LOG.17|お前なんか|INNER CHATTER
俺と、現役モデルと、不倫と…。
こんな人生で、マトモは無理。
たった一度の出会いで、人生が壊れた。
これは、その記録。
————
俺は、
ミカの罠にまんまとハマって、
絶望を感じていた。
目を覚ますと、
見覚えのある天井だった。
部屋を見渡すと、
ピカピカになっていた。
シン
「……」
さっきまで
マスターの店にいた気がするけど…
どうやって家に帰ったんだ?
シン
「……」
とりあえず、
ゆっくりと
リビングへ向かう。
朝…なのか?
やけに部屋が明るい。
逆光で光り輝く、
綺麗な人がテーブルを拭いていた。
ミカ
『あ!』
『おはよ!』
『今日は卵焼きだよ!』
エプロンを着た、ミカだった。
ミカ
『ワイシャツはそこね!』
『ほら!早くして!』
『おはよ~』
ペタペタと
裸足で小さな女の子がやってきた。
シン
「……」
俺は思った。
嫌な、夢だな、って。
小さな女の子
『パパ~』
『早く座ってよ~』
嫌な、夢だ。
iQOS、が、無い。
そりゃそうか…。
俺は親指をかじった。
クソ…
気分悪い夢だ…
タバコ吸いてぇ…
小さい女の子
『ママ~』
『パパが、おしゃぶりしてる』
『大人なのに、変なの~』
ミカ
『早く座ってよ』
『ふざけてないで』
『もう、大人なんだから』
ふざけてねぇよ…
落ち着くんだよ…
何か、口にくわえると…
シン
「黙ってろ」
引き続き、
指をくわえて待機。
どーすっかなー…
早く覚めたいなぁ…
嫌な夢だなぁ…
バンッ!
ミカがテーブルを叩いた。
ミカ
『ふざけないで!』
『そーゆーのいいから!』
シン
「ふざけてな、」
ミカ
『大人に…!』
『なってください…!』
『いい加減…!』
テーブルの上で、
拳を握るミカ。
男の声
『なに都合よく解釈してんだ?』
『お前に、子供はいないだろ?』
声の方を見ると、
かつての部屋があった。
"俺がリュウトに貸してた部屋"
リュウト
『おーい』
『いい歳こいて、』
『怒られてるのかぁ?』
ここは、
俺のマンション…なんだな。
ドアの奥から
聞きなれた声が響く。
ドアの前へ行った。
シン
「リュウトか」
リュウト
『久しぶりだなぁ』
『シン、お前も、』
『早く大人になれ』
『俺は先に行くぜ』
シン
「てめぇ…!」
「てめぇのほうがガキだろ!」
「偉くなったなぁコラ!」
「なんだその口の利き方はぁ!」
リュウト
『デカい声出すなよぉ~』
『大人なんだからぁ~』
シン
「お前なんか…!」
「お前なんかによぉ…!」
「言われたかねぇよ!」
…殺す!
このドロボーが!
ガチッ!
ドアが、開かない。
シン
「クソが!」
「開けろ!殺すぞ!」
リュウト
『なぁシン』
『お前、逆の立場って知ってるか?』
ガチッ!
シン
「黙れ死ね!」
「開けろ!」
ガチッ!
リュウト
『死ねとか殺すとか』
『お前は無責任なんだよ』
『言われた側を理解してない』
ガチッ!
ガチッ!
リュウト
『大人っていうのは』
『言われた側も考えるんだ』
『こう言われたら、どうかな』
『嬉しいかな、悲しいかな』
『相手の気持ちを探るんだ』
ガチッ!
ガチッ!
リュウト
『そして適切な距離を探す』
『それが大人の人間関係だ』
『シン、感情で生きるな』
ガチッ! ガチッ!
ガチッ! ガチッ!
リュウト
『開かないドアを…』
『感情だけで開けようとする』
『それも、お前が自己中だからだ』
『鍵がかかってるのかな?』
『どうして鍵をかけてるのかな?』
『ここは開けちゃいけないの?』
『じゃあ、今回は帰ろうかな?』
『ここまで思考できて大人だ』
『押してダメなら、引いてみな』
ガチッ!
なんだこれ…
ビクともしねぇ…
シン
「…てめぇ」
「どっちが自己中だぁ!?」
「人の金、」
ガバッ!
突然、
呼吸が全て、
マスターの匂いになった。
シン
「ぷは!」
「なんでマスターまで…」
マスター
『なにしてんだ?』
『さっきからうるせーな』
マスターが俺を、
パッと離して対面する。
どこから現れたんだ…?
と思ったら
玄関が、無くなっていた。
ぽっかり穴が空いて、
"空間"になっていた。
シン
「な、なんだアレ…」
呆然としていると…
マスター
『君、聞いてる?』
『大丈夫か?』
急に、
マスターらしくない口調…
シン
「マスター、違うんだ」
「夢から冷めなくてよ」
「で、中にはリュウトがいるんだ」
「だから殴ろうと思って」
マスター
『君は、子供か?』
『もっと、ちゃんと説明しろ』
シン
「どいつも…こいつも!」
「俺はずっと、ずっと!」
「説明してるよ!」
「分かれよ!」
「ちょっとは共感しろよ!」
「俺だって必死なんだよ!」
「言葉が、つたないんだよ!」
マスター
『こっちこい』
マスターが俺の腕を掴む。
シン
「嫌だ!触るな!」
「全員、ぶっ殺してやる!」
「二度と逆らうな!」
「バカが!」
マスターの腕を振りほどき、
俺はダッシュで部屋を出た。
外にも、
もう一人マスターがいた。
すぐに追いかけてきた。
シン
「クソ…」
「早く覚めてくれ…」
走りながら、
本気で願った。
外の景色も見事に
俺のマンションだった。
だとしたら、
こっから出る道は知ってる。
エントランスに行き、
マンションから出れば、
この悪夢も終わる…はずだ!
よし、
後は角を曲がれば、
エレベーターが…
無い。
エレベーターが
あったはずの場所は
大きな穴が空いていた。
俺は目を覚ました。
起きると、
荒れたマンションだった。
シン
「あれ…?」
上半身だけ起こし、
周りを見渡した。
シン
「あーそうそう」
「これこれ」
安心した。
これは紛れもなく、
俺が荒らしたマンションだ。
あそこから
逃げれたんだ。
ここは現実だ。
壁の穴もあるし、
ウイスキーの空き瓶も、
大量のティッシュも、
そのままだ。
でも……
ミカが、いない。
シン
「…ミカー?」
返事が、無い。
変な感じだけど…
これが、普通なのかもしれない。
そう、思った。
また
エレベーターの前にきた。
今度は
しっかりエレベーターがある。
良かった。
1階まで降りる。
エントランスを、出る。
すぐに異変に気づいた。
車が1台も無い。
シン
「ちっ」
「まだ夢の中か」
「ミカー?」
信号も無い。
適当に渡る。
ヒュン!
鼻先に風を感じた。
…今、何か通った。
多分、車だ。
俺には見えない。
怖くなった。
すかさず、
iQOS代わりに親指をくわえる。
エントランスへ戻った。
エレベーターに乗り、
部屋に帰った。
すると、
部屋の前にリュウトがいた。
の、隣に…
ミカにそっくりな…
影…というか
人形…というか
黒くてぼんやりした、
"ミカのようなモノ"
リュウト
『やっぱり、な』
『怖くなったのか?』
『だから帰ってきたんだろ?』
シン
「リュウト!」
バチィン!
ダッシュでぶん殴った。
夢だから別にいいだろ?
"ミカのようなモノ"が
何やら止めようとしてくる。
声が発せないのか…?
声も聞こえない、
顔も見えない、
黒い影。
なら関係ねぇ。
つまり、
コイツは、
ミカ、じゃない。
ドカッ
俺は怒りに任せて、
"ミカのようなモノ"のアバラを
思いっきり蹴っ飛ばした。
意外と華奢に作られていて、
パキッとした感触がした。
触るな、人形。
バカが、
二度と逆らうな。
吹っ飛んだ、
"ミカのようなモノ"
を、リュウトが受け止めた。
シン
「よっしゃリュウト、」
「続きを、」
ドカァン
リュウトが
顔面を蹴り返してきた。
リュウト
『10年振りだな』
『タイマンはるの』
コイツ…
ハイキックなんて出来たっけ?
シン
「てめぇ誰に向かって、」
鼻血が止まらない。
ドカァン
今度は腹を蹴られた。
リュウト
『てめぇとか言うなよ』
『大人なんだから』
『名前で呼べよ』
シン
「ゲホッ」
「あぁ!?」
ブンッ
俺のパンチを避けるリュウト。
風きり音だけ響く。
リュウト
『シン、お前は、』
『自認、神様で』
『自認、王様だ』
『そんな大人いるか?』
『何歳まで続けるつもりだ?』
ブンッ
ブンッ
リュウト
『言葉は品性を表す』
『お前には品性が無いんだ』
『だからミカが好きなんだろ』
『溢れ出る天然の品性が』
ブンッ
ブンッ
ブンッ
リュウト
『言葉というのは』
『毒にも癒しにもなる』
『ミカの言葉に救われたろ?』
『お前の癒しだったろ?』
シン
「はぁ…!はぁ…!」
1発も当たらず、
俺はバテて膝に手をついた。
吐きそう、動けない。
外からサイレンが聞こえる。
窓が赤く反射する。
そんな訳ない。
俺のマンションは
11階だ。
サイレンが
こんなに近いわけない。
でも、
すぐ横で鳴ってるように聞こえる。
その時、
"ミカのようなモノ"
が、目の前まできた。
リュウト
「「おい、危ないよ」」
「「僕に任せておいて」」
「「さぁ、こっちへ」」
リュウトの口から
リュウトじゃない声が出て、
二重になって聞こえた。
なんだ今の…
気持ちわりぃ…
そんな、
リュウトの声を無視して、
"ミカのようなモノ"は、
なにやら、
蹴られた俺の顔を、
ひどく心配してる様子…。
でも、自分のお腹も押さえている。
痛そうに…。
俺、さっき
お前を蹴っ飛ばしたからな…
それでも…
俺の方を、心配してるのか?
優しく、頬を撫でてくれた。
顔が真っ黒で見えないが、
なんだか悲しそうな気がした。
必死で何か喋ってる。
声は、聞こえない。
なんだか、
俺を守るような様子。
リュウトと俺の間に、
割って入るようにして、
俺を、胸に抱き寄せた。
もう強がらないで。
そう言われてる気がした。
"ミカのようなモノ"の
胸の感触は…
ミカ、そのもの、だった。
頭を撫でられる。
ゆっくり、ゆっくりと。
心臓で…
「ただいま」
と音が鳴るみたいだった。
自然と、涙が出た。
出たというか溢れた。
サイレンの音と、
赤い点滅が、
だんだん大きくなる。
うるさくて仕方ない。
俺は目を覚ました。
シン
「あれ……?」
場所は、
俺の、マンション。
さっきより、
静寂に包まれていた。




