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第五十一話 告白

 亮二は真っ黒に埋められたスケジュール表を見て、溜め息をこぼした。

 どんなに落ち込もうとも、日々の仕事は山積みで待ってはくれない。仕事を投げだして感傷にふけるには年をとりすぎていた。それでもあの晩、瑠花に逢わなければどうなっていたのかわからない。亮二は今度もまた瑠花に癒された。


 娘だとわかってからずっと優希のことが気になっていた。不思議なことに血が繋がっているとわかると、優希がとても身近に感じる。父親だと告げるつもりは毛頭ないけれど、逢って話がしたくて部屋を訪ねた。


 優希は上機嫌で亮二を迎えた。ドラマを撮り終えてひさしぶりの休みを一日中うだうだして過ごしているのだと、顔をクシャクシャにして言う。

 逢いには来たものの、目の前にいる優希が娘だと思うと何をどう話してよいかわからない。今まで何もしてやれなかった分、望みはなんでも叶えてやりたいし、説教じみたことを言って嫌われたくもない。亮二は世の父親の気持ちが少しだけわかった。


「考えてくれた?」

 ソファーに座っている亮二の隣にさりげなく腰をかけて、優希が上目遣いで訊いた。

「何を?」

「付き合うってことをよ。それで来てくれたんじゃないの?」

「また、そのこと?」亮二がめんどくさそうに答えた。

 だが前と違って、娘に将来はパパと結婚したいと言われているようで悪い気はしない。優希のことを女性と見ることがまったく出来なくなっていた。

 そんな亮二の態度を見て、優希の大きな瞳に失望の色が浮かぶ。


「私のことをちゃんと見てよ」優希がぽつりと言った。

「この際だからはっきり言うよ。君のことは娘のようにしか思えない。俺が愛したのは君の母親で、いくら君が亜紀に似ていても君とは違う。まったくの別人だ」

 優希の顔から血の気が引いてカップを持つ手が震えた。

 亮二はきつく言い過ぎたかと心配したが、優希のためにはそのほうがいいと思い直し、情に流されないように気持ちを強くもった。


「まだ、わからないの?」

 優希は真剣な顔で亮二を見つめた。

「私のことがわからない?」


 何のことを言っているのだろうかと、亮二は頭を巡らせるが思いつかない。

 優希の瞳はそこはかとない悲しみに包まれた。


 優希は深く溜息をつき、「本当にわからないの? 雅也さん」と、亮二を呼んだ。


 背筋が凍りついて心臓が止まってしまいそうだった。甘く囁くように、その名で呼ぶ(ひと)は亜紀をおいて他にいない。絶句した亮二は少ししてから口を開いた。


「君は……亜紀なのか?」


 優希は寂しそうな瞳で亮二を見つめてテーブルの上にピンクのブレスレットを置くと、雅也が置いていった薬を飲んで逢いに来たのだと、寂しそうに言った。


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