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着鎧甲冑ヒルフェマン  作者: オリーブドラブ
第三話 デートという名のパトロール
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損な性格は兄貴譲り

 中学一年になったばかりの頃。

 俺は兄貴と比べられる形で、ちょっとしたイジメに遭っていた。

「一煉寺って、兄貴はカッコイイよな〜。兄貴は、さ」

「かわいそーに。兄貴にいい遺伝子全部持ってかれちゃったんじゃねーの?」

「言えてる言えてる! つか、ホントに兄弟なのか? 弟の方は絶対捨て子かなんかだろ!」

 冗談で言ってるのか、本気でそう考えてるのか。聞き耳を立てていただけの俺にはわからなかった。

 だが、連中の言うことがおおよそ当たりだというのは、間違いなかった。だから俺は特に抵抗する気は起きなかった。

 いじめっ子が悪い、というのも事実だろうが、俺が余りにも「イジメの標的」として適してしまっていたのも、また事実だった。


 俺は、兄貴に比べて明らかに劣っていた。


 頭も頭もよろしくないし、運動だって出来ない。喧嘩なんて以っての外。身長なんて、女の子の救芽井と大差ないくらいだ。

 対して、兄貴はイケメンで長身。それに加えて、いいとこの大学に入れて町内では有名人。なにもかもが完璧で、クラスの奴が言うように「親の遺伝子をいいとこだけ貰って生まれてきた」ような奴だった。

 敢えてダメなところを挙げるなら……何人も侍らしてる女を放ってでも、出来損ないの弟を優先するところだろうか。

 「彼女とホテルに泊まって来る」って連絡しときながら、「俺が風邪を引いた」と聞いた途端に、息せき切って帰ってくることもあった。それに、中学の入学祝いのために、彼女のプレゼントを断念してエロゲーを買ってくることもあった。

 そんなことを繰り返したばっかりに、今となってはモテ度が低迷してしまっているようだ。それでも俺から見れば十分リア充だが。


「おい龍太、どうしたんだ? 最近お兄ちゃんに冷たいなー」

「っせーなぁー! てめぇにゃ関係ねーだろ!」


 そんな兄貴が、俺は正直妬ましかった。だから、よく突っぱねていた。なんでお前だけがそんなにいいんだ。なんで俺だけこうなんだ、って。

 ……わかってる。そんなもん、俺が自己チューなだけだってことくらい。

 兄貴は兄貴で、大学で勉強したりバイトしたり少林寺拳法の修行に取り組んだりと、かなり忙しい日々を送っている。本当は俺に付き合う時間なんて、ないはずなのに。

 なのにアイツは、嫌な顔一つせずに、「俺の兄貴」であり続けた。「なんでわざわざ出来の悪い弟に付き合うのか」と問い質せば、決まって兄貴は困ったような顔をして――


「だって家族だろ? 子供には、大人の味方が付いてなきゃ」


 ――と、それが当たり前であるように答えていた。


 そして、俺がそういう話を振り続けていくうち、いつの間にか俺は兄貴に道場まで引っ張り出され、少林寺拳法の練習をするようになっていた。「一煉寺道院」なんて名前の道場だった気がするが……まさか、な。偶然名前が被っただけだろう。

 それはさて置き、今だからわかることだが――恐らく何度も自分を卑下するようなことを言う俺を見て、なんとなく俺がいじめられていることを察したんだろう。「俺を守るため」に、小さな頃から親父の元で少林寺拳法を始めたという兄貴からすれば、当然の判断だったのかも知れない。


 もちろん、最初は何度もフェイスガードや胴に、手痛い突き蹴りを叩き込まれた。痛い思い、怖い思いを重ねつづけていた。

 ――そして、兄貴はそんな痛みを乗り越えてきた上で、俺に手を差し延べていたんだと知った。手酷く殴られ、痣を作っても、兄貴は激しい稽古を続けていたんだ。いつも俺の隣で、俺を守るために。


 ――俺は、そんな兄貴になにか出来るだろうか?

 考えてみたことはあるが、なかなか思いつけそうにはない。

 あるとすれば、それは兄貴のように俺を守ることだ。俺の力で、俺を守ることだ。


 そしてそれは、俺の体じゃない。俺っていう人間を作ってる、中身。よーするに、「心」みたいなもんだ。

 自分が許せないことを見過ごしたら、俺は俺の「心」を守れない。見過ごさないようにして怪我をしたら、俺は俺の「体」を守れないことになる。

 兄貴は、出来ることならどちらも避けたかったはずなんだ。だから、俺はどっちも出来るようになる。それが、兄貴が願うことなんなら。


 ――まぁ、矢村の時は「体」の方は守れなかったけどな。それでも、結果としてイジメがなくなったことで、アイツは喜んでいた。

 俺が初めて、俺の「心」を守れたからだ。矢村を脅かす奴を放って置けない、そんな心境を「行動」に移せたことが、大きな進歩になっていたんだ。


 そう、矢村を助けようとして、俺は初めて前に進むことができた。

 それが出来たのは――そう、兄貴がいたからだ。


 兄貴がいなければ、それこそ俺は傍観者であり続けたし、それを不自然だとは思わなかっただろう。矢村を助けなくちゃいけない、ってことに気づきもしなかったはずだ。

 大人の味方が付いていたから、ガキの俺は前に進めた。


 ――根拠はないけど、それはきっと……救芽井にも言えるんだと思う。

 アイツは両親を奪われ、ゴロマルさんしか頼りがいない中で、必死に抗ってる。


 ……俺は大人じゃないから、兄貴みたいに助けてやることは出来ないけど。たかが一介の、男子中学生でしかないけど。


 それでも、支えてやることが出来るなら。そばについててやることに意味があるなら。


 彼女にとって「他所の世界」である松霧町に住む、「外部の人間」に味方がいることに、ほんのちょっとでも価値があるなら。いることと、いないこと――1と0に違いがあるなら。


 俺は、彼女の味方でいたい。せめて、俺の「心」を守るために。




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