も歩けねぇよ! 三時間が限界だよ!

 あの後、俺は(ほとんど食べてないけど)支払いを済ませて、矢村を連れて救芽井を追った。

 しかし商店街に入った彼女の姿は、人混みに紛れていくうち、徐々にその行方をくらましてしまった。人通りの多いイブの日だってのが、ここまで「間が悪い」と感じるとは……。

 ところどころで、「すっごいイケメンを見た」とか「めっちゃ可愛い女の子がいた」とか噂してるのが聞こえたことから、そう遠くへ入ってないはずなんだがなぁ。救芽井にしても古我知さんにしても、こんな何もない田舎町には、あまりにも場違いなイケメン&美少女なんだから。


「くそっ、すっかり見失っちまったい!」

「もう家に帰ったんちゃうん?」

「いや……最後に見掛けた時は、救芽井ん家とは正反対の方向だった。もうちょいここを捜そう!」

 周りの見慣れた住民のみんなは、人の気も知らず和気藹々とイブを満喫してる。ちくしょー! リア充爆発しろっ!

 ……いやまぁ、実際のところは、こっちの事情が知られない方がマシなんですけどね。


 じゃあ、次は交番のお巡りさんにでも訪ねてみるか――と思い立ち、商店街のはずれに出ようとした……途端。

「ちょっ――ちょっと待ってや!」

「んお? どした?」

 不安げな表情を浮かべた矢村に、後ろから手を引かれてブレーキされてしまった。俺は横断歩道から飛び出す子供かー!


「な……なんでわざわざ追い掛けるん? もう関わらんでええって言うたやん、あの娘」

 お前が言わせたんだろうが……とは言いづらい。言葉がキツかったとは思うが、矢村は矢村で俺を心配してくれていたんだから。

 だけど、これは俺と救芽井の問題だから……心配して貰っといて難なんだけど、矢村には余り気にしないでほしかった、かな。


「確かに、アイツと関わる義理なんてないかも知れないけどさ。俺、未だに変態呼ばわりされたまんまなんだぜ? 仲悪いままおさらばなんて、後味が悪いだろ」

「やけどさぁ……!」

「んなこと言っちゃって、お前だって『悪いことしたかなー』って顔してたじゃん」

「うぅ……」

 そう。

 矢村はただ、俺を危険から遠ざけようとしてただけだ。救芽井そのものを毛嫌いしていたわけじゃない。……まー、ちょっと意味わかんないことで張り合いはしてたけど。

 ――事実、二人は喫茶店の前では仲良く喋ってる時もあった。「技術の解放を望む者達」が絡みさえしなければ、こんな仲たがいをしてしまうようなことにはならなかっただろうに。

 悪いのは、古我知さんだろう。救芽井を責め立てるのは筋違いのはずなんだ。それが薄々わかっていたから、矢村だってあんな顔をしていたんじゃないか?


 今さら追い掛けたところで、何かが好転するとは限らないし、却って救芽井の足を引っ張ることになるかも知れない。

 それでも俺は、言われるがままに彼女をほったらかすことはできない。

 ――あんな別れ方しといて、はいそうですかと受験に専念できるとでも思ってんのか! ナイーブな思春期の女々しさナメんなよ!


 ――とは言ったものの、時間が経つばかりで、一向に彼女の姿を見つけることは出来なかった。古我知さんもあれっきり見つからず、交番に行っても「フラれたのかい?」とおちょくられて終わりだった。うぜぇ……。


「ヒ、ヒィ、ヒィ……み、見つからねぇ……! もうかれこれ三時間は歩き回ってんぞ……!」

 これだけ探し回っても収穫なしとは、さすがにキツイ。

 息はどんどん白くなり、上着の下も汗ばんできた。

 おまけに足はガタガタだし、頭もなんかぼんやりしてきてる……。


「もっ……もう夕暮れやし、廃工場に行ってしまったんやない……?」

 さしもの矢村も、俺に付き合ったばっかりにクッタクタの様子。

 なにからなにまで申し訳なさすぎる……!


「……いいや。この時間帯は商店街周辺の警察が交代する頃だから、今のタイミングは一番警察の動きが不規則で活発になるんだ。どっちも警察の動向くらい掴んでてもおかしくないし、夜になって落ち着くまではどっちも出て来ないと思う」

 辺りを見渡してみると、あちこちで警官がぞろぞろと動きはじめている。何人かが廃工場の方へ向かっているのも見えた。

 さすがに、今の時間に動きがあるとは思えない。どっちも、警察に見つかりたくないのなら。


「それに、今となっては俺も矢村も『技術の解放を望む者達』のターゲットに入れられちまってる。救芽井がいない今の状況でホイホイと廃工場に行こうなんて、狼の群れに羊二匹を放り込むようなもんだ」

「……なぁ、それやったら……もし救芽井が負けたら、今度はアタシらの番ってことなんやろか……」

「古我知さんが着鎧甲冑を手に入れた段階で、それに満足して俺達をほっとく……ってことにならない限りは、そういうことになるだろうな」

 だからこそ、救芽井は意地でも古我知さんに勝つつもりなのかも知れない。ファンシーなお姫様願望抱えてるくせして、「私はスーパーヒロインなんだから」だなんて啖呵切るあたり、相当思い詰めてるぞアレは……。


 しかし、本当に見付からないな……まさか、マジで矢村が言ってた通りに家に帰っちまったのか?

 うわぁ……さっきあんなドヤ顔で「いや……」なんて言っちまった後だから余計に恥ずい! 穴があったら入りたい! いやもうここに穴を掘ろう!


 ――って、あれ?

「龍太? どしたん?」

「ああいや、ちょっとね」

 ふと、見覚えのある店に目を奪われた俺は、どことなく違和感を覚えてそこへと足を運んでいた。


 それは、救芽井と二人でこの商店街に来た時に立ち寄った、あのぬいぐるみ屋だった。ガラスのショーケースに飾られたぬいぐるみは、今もズラリと並べられている。

「あれ……やっぱ無くなってる」

 俺が感じていた違和感の正体は、そのショーケースの中にあった。

 以前、救芽井が買っていった奴の隣に飾られていたウサギのぬいぐるみが、忽然と姿を消していたのだ。二体ピッタリと寄り添っていた格好だったんだが、まさか両方共消失していようとは。


「そこにあった二匹のウサギさんねぇ。とっても可愛い女の子が買って行ったのよ」

 すると、店の中からニコニコと朗らかに笑うおばあちゃんが出て来た。店主さんかな?

「その女の子って、俺と同い年くらいでしたか?」

「えぇ。あなた、あの娘のお友達?」

「うーんと、まぁそんなところで」

「そうなの……。それじゃ、また会った時には励ましてあげてね。なんだかあの娘、寂しそうな顔してたから」

 おばあちゃんは、両手で抱えていたクマのぬいぐるみで可愛くジェスチャーしながら、優しく微笑んできた。……寂しそう、か。


 俺はその後、矢村と一緒に来た道を引き返し、救芽井家に向かった。商店街はくまなく捜したし、他に思い当たる場所もないし。

 ――それに、デカいぬいぐるみを抱えて他所へ行くとも思えない。彼女なりに、なにか思うところがあったのだろうか。


 俺ん家と隣接している救芽井家が見えてきた頃には、すっかり日も落ちて夜の帳が降りようとしていた。いよいよ、戦いの時が近づいて来たって感じなのかもな。

「イブって時やのに……神様もひどいことするもんやなぁ」

「ひでぇのは古我知さんさ。神様でも――ましてや救芽井でもない」

 確かに最悪のイブだけど……それは、俺達だけじゃないんだ。むしろ、もっと大変なもんを背負ってる女の子がいる。

 出来るもんなら、せめて応援の一言でも言ってやりたいもんだが――あ。


「あ」


 刹那。

 俺の心の声と、彼女の肉声が重なった。


 救芽井家のドアから出て来た彼女と目が合った瞬間、俺は――言葉を探すあまり、固まってしまった。



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