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着鎧甲冑ヒルフェマン  作者: オリーブドラブ
第三話 デートという名のパトロール
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船出から座礁? いいえ、ゴジラです。

 午前中たっぷりと救芽井にしごかれたかと思えば、今度は受験勉強かぁ……。

 こんなゴタゴタさえなけりゃ、しんどいにしたって受験の方だけで済んだんだろうに、全く間が悪い時に巻き込んでくれたもんだ。


 そんな愚痴をこぼす暇もなく、俺は自宅に二人を招いて勉強会に興じることに。

 今回はどういうわけか救芽井もついてくるらしく、二人掛かりのフルボッコが容易に予想される。こいつら……俺を心身共に滅殺する気満々か!?

 そのわけを問いはしたが、「間違いを犯さないように見張るため」の一点張りで、それがどういう間違いなのかまでは教えてくれないままだった。解せぬ。


 さて……そういうわけで俺は自室にて、二人の美少女に「修羅場の受験勉強」を見てもらうという、「嬉しいようで冷静に鑑みるとそうでもない」シチュエーションに直面することになったわけだ。

「よぉし、んじゃあ勉強しやすいようにテーブル動かさんとな。ちょっと、テーブルかいてや」

「おう。救芽井、手伝ってくれ」

「え!? う、うん……」

 まず勉強しやすいように、壁に立て掛けられてるテーブルを運ぶ作業から入る。俺は矢村の指示通り、救芽井と二人でテーブルに向かう――のだが。


 ――ガリガリガリッ!


「ぐ、ぐわあああッ!?」

 突如、救芽井が何を血迷ったのか机を思い切り引っ掻き出した! 何考えてんだコイツ! み、耳が痛い! 鼓膜が、鼓膜が吹き飛ぶぅぅぅッ!

「え、ええ!? どうしたの!?」

「あんたがどうしたんだっつーの! 矢村の何を聞いてたんだよ!?」

「だから言う通りにしてるじゃない! ……そっか、まだ力が全然足りてないのね。よぉーし!」

 ――おい、ちょっと待て。なんか勘違いしてないかこの娘? 変にエスカレートする前に止めなきゃ――


 ――ギャリギャリギャリッ!


「ひぎゃあああッ!」

「だからなんなのよ、もうッ!」

「こっちが聞きたいわッ! なんで無心にテーブルをガリガリ引っ掻いてんだよ! 俺を勉強開始前から精神的に抹殺する気か!?」

「だ、だって矢村さんが『テーブルかいて』って……!」

 やっぱり勘違いしてるぅー! んなわけねーだろうがッ!

「あのな、矢村が言ってる『かいて』ってのは、『運んで』って意味なんだよ!」

「……え? なにそれ」

「そういう方言なの! 矢村の地元の!」

 俺の指摘にポカンとしていた救芽井は、やがて自分の勘違いに気づき、そして――


「さ、先に言ってよぉぉぉーッ!」


 ――恥ずかしさから真っ赤に染まった顔を隠すかのように、真横に拳を突き出し……テーブルを粉砕してしまった。

 勘違いで散々引っ掻き回された挙げ句、八つ当たりで破壊されてしまった悲劇の木造建築の破片が、音を建てて崩壊・離散していく……。


 ――船出から座礁ってレベルじゃねぇ。これはもはや、ゴジラの域だぞ。こんなんでまともな受験勉強なんて出来るわけがない。

 ついでに言うと、俺の身が持つわけがない。


「……アンタら、さっきから何しとんの?」


 ――矢村のツッコミが、耳まで届くはずもない……。




 結局、俺達は場所を移して居間で勉強会を開くことに。救芽井にテーブルを壊されたため、自室で三人揃って勉強するのは困難だからだ。

 つーか壊れたテーブル、どうしてくれんだよ全くもぅ……。正義の鉄拳で破壊するのは悪の野望で十分だろうがッ!

「コラッ! ボーッとしない! そんなんじゃいつまで経っても終わらないわよ!」

 そんな俺の苦悩をガン無視して、救芽井が叱咤してくる。いや、完全にあんたの所業に苦しめられてんですど。俺、今は百パーセント被害者のはずなんですけど。

 しかも、頭抱えてる俺の反応見て、二人そろって「もう、ダメなコねぇ」みたいな顔でクスクス笑いあってんですけど。学校でのイジメなんてメじゃないレヴェルなんですけどォーッ!?


「あーもう、それにしても変な回答ばっかり! あなた、本当に真面目にやってるの?」

「大真面目だっての! 矢村が、『わからないなりに考えて、とにかく空欄を埋めていくのが大事』って言うから、俺なりに必死に考えた結果がこれだよ!」

「……矢村さんにそれを言われる前は、空欄ってどれくらいだったのよ?」

「全体の七割くらい」

 それを聞いた途端、救芽井は思い切りため息をついた。黙ってその隣で勉強の推移を見守っている矢村までもが。それはもう、露骨なまでに。

「なんだよッ!?」

「あなた、よくそれで『受験』をやろうなんて言い出せたものね。世間に喧嘩売ってるのかしら?」

 なかなか手厳しいことを言う。今まで三割くらいまでしか回答できなかったようなテストが、矢村のアドバイス一つのおかげで、九割以上まで埋められるようになったってのに! 合ってるかどうかはこの際別にして!


「言い出したアタシが言うんも難やけど、これはこれで龍太が何をわかってないかがわかりづらくなってしまうかも知れんけん、ためにならんかもなぁ」

「な、なんとぉー!?」

「例えばこれ。『しかと』を使って単文を作りなさいって言う国語の問題やけど」

 おお、これは今時風な言葉で、実に簡単そうな問題だったじゃないか。採点したらなぜか間違いだったけど。

「『しかと承りました』とかっていうような意味で使うもんやのに『しかと決め込みました』って……あんたのことやから、これ絶対『無視する』ってニュアンスの『シカト』で解釈しとるやろ」

「え、違うの?」

「――合っとるって思っとるようなあんたの頭から、治していかないかんような気さえしてきたんやけど……」

 ちょ、なんで拳振り上げんの? なんで俺殴られそうな雰囲気なの? なんで救芽井は助けてくれないの!? なんでウンウンとか頷いてんの!? そしてなんで俺が殴られるのが当然、みたいな空気になってんのォォォッ!?


 もうダメだ、おしまいだっ……! なんか知らないけど、殴られるっ……!

 そう覚悟することを強いられそうになっていた俺だが――この空気を変える、奇跡が起きた。



 ――俺のケータイに電話が掛かって来たのだ。就活に出掛けていた、兄貴から。




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