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【完結】不倫の神様|結  作者: 天狗


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LOG.7|意地っ張り|Devotion




ミカの試練に失敗して、



お怒りのミカ様から

ビジネス文全開のLINEを貰い、





撮影の日になった。





時間ぴったりに、

店の前へ白いワンボックスが

滑るように止まった。


スライドドアが開く。


ミカが降りてきた。




黒の迷彩、

スポーツウェア。




ミカは、

やっぱり黒が似合う…。



ん?



降りてきたのは…



ミカ……だけじゃない。






その後ろから、


カメラマン。

照明。

メイク。

レフ板を持ったアシスタント。

機材持ち。




“プロの現場そのもの”

みたいな集団が

次々と降りてきた。




金属の三脚が広がる音が、

店の空気を一瞬で“現場”に変えた。






シン

「はっ…?」

「なんか…多くね?」





ミカ

「撮影の人たちです」

「アタシが呼びました」

「請求の料金は変わりません」

「ご安心ください」





スニーカーの音を

ワザとゴツゴツと響かせて

俺の横を素通りする。



…モデル料なんざ、

高くなっても どうでいい。


ただ、ミカとの間に

唐突に“壁”ができた気がした。



そっちのほうが気になる。






んだよ、

2人きりかと思ったのによ。



俺はイライラしながら

吸殻を捨てた。






クルーたちが一斉に会釈してくる。



その瞬間、

俺の店は完全に

“メイの現場”になった。







ーーー






『メイ』

というのはミカのモデル名だ。


占い師につけてもらったらしい。


本名の“ミカ”は

限られた人間しか知らない。


ミカは表向き、

SNSも仕事も全部、

“メイ”でやっている。



レンズを向けられた瞬間、

“メイ”が全てを乗っ取り、

“ミカ”が姿を消した。



港で牡蠣を食べてた少女と

同じ人間とは思えない。





ミカはクルーに囲まれ、

メイクされ、

ライトを当てられた。



その一瞬で、


目の温度が“ゼロ”になった。



表情は綺麗。

動きは優雅。

声も柔らかい。



なのに、

人間味が全部消えている。


まるで

“違う生き物”みたいだった。






クルー

「じゃあ来店シーンからー!」

「メイちゃん、次はこっちねー!」

「はい可愛い、メイちゃんそのままー!」






撮影は容赦ないテンポで進む。


ミカは俺にほとんど話さない。

必要な確認はクルーが行う。





クルー

「ここ使っていいですか」

「背景はこちらの壁、借ります」

「筋トレシーンは照明 どうしますか?」






ミカは

撮影の説明を受けると


はい、はい、と

返事をするだけ。





温度が全くなかった。










ったく。


不器用なヤツだ。






まぁ…


俺たちは

似た者どうしってことか…。




ーーー





クルー

「オーナー様、」

「インタビュー入れますか?」






シン

「インタビュー?」




クルー

「筋トレコースですよね?」

「やってみて、どうでした、とか」

「どの種目キツかった、とか」

「感想があった方がいいかと!」





シン

「俺がメイさんに聞くの?」




クルー

「のほうが、自然かと!」



ミカ

「……」




はい、と言わなかった。





クルー

「メイ?」





ミカ

「……」








なぁミカ。





やっぱり、

俺たちは似ている。



そうだよな。








ミカ

「……えっ、」





シン

「無しで!」

「インタビュー無し!」

「メイさん単独映像でいいっす!」





ミカ

「……っ!」






ミカ。



そう睨むな。



お前はな、

意地っ張りだ。




意地と仕事、

両立は無理だよな。



痛いほど分かるよ。










ーーー







撮影が終わった。





クルー

「ありがとうございました!」

「もし他にもお仕事あれば、」

「今後ともよろしくお願いします!」






と、電話番号を交換した。










クルーが車に荷物をまとめ始める頃。


俺はミカを引き止めた。





シン

「なぁ…」

「ミカ、ちょっとだけ…」






ミカ

「メイ、です」




目すら合わせてくれない。


氷製の槍みたいな声だった。







シン

「あー…」

「なんつーか、その」

「うーん………」





なんて伝えていいか、

さっぱり分からない。



ただ、

このまま会えないのは

絶対に嫌だった。



なんで嫌なのかも、

上手くミカには伝えられない。





ミカは、

ほんの一瞬だけ横目で俺を見た。


その一瞬で

呆れた様子は十分読み取れた。



すぐに視線を逸らす。


その0.5秒の揺れに、

ミカの全部が詰まってた。





くるっと振り返るミカ。





クルー

「メイちゃーん!」

「荷物積みますねー!」

「もう出ますよー!」




車のほうからクルーが呼びかける。





ミカ

「はーい!」





顔だけ、こちらに向けて

横目で俺を見るミカ。





ミカ

「じゃ、また」





淡々。

氷製の槍を突き刺してくる。





クルーの車へ向かい、

"ミカの香り"が薄くなった。




ミカは車に乗ってすぐ、

俺にLINEを送ってきた。



ポン、と通知が鳴いた。









ミカ

『フォレスト来て』









前と同じホテル。





ーーー








ホテルに到着した。


ふとスマホを見ると、


ミカから

LINEがきていたことに気づいた。






ミカ

『先に入ってる』

『102』






言われた部屋に入ると

ミカは窓際に座っていた。


生まれたままの姿で

グラスを片手に頬杖をついて、

こちらをジッと見つめていた。



光の少ない部屋で、

彫刻のようなシルエットだけが

静かに浮かび上がっている。






ミカ

「謝りたいの?」







足を組みなおして、

頬杖をついたまま、

眉毛を片方ツンと上げるミカ。







シン

「…あぁ、あの」

「あの時は、ごめんな」

「俺、我慢できなくて」

「その、だから…!」







ミカの前では急にIQが下がる。


まともな日本語が使えなくなる。



急に情けなくなった。



俺はiQOSに逃げた。






ミカ

「…ふーん」







細い指が、

手元のグラスをくるくる回す。





ミカ

「許してほしいなら、」

「ちゃんと犬になってよ」





静かに、淡々と、

まるで天気でも言うみたいに。





シン

「犬、って……」





ミカ

「“ミカの言うことを全部聞く”」

「…ってこと」

「今日こそ、ね?」







俺は、

ゆっくり煙を吐きながら

自分の心臓の音を感じた。






シン

「…わかった」

「わかりました」

「いや、わん」





ミカ

「いい子」

「じゃあさぁ…」






ミカは椅子から立ち上がり、

ベッドで仰向けになった。






ミカ

「ほら、ここ」






細くて華奢な首を指さしてくる。





ミカ

「アタシの首、絞めて」







シン

「……え?」








ミカ

「ソレ吸いながらでいいから」

「空いてる手で首絞めて」

「優しくじゃないよ」

「でも、殺さないように」







さらりと言う。


まるで前から

知っていた教科書を読み上げるように。


指で自分の首筋をなぞりながら、






ミカ

「上からの圧じゃないの」

「気持ちいい首絞めは…」

「横からの圧で空気を薄くするの」






ミカ

「ここ」





俺の手を掴むミカ。





ミカ

「ここを、ぎゅって」






俺の手を喉元へ案内した。








ミカ

「アタシを苦しめて?」







まるで入眠のように

目を細めるミカ。






ミカ

「わん は?」

「お返事は?」





頬も赤く、

かなり興奮していた。








胸の奥がざわっとした。




恐怖と、


興奮と、


背徳の、


全部が混ざっていた。









シン

「……わん」













ミカ様の仰せのままに。
















苦しみ、を、貴方に。






















ぎゅ。







指に柔らかい皮膚と、

その奥の鼓動が伝わる。






ミカ

「……そう」

「そこ……っ!」

「んぐ………離、して!」






言われた通り手を離す。







ミカ

「…っはぁ!はぁ!」







顔を真っ赤にして、

苦しそうだが、

目はキラキラと嬉しそうだった。







ミカ

「もう一回…!ゲホッ」

「もっと…!」

「ゲホッ」

「もっと、いっぱい…!」









それを何度も繰り返す。


そのたびに、

ミカの息が甘く震えた。








ミカ

「シン……!」

「っ…!」

「もっと……して…!」







ミカが、力なく、開脚した。




真ん中だけ、

光を拾ってきらりと反射した。






ミカ

「きて」

「しながら、首を絞めて」

「同時が好きなの」

「早く…っ!」









ミカ史上、最も甘い声だった。






















ーーー









そして……


あっという間に数時間経過。












全てを出し切って、無音の時間。


俺は疲れ果てて、

ミカに覆いかぶさったまま、

肩で息をしていた。




そのままミカは

俺を抱きしめると、


ミカは小さく、

「撫でて……」と囁いた。






頭を撫でるとミカは、

猫みたいに気持ちよさそうに

「ん…」と喉を鳴らした。




こんなに愛おしい生き物から、


俺は、さっき、酸素を奪った。




その独特な背徳感に


ひどく、興奮していた。




自分の性癖が

ねじ曲がっていくのを

肌で感じた。




この夜のあと、


俺は

“首絞めプレイ”

という奇妙なスキルを覚えた。







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