LOG.16|早く大人に、|Help me.
俺と、現役モデルと、不倫と…。
こんな人生で、マトモは無理。
たった一度の出会いで、人生が壊れた。
これは、その記録。
————
俺が一緒に住んでるミカは、
どうやら、
タルパっていう名前らしい。
でも、
現実のミカより、
遥かに優しいし、
正直支えになってるとさえ思う。
俺はミカに話かけた。
シン
「よく考えたら空って凄くね?」
「コロコロ色が変わる」
ミカ
『ね!』
『綺麗だね!』
俺は
"内側のミカ"と2人で
ずっと窓から空を見ていた。
いつの間にか
空が青からオレンジに変わった。
よし。
決心した。
マリナに電話をかけた。
シン
『お疲れ様』
マリナ
『お疲れ様です!』
『風邪大丈夫ですか?』
シン
『大丈夫、ありがとう』
『でさ、オーナーやらない?』
マリナ
『え?』
シン
『俺の整骨院、買ってよ』
俺は、
ミカといれる時間を
少しでも伸ばすことにした。
自分のためでもあるし、
ミカのためでもある。
ミカ
『嬉しい!』
『たくさんお話できる!』
『ずっと一緒~!』
マリナ
『また唐突に…』
『…も~!』
『なんで、』
シン
『間に人を入れて話そう』
『値段とかタイミングとか』
『まぁ明日、整骨院に行くね』
マリナ
『…はい』
これでいいんだ。
シン
「よし、ミカ」
「パーッと呑むか!」
「俺はもうすぐ無職だぜ!」
「遊びまくろうぜ!」
ミカ
『わーい!』
『どこにもいかない?』
『ずっと一緒?』
シン
「ああ!」
「ずっと一緒だ!」
「…多分!」
「うーん…金が持つかな?」
「狭い家に引っ越すか…?」
ミカ
『多分じゃイヤだ!』
『約束して?』
『ミカのこと独りにしない?』
シン
「…ああ!」
「わかった、約束」
「独りにしないよ」
ミカ
『ねぇ、ミカのこと…』
『どれくらい好き?』
『愛おしい?』
『離したくない?』
『今、幸せ?』
『一生忘れない?』
シン
「心配すんな!」
「大好きだ!」
「ずっと一緒だ!」
「ミカは消えない!」
「何年経っても!」
「ミカ、大好きだよ!」
ミカ
『わーい!』
『安心安心~!』
ぎゅ。
俺はミカとハグした。
しかし、
カーテンのような感触だった。
スカスカで、フワフワだった。
その後、
俺はミカと酒を呑んだ。
浴びるほど呑んで、
家で気を失った。
ーーー
後日、
銀行の人間を挟んで
マリナと
整骨院について会議した。
マリナ
「いや…」
「安すぎますよ…?」
「あの店舗なら、もっと」
「プラス300万は固いですよ」
シン
「いいんだよ」
「稼ぎたいわけじゃない」
「少し、休憩したいんだ」
銀行員
「かなりお買い得ですね」
マリナ
「……」
「車は?」
シン
「売ったよ」
マリナ
「マンションは?」
シン
「売るよ」
「なんだよ?」
「住むか?」
マリナ
「いや、いいっす」
「心配です、オーナー」
シン
「オーナーはお前だろ」
ワザと冗談っぽく言った。
マリナ
「ふざけないで!」
「そーゆーのいいから!」
バンッと机を叩くマリナ。
銀行員
「ちょ、まぁまぁ」
マリナをなだめる銀行員。
マリナ
「どうしちゃったんですか?」
「しっかり説明が欲しいです」
「いつも勝手に決めて…」
「今度は勝手にいなくなるの?」
ぐっと拳を握るマリナ。
マリナ
「大人に…」
「なってください…!」
「いい加減…!」
バンッと
もう一度机を叩くマリナ。
マリナ
「雑なんですよ…!」
「他人に対して…!」
「なんでそんなに…」
他人に、
興味が、
無いんですか。
…急に遠く聞こえた。
ミカ
『ね、ね、ね』
『もう喋っていい?』
『ムカつくんだけど』
『何偉そうに説教してんだよ』
ダメだ。
黙ってろミカ。
こっちが2人いるのを、
悟られるわけにはいかない。
のびのびと
ミカと話すのは
全てを失ってからだ。
俺の地位がゼロになってから。
シン
「ごめんごめん」
「ちょっと聞いてくれ」
久しぶりに
いっちょ嘘つくかぁ!
シン
「いや実はよ…」
「この前病院行ったら…」
「医者に言われてよ…」
「俺にはタルパがいるらしい」
マリナ
「……は?」
「タルト?」
…あれ!?
嘘つくつもりが、
普通に言っちゃったよ!?
口が、勝手に動いた。
ミカ
『ぷはは!』
『バッカじゃないの~!』
『ミカが黙ってた意味ないじゃん』
クソ、どーなってんだ…
ついに
こんな簡単なことも
できなくなっちまったのかよ…!
シン
「と、とにかく」
「なんかヤベー病気らしくて」
「ソレが治るまでは、」
マリナ
「あー、はい」
「いいっす、いいっす」
「とりあえず買います」
「アタシ、やりますよ」
ミカ
『おー!』
『結果オーライだね!』
シン
「ありがとな」
マリナ
「自殺する気じゃないですよね?」
シン
「え?」
ミカ
『……』
シン
「い、いや」
「まさか、そんな」
「な、なんで」
ミカ
『なんで否定するの?』
『別に悪いことじゃ、』
周りの人間が、止まって見える。
ミカ
『うーん…』
周りの音も、急に無音になった。
ミカ
『…シン!』
『もう死にたいなら応援するよ!』
『いつだってミカは味方!』
『疲れたなら、死んじゃお!』
シン
「そ、そんなこと…」
「言うなよ……」
マリナ
「えぇ!?」
「マジでそうなの!?」
全てが、パッと元に戻る。
シン
「あ!いや!」
「今のは、違くて!」
「こっちの話っていうか…」
ミカ
『そうそう』
『お前とは喋ってないの!』
『シンはミカと喋ってるの!』
『ベロベロバー』
マリナ
「なんか知らんすけど…」
「ダメですよ」
「今のお客様残して」
「今のスタッフ残して」
「そんなこと許しませんよ」
「何があったか聞かないけど」
「潰さずに待ってますから」
「たくさん店舗も増やして!」
シン
「…ありがとう」
「大丈夫、死なない」
「自殺なんてしないよ」
「俺は、」
ミカ
『なんでダメなの?』
『ミカがいいよって言った』
『じゃあ、いいよ、なんだよ?』
『なんで死ぬのはダメなの?』
『死ねば解決じゃん!』
『もう何もしなくていいよ!』
うるさいな…。
ん?
なんか今…
割り込まれたか…?
はじめてかもしれない。
ミカが割って入ってくるのは。
マリナ
「…オーナー」
「休んでから話しましょ」
「やっぱり様子が変ですよ」
銀行員
「ま、まぁまぁ」
「シンさんも大変ですよね」
「色々とね、プレッシャーもね」
シン
「……」
ミカ
『…帰ろ?』
シン
「とりあえず帰るわ」
「後は2人でよろしく」
銀行員
「わかりました」
マリナ
「…はい」
ーーー
俺は帰宅した。
さて……
次はマンションか。
この部屋ともオサラバだ。
あばよ、リュウト。
ピリリリリリリ
ん?
スマホには
マスターの店の番号。
シン
『はいはい』
マスター
『おい、シン』
『今日何時に来るんだ?』
シン
『え?』
マスター
『あれ?』
『ミカと来るんじゃないのか?』
なに?
ミカ
『……』
シン
『なんだそりゃ…?』
『俺は聞いてねーけど…』
マスター
『あ!なんだよ、そっか』
『俺が聞き間違えたのかな?』
『ミカから予約入ってよ』
『シンって言ってた気がして』
番号が、無いのか…!
俺の番号を消しちゃったから…!
だからマスターにワザと…!
ミカ
『いや』
『罠だよ、シン』
『メイの罠だよ』
『今夜はミカといよう?』
『ね?』
シン
『……』
マスター
『ごめんな』
『じゃ、また来てな?』
シン
『ああ…』
『今夜、な』
マスター
『え』
ブツッ
ミカは……
呑みに行く前に
ほぼ必ずインスタを更新する。
モデル用のインスタを確認した。
すると、
親しい友達、で
ミカのストーリーが光ってた。
マスターの店で
グラスの写真が上がっていた。
出会った日の、
シャンディガフ。
Try Again
と英語で表記されていた。
ミカ
『嘘に決まってる』
『またオモチャにされるだけ』
シン
「……」
俺は淡々と着替えた。
ミカ
『……』
ーーー
車は無かったので
ダッシュで向かった。
どーせ走っても
10分かからねぇ!
街灯の下を走りながら、
胸の中はなぜかウキウキしていた。
ミカと
ダーツでもしようかなぁ!
ってね。
ミカ
『……』
バターン!
シン
「よう!」
「マスター!久しぶ、」
ミカが、男といる。
ミカ
「あら?」
「シンさん!」
「偶然~!」
マスター
「シン、わりぃ、あのよ」
「俺、シンって聞こえたけどよ」
「人違いだったみてぇだ…」
「俺のせいだ、ごめん」
違うと思うよ。
ミカはワザと言ったんだよ。
顔見りゃ分かる。
ほっぺが真っ赤で
めちゃくちゃ興奮してる。
隣の男に、じゃない。
放心状態の俺に、
心から興奮しているんだ。
ミカ
『だから』
『言った、のに』
『罠、って言った、の』
マスター
「…シン?」
「どうし、」
シン
「メイさん」
「久しぶりだな」
ミカ
「ええ、ほんとに」
「げ、元気してました?」
「ハァ…!」
息も、
そんなに荒くして…。
そんなに気持ちいいか?
ミカの隣の男が言う。
隣の男
「メイ、熱があるんじゃないか?」
「どうした、大丈夫?」
男が、
ミカのおでこに手を当てた。
触んじゃねぇ…!
ミカ
『触んじゃねぇ』
『触んじゃねぇ』
『俺のミカに触るな』
俺のミカに触るな!
隣の男
「ん?」
「君、ケガするよ?」
「僕、こう見えて…」
「ムエタイやってるからね?」
俺は
知らないうちに、
男の腕を思いっきり掴んでいた。
ミカ
『さわわわわ』
ミカ
「ど、どうしたんですかぁ?」
「ハァ…!そんなに!」
「怒って…?…っ!」
「アタシに…聞かせて!」
「なんで怒ってるのか…!」
「詳しく…!」
心底、嬉しそうな、ミカ。
隣の男は
じーっと俺を見つめている。
興奮してるミカには
一切気づいていない。
隣の男
「…いつまで掴んでるの?」
「本当にケガしたい?」
「おじさん、怒るよ?」
シン
「あ!」
「わ、悪ぃ、オッサン…!」
俺は
慌てて手を離した。
隣の男
「君ねぇ、オッサンはないよ」
「こう見えてまだ36だよ」
「まだまだお兄さんだし…」
「それに君さっきから、」
オッサンが
俺に説教してる時、
ふと、
何か動くものが目に入った。
ミカが、
マスターと隣の男には
見えない角度で
一生懸命、
指を震わせていた。
脚の間、で…。
隣の男
「君、聞いてるのか!」
シン
「あ、あぁ…!」
「えっと、ごめん、」
「いや、すみません…でした」
ミカ
「~っ!」
「……っ!」
「…ハァ」
ミカ…
やっぱりお前…
筋金入りの変態、
ガバッ
突然、目の前が真っ暗になった。
マスター
「シン!」
「俺が悪かったって!」
「落ち着け!」
「どうしたんだ今日は!」
呼吸が全て、
マスターの匂いになった。
ミカ
『もう嫌だ帰る』
『もう嫌だ帰る』
『ももももももももも』
ミカ
「……ふ~」
グラスに残った、
シャンディガフを
イッキ飲みするミカ。
ミカ
「マスター」
「アタシ帰るね」
マスター
「あ、あぁ」
「なんかごめんな」
ミカ
「ううん」
隣の男
「えぇ!?」
「待ってくれよメイさん!」
「やっと時間貰えたのに!」
「僕の会員制サウナは!?」
「銀座に行く約束は!?」
ミカ
「ごめんなさいね」
「行く気無くなっちゃった」
「また埋め合わせしますね」
「今日は、帰りたいの」
カバンを持って
颯爽と立ち上がるミカ。
俺の横を通りすぎる時、
俺と目が合った。
ミカはウィンクした。
とっても嬉しそうな顔をして。
そしてミカは帰った。
追いかける、気力は、もう無い。
ミカ
『現実は、もう嫌だ』
『いい事なんて何も無い』
『嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ』
もう嫌だ。
やり直したい、
最初から、
全部。




