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着鎧甲冑ヒルフェマン  作者: オリーブドラブ
第三話 デートという名のパトロール
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二股デート。うん、最低の響きだね!

「な〜んだぁ……かわいい女の子がお邪魔してただけだったの。心配して損したぜ」


 あの後、大慌てで帰宅してきた兄貴が目にしたのは、ケツ神様の裁きを受けた異教徒の骸――ようするにボコられた俺だった。その上に仁王立ちしていた救芽井の姿を目の当たりにした時、ようやく諸悪の根源は状況を把握出来たのだと言う。

 半殺害現場に駆け付けた矢村の介抱によって、九死に一生を得た俺は救芽井に正座を強要されていた。その周囲を、彼女を含む三人に固められている。


「まさかあのケツ神様の正体が、こんな超絶美少女二人組だったとはねぇ。道理でおかしいと思った」

「……おかしいのはテメーの全てだからな?」

「悪かった悪かった。さっきは損したと言ったが、前言撤回。これほどのかわいこちゃんにお近づきになれたんだから、むしろ役得だよ。彼氏の兄として」

「かかか、彼氏って! ふざけないでくださいよ変態君のお兄さん!」

 顔を真っ赤にして兄貴に食ってかかる救芽井。そんなことしたって、火に油を注ごうとするだけだぞ、そいつは……。

「あーなるほど! 君ってアレか! 俗に言う『ツンデレ』ってヤツだろう! 素直になれなくて『勘違いしないでよねっ!』が口癖の!」

「な、な……!」

「はぁ!? 救芽井って『ツンデレ』なん!? ――つんでれって何や?」

 別にそのフレーズは口癖じゃないと思うけどな……まぁ、定番ではあるけど。そういや、前に救芽井がそれっぽい口調で話してたことがあったなぁ。

 ――そうか。もしかしたら……。


「なぁ救芽井。お前ってもしかしてツンデレ――」

「ち、違うわよ! あなたのことは、その、あの夜のアレのせいでつい意識しちゃうっていうか、やっぱ男の子なんだなっていうか……!」


「――が出るアニメとか見るの?」


 ……あるぇー? 素朴な疑問を出した途端に場の空気が凍り付いたよ?

 なんか救芽井と兄貴がシラけた顔になってるし。ツンデレの意味も理解してない矢村と俺は、しばらくキョトンとしていた。

「……なにそれ?」

「いや、だってお前魔法少女のアニメとか見るんだろう? ツンデレキャラの一人くらいは出てんじゃないの?」

「あんな理不尽な暴力振るってばっかのキャラが魔法少女のアニメにいるわけないじゃない! 女の子の夢を汚さないでくれる!?」

 理不尽な暴力って――完全にお前じゃねーか。お前は女の子の夢を見る前に女の子らしい振る舞いを心掛けろよ。

 ――などと口走れば飛んで来る物体が椅子じゃ済まなくなるので、おとなしく聞き手に回っておこう。戦場で生き延びることこそ最上の任務なのだから。


「まーまーケンカしない! 昨日のぺったん子もいることだし、三人で二股デートにでも行ってきたらどうだ?」

「サラっと最低なこと言い出しやがった! あんた弟をなんだと思ってやがる!?」

「え? うーん……凌辱ゲーの悪役キャラ?」

「予想の斜め下を行く評価だなオイッ!」

 この兄貴はマジで一発殴った方が、俺の将来のタメになるのかも知れない。っつーか、逆に殴らないと俺の人生が社会的な終末を迎えさせられる気がする。

「大丈夫だって。お前なら二人とも攻略して篭絡できるだろ」

「扱いが既に人間じゃねーんだけど!? エロゲーキャラ扱いなんですけど!」

「お前に真っ当な人間の血なんて流れてたのか?」

「テメーと同じ血だよッ!」


 ……い、いかん。これ以上この場に留まってたら、コイツのセクハラトークから抜け出せなくなる! 冷ややかな目でやり取りを傍観してる二人に、凌辱系悪役キャラのレッテルを貼られてしまうぅぅぅ!

「あーもー! こうなったらどっか出掛けるぞ! 気分転換だ気分転換ッ!」

 俺は家を出ることで、この流れを断ち切ることにする。――兄貴が言った通りの二股デートの図になってしまうかもだが、この際つべこべ言ってられない。


 ……それに、俺を気遣ってか、顔にこそ出さないけど、今回の事件絡みで矢村も相当不安なはずだ。

 俺だって、ぶっちゃけると死ぬほど今の状況が怖くて、勉強どころの騒ぎじゃないし。


 俺にできることなんてたかが知れてるけど……それでも、この胸糞悪い非日常の連続を、少しでも和らげられるなら。


「さっ……さんせーい! アタシもちょっと疲れてきたし、外の空気吸わないかんなぁ!」

「ちょ、ちょっと待ちなさい! そんなことでいいの!? 勉強する時間を取ったからにはみっちりやらないと――」

 両者で全く違う反応を見せる二人。こうして見ると、救芽井がいかに真面目な娘か浮き彫りになるな……。

「悪いな、ワガママばっかりでさ。こんな調子だけど、それでも休み時間は欲しくなっちゃう性分なんだよ」

 救芽井にはわざわざ付き合ってもらってるんだから、本来はこういう風に振り回すべきではないことは百も承知だったのだが、さすがに家でジッとしていたら兄貴に何を言い出されるかわかったもんじゃない。


「――全くもう、しょうがないんだから」

 そんな呟きと共に、彼女は着ていた緑のコートから何か本のようなものを取り出したかと思うと、それをサッと居間のテーブルに置いて家の外へと飛び出してしまった。

「お、おい!?」

「出掛けるんでしょ? 早く支度しないと、承知しないわよ!」

 腰に手を当て、彼女は叱るような口調で――お出かけを承諾してくれた。おおぉ、お堅い割には結構話がわかる娘だったんだな……いやはや。


「救芽井も行くん? ――別にええけど、龍太は渡さんで?」

「は、はあ!? 何で私が変態君と手とか繋いだり腕とか絡めたり寒い冬の中で暖め合ったりしなきゃならないのよ!?」

「アタシそこまで言っとらんのやけど……」

「はうッ!?」


 ――それにしても、ホントに俺が絡んだら何かとあわてふためくんだよなぁ。こんな調子で大丈夫か?

 大丈夫だ、問題ない……よね?


「――問題ないだろ。お前は無駄に根性だけは、あるんだからさ」


 まるで心を読んだかのような兄貴のセリフが聞こえたかと思えば、俺は矢村に手を引かれて家を飛び出していた。




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