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第二十九話 幸せに背をむけて生きるひと

 ウエイターがデザートとエスプレッソを運んできて瑠花と川崎の前に置いた。

「お世辞でも嬉しいわ。でも川崎さんのような男性には、私みたいな女はつまらないわよ」

 瑠花はティラミスをスプーンですくって軽く川崎の言葉を流す。

「つまらないどころか、男はみんなあなたに夢中になるでしょ」

「仏壇に花を添えるのが楽しみみたいな、たいくつな女よ。そのうち、写経でも始めるかもしれないわ」

 瑠花が冗談っぽく言うのを聞いて、川崎は力を抜いてふっと笑う。

「そんな風にかわされたら、男はたいがいめげますよ。だけど、まんざら嘘でもなさそうだな。あなたにはどこか、尼というか、出家したひとが持つ独特な気高さと儚さがある」川崎はそう言ってから苦笑いをした。「うまくない例えですね」

「それって褒めているの?」瑠花が吹き出した。

「すみません」

「私はキリスト教徒なの。せめて修道女と言って欲しいわ」瑠花が口元を緩めた。

「でも、的を射ているかも、結婚には昔から興味がないのよ」


「婚約者に死なれた僕の友人に、あなたは似ている」川崎はエスプレッソをひとくち飲んで、視線を瑠花からカップに移して言った。「決して、弱いところを見せようとしない(ひと)なんです。幸せになることを放棄しているようで、見ていられない」

「そのひとが好きなの?」

「さあ、どうでしょうね。知り合ったときには既に、彼女には婚約者がいたので」川崎は小さく溜め息をついた。「力になってやりたいのに、彼女は誰の助けも必要としないのです。どうして、頑に弱みを見せようとしないのですかね」

「きっと、走り続けていないとダメなのよ。一度でも肩を借りてしまったら、二度と走れなくなってしまうから」

「どんなアスリートも、一生、走ったままではいられないでしょ? お互いが肩を寄せて支えあえばいい。ふたりでなら大抵のことは乗り越えられると思いませんか?」

「あなたみたいな人となら、そうかもしれないわね」瑠花は目を細めた。「そのひとは、あなたに自分の人生を背負わせるわけにはいかないと思っているのじゃないかしら。亡くなった婚約者に負い目があるのかも」

「負い目?」

 注意深く観察していてもわからないくらい、僅かに川崎の顔が引きつった。

「一生、死者を想って生きて行かなければいけないという、罪悪感みたいなもの」

「彼女が婚約者を裏切っていたと?」

「わからない」瑠花は首を小さく振った。「肉体的な裏切りはなかったかもしれないけれど、もしかしたら他の誰かに心を寄せていたのかもしれないわね」

 瑠花は突き刺すような瞳でまっすぐ川崎の目を見つめた。


「あなたは、やはり彼女に似ている」

 川崎は視線をそらした。瑠花の負い目は何なのだろうと、ぼんやりと考えていた。

 普通の男がこの(ひと)を支えることはむずかしいだろう。瑠花が男に心をゆだねることはないように感じた。川崎は亮二の気持ちが少しだけ理解できた。


たんたんと進んでいく話を読んでいただきありがとうございます。


ここで2章は終了です。

3章からは亮二の封印した過去へだんだんと近づいていきます。

お気に入りにいれてくださった方、評価してくださった方、ありがとうございます。

少しずつ話が進み、しかもあちらこちらに飛んで感想を告げにくいと思いますが、読まれた方がどのように感じるものなのか教えていただけると嬉しいです。

これからも読んでいただけるようにがんばります。





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