LOG.14|みんなみんな|Massacre
ミカとホテルで
イチャイチャするつもりが、
いつの間にか
2人で爆睡してしまっていた。
俺たちは、慌ててホテルを出た。
帰りの車内でも、
ミカは
少しだけウトウトしていた。
俺は気を利かせて、
ほとんど話しかけなかった。
そして、
ミカを
コインパーキングまで送り届けた。
シン
「ミカ、着いたよ」
ミカ
「ん…ふぁぁ」
「ありがと」
「ごめん、また寝ちゃった」
シン
「なぁミカ」
「あのさ……」
「我慢したから、次も会えるよね?」
ミカ
「え?」
「無理」
「会えないよ?」
喉が詰まった。
シン
「え?」
ミカ
『クソ野郎』
『最低』
そんな俺を無視して
降りる準備を淡々とするミカ。
ミカ
「よいしょ」
「あれ?」
「ピアスどこやったっけ、」
シン
「ね、ねぇ!ミカ!」
「なんで!?」
「なんで会えないの!?」
「だって俺、ガマンしたじゃん!」
ミカは笑う。
ミカ
「…あのさぁ」
「彼氏いるって言ったでしょ」
「“我慢できなかったら会わない”」
「って言っただけで、」
「“我慢したら会ってあげる”」
「なんて一言も言ってないよ?」
嬉しそうな、ミカ。
ミカ史上、
1番嬉しそうに見えた。
ミカ
「可哀想ね、わんちゃん」
「今度こそ、サヨナラだよ」
両手で俺の頬を包むミカ。
ミカは息を荒くして、
かなり興奮しながら、
淡々と喋りだした。
ミカ
「ぜーったい忘れないでね?」
「ミカのキスも、ハグも、S※Xも」
「他の女と会うたびに思い出して?」
「ミカを、一生トラウマにして?」
「でもミカはすぐ忘れるからね?」
「アンタのこと明日には忘れてる」
人の心を壊すのが
何よりも快感そうな表情だった。
そして、
ほんの一瞬、唇が触れる。
ミカ
「じゃ、元気で!」
絶望してる俺の頭を撫で、
ひょいっと車から降り、
満足そうに てててっと帰るミカ。
その姿は、
愛おしくて、残酷、だった。
俺は…
1時間ほどパーキングにいた。
動けなかった。
ミカ
『…シン』
『ミカは傍にいるからね』
『何があっても…』
ありがとな、ミカ。
帰らなきゃ。
チクショー。
最高に気分悪いぜ。
誰でもいいから愚痴りたい…。
…リュウト呼ぶか。
ピリリリリリリ
ピリリリリリリ
…出ろよ!!
あのバカ、
またゲームやってやがるな。
ったく。
クソニートが。
リュウトも電話にでないことだし、
…恐る恐る、
スマホを確認してみたら、
本当に、ミカは俺を切った。
番号は着拒。
LINEは消去。
個人SNSは全て繋がらない。
マスターに聞こうかと、
一瞬よぎったが、
関係を隠していたし、
ストーカー扱いされる未来が
手に取るように見えたから、
何も言えなかった。
俺はiQOSをくわえ、
大きくため息と共に煙を吐いた。
ふと、
車内から
フォレストの看板を眺めた。
フォレストの看板を見ると、
鼓動が一気に早くなる。
ミカの首を絞めた感触が、
鮮明に よみがえる。
手がミカの喉元を求めて、
握力が こもる。
ミカの、首を、絞めたい。
ーーー
家についた。
部屋の光景を見て、
心臓が止まりそうになった。
散々荒らされていた。
空き巣かと思ったが、
部屋の真ん中に手紙があった。
リュウトの字だった。
『マジでごめん』
『前の職場で借りた金返してない』
『ちょっともらう』
『全部おわったら帰るね』
リュウトのスマホも置きっぱだった。
帰って……くるな!!
ふざけんな…!!
ドカァン!
俺はつい、壁に穴を開けた。
200万相当の
腕時計やらネックレスやら
封筒に貯金してた現金やら…
根こそぎ持っていきやがった。
ぜってぇ許さねぇ。
と…思ったが。
通報するエネルギーすら、
俺にはもう残ってなかったし、
なにより、二度と、
リュウトと関わりたくなかった。
チクショー。
なんで…
俺ばっかり…!
"最高の人生"のはずが…!
なんで…!
荒らされた部屋が
滲んで見えなくなっていく。
部屋の音も遠くなり、
聞こえなくなっていく。
ミカ
『シン』
『まずは落ち着いて』
『現状を、』
シン
「黙ってろぉ!」
声の方へ、目線を向けると
そこには、
いるはずのない
ミカが、いた。
シン
「え…?」
「おいおい…」
ミカ
『わんちゃん』
『ミカだよ』
『おいで?』
『頑張ったね』
『たくさん嫌だったね?』
両手を広げて、
俺を受け入れようとする、
"ミカのようなモノ"
シン
「ふざけんな…!」
マジで
頭おかしくなっちまった。
心底、吐き気がした。
俺が生み出した、
このバケモノを
消し去りたくて仕方なかった。
でも……
抵抗するメンタルは残っていない。
俺は…
ゆっくり近づいた。
すり抜けた。
ミカ
『あ、あれ?』
『なんでだろう』
『触りたいよぅ』
『なんでなの~?』
本格的にマズい。
これは、
ミカ
『わんちゃん』
『可愛いね』
『ねぇ、ねぇ』
受け入れてはいけない物体だ。
ミカ
『ねぇ』
『わんちゃん』
『可愛い』
『可愛いね、わんちゃん』
『わんちゃん』
俺は耳をふさいだ。
それでも、すり抜ける。
ミカ
『大丈夫だよ』
『ミカがいるからね』
『ミカは、いるよミカ』
『ずっと、ミカ、いる』
俺は腹の底から声を出した。
悲鳴にもならない悲鳴。
ほんの一瞬、
ミカの声が消えて楽だった。
それでも
いてもたってもいられず、
その晩、
俺は荒らされた部屋で
浴びるほど酒を飲んだ。
声が、聞こえなくなるまで。
ーーー
マリナ
「……ってば!」
「ちょっと!」
「ねぇってば!」
シン
「…っ」
「うっせぇな…」
「あ!」
俺は
慌てて起き上がった。
整骨院のソファで
寝てしまっていた。
朝方に寝たのか、
いつ入眠したか記憶が無い。
どうやって
整骨院に来たのかも
全く記憶に無い。
目の前には
マリナがいた。
マリナ
「何してるのよ!」
「呑みすぎたの!?」
「もう開店時間ですよ!」
シン
「わりぃ!」
「やっちまった!」
「ありがと!」
シンは急いで
整骨院の更衣室で着替えた。
マリナ
「9時から予約入ってるので」
「私、対応しておきますね」
「9時半のお客様はお願いしますよ!」
「…ん?」
俺のスマホが震えていた。
マリナ
「オーナー、電話」
「メイ…?って書いてある」
俺は
着替えを止めた。
そんなワケ…ないだろ。
と、思ったが、
僅かな希望にかけて、
期待にしてしまった。
バタン!
更衣室から飛び出した。
マリナ
「わ!びっくりした!」
スマホを掴んで、
そのまま店の裏口へ出た。
シン
『…はい』
ミカ
『会おうよ』
シン
『なんのつもり、』
ミカ
『ごめん』
シン
『お前…な、』
ミカ
『ごめん』
『ごめんね』
その謝罪は…
心からの言葉に聞こえた。
ミカ
『だから、さ、』
『わん って言って?』
シン
『……はぁ?』
『何言ってんだ?』
ミカ
『許してくれるなら、』
『わん って言って』
『声を、聞かせて』
シン
『…わん』
ミカ
『会ってくれますか?』
『私と』
シン
『わん』
ミカ
『シンさん』
『はじめまして』
『メイ、です』
シン
「…っ!」
マリナ
「ちょっと!」
「ねぇってば!」
シン
「…っ」
「うっせぇな。」
「あれ!?」
俺は
ガバッと立ち上がった。
時計は
8時50分。
何故か、
更衣室で目覚めた。
更衣室の椅子で
座ったまま寝ていたようだ。
シン
「え!?」
「待って、あれ!?」
マリナ
「もう!」
「酔っ払ってんの!?」
「お客さん来ちゃいますよ!」
マリナは怒りながら、
更衣室を出ていった。
シン
「くそ…!」
「どうなってんだ…?」
俺は
急いで着替えた。
シン
「おいマリナ!」
更衣室のドアを
少し開けてマリナに聞いた。
シン
「俺のスマホ、」
「電話鳴ってないか!?」
マリナ
「鳴ってないですよ」
「さっき電話してましたよ…」
「早く着替えてくださいよ…」
シン
「さっき…電話…?」
マリナの声が、
一瞬、遠くなった。
店内の音だけが、
やけに大きく聞こえる。
ミカ
『怖がらないで』
『ミカは味方だよ』
『オバケでもないし』
『敵でもないよ!』
『シン、大好きよ』
チクショー。
私生活に支障が出るレベルで
くい込んできやがる。
俺はiQOSをくわえた。
大量に煙を吐いた。
マリナ
「えー!?」
「なんで今吸うのよ!」
「お客さん来ちゃいますよ!?」
シン
「…マリナ」
マリナ
「なんですか!?」
シン
「任せていいか?」
「ちっと疲れた」
マリナ
「えぇ~!?」
「もう~!」
「貸しですよオーナー!」
シン
「あと1時間くれ」
「すぐに現場に出る」
マリナ
「お願いしますよ!」
「今日少ないんですから、人が」
ミカ
『じゃあお話しよ』
『1時間、ミカとお話!』
『わーい!』
俺は
スマホで精神科を検索した。
手遅れかもしれないことは
うっすら感じていた。




