アイアム・イレギュラー
一言だけ言わせてもらう。ここはどこだ。
さっきまでここは見慣れた教室だったはずなのに今目の前に広がっている光景は俺の知っている日常と大きくかけ離れていた。
「来たぞ!敵襲だ!!」
「総員配置につけぇ!」
そう、俺の教室は戦場と化していたのだ。
怒号と悲鳴の響く室内、机は倒れ、チョークは砕け、教師は宙を舞う。ん?教師…?
「ちょ…!先生大丈夫っスか!?」
「ああ、島田か…」
「いえ、島口です」
「先生はもう駄目みたいだ…」
「そんな!一体何が…!?」
「実は…」
「実は?」
「風船ガムが破裂して顔が大惨事だ…ぜ……ガクッ」
「先生ええええぇぇぇ!!!」
それが俺たちの担任の最期の言葉だった。
「どうしてこんなことに…!!」
その時喧騒に満ちた教室に一際大きな声が響いた。
「マカダミア────ッ!!!!」
教室の前方、教卓の上で仁王立ちになって叫ぶのはクラス委員長の佐々木くんだった。おかしいな、あいつは元来こういうキャラじゃなかったはずなのに…。
彼は静まり返った教室でなおも叫ぶ。
「全員よく聞け!お前らの目当てはこれだろう?」
そう言って彼が手に掲げたのは一箱のマカダミアナッツチョコレート。税込159円。
「え?なんだ?えぇ?」
「うおおおおぉぉおぉ!!!!」
俺一人が混乱しているなか、他のクラスメイトは異様な盛り上がりを見せる。みんないつからチョコレート中毒になったんだ?
そんなクラスメイトたちを見渡しながら、委員長佐々木は俺が今まで見たこともないような不敵な笑みを浮かべて喋り続ける。
「これが欲しいか?」
クラスメイト改めチョコ中たちは操られているかのように激しく、それこそヘドバンが如き勢いで首を縦に振る。なんだこれ、宗教?佐々木教?マカダミア教?
「しかし今このマカダミアは俺が持っている…」
もったいつけた言い回しで言いながら教祖佐々木はマカダミアチョコレートの箱を軽く歪む程度に握った。
教室内に緊張と恐怖が満ちる。
「つまり…このマカダミアの命は今、俺の手のひらの上にあるというわけだ、わかるか?」
教祖佐々木はどうやらドSだったらしい。
マカダミア信者の中にはショックで気を失ってしまった奴もいるようだ。一体何がショックだったのか俺には理解できない。
「こいつを無事返して欲しければおとなしくしておくのが身のためだな」
教室にはドS佐々木の高笑いが響きわたった。
俺は理解の範囲を超えた状況に、半笑いを浮かべて現実逃避を始めた。
「ところで坂口くん」
「いえ、島口です」
その時唐突にドS教祖は俺に声をかけてきた。
途端にマカ信の視線が俺に集まる。なんだよ、こっちみんな。
「君はチョコレートで何が好きかね?」
「生チョコです」
拝啓、お母さま
俺は今日、宗教の恐ろしさを知りました。
今までは外国の宗教戦争なんて全く理解できなかったけど、今ならよくわかります。
本当に宗教って恐ろしいものですね。
マカダミアチョコレート最高!!