LOG.12|ミカ ≠ メイ|Return
たくさんいる、
ミカレプリカたち。
全員不倫相手。
2号機、3号機は
愛情の故障により捨てた。
そこで、
愛情の故障について、
少し、補足しておこう。
今回の緊急回避、
念の為、保険も撒いてある。
前に説明した通り、
俺の店がある住宅街には
何件か店が他にもあった。
その中でも
マスターのバーと定食屋の
この2つの店が
メインで街の情報を持っていた。
なんでも知ってる。
マスターは
口が堅いから信用できるが、
定食屋のババアは
マジのガチで心から信用ならん。
口が軽すぎるしゴシップが大好き。
だからこそ、
近所の定食屋のババアに
定期的にこう言っておいた。
シン
「この辺に住んでるヤツでさ」
「人のことマザコンとかゲイとか、」
「勝手に決めつけて…」
「噂流すヤバい奴いるらしいよ」
「オバチャンも気をつけてね」
週1で刷り込み。
前にも聞いたよ、と言われたら
そうだっけ?でOKだ。
こんだけ刷り込んでおけば
噂好きのババアは情報を放出し続ける。
ミカ
『シンは天才!』
『誰も敵わない!』
つ、ま、り
もし今後、
ミカレプリカ達が
今回のような緊急回避後に
復讐の意味で噂を撒いても、
少なくとも住宅街の中では、
大きな傷にはならないはずだ。
俺の店は
住宅街のお客様がメインなので
この作業のおかげで
最低限の安心感はある。
完璧防壁ではないが、
やらないよりはマシだ。
神様でも、運には頼らない。
全ては順調、準備も完璧。
…のはずだったが、
灯台もと暗し。
根本からトラブルは発生した。
最後に残った5号機とも
なんとなく疎遠になってしまい、
たくさんいた
ミカレプリカ達は
自分の幸せの為に、
俺から離れてしまった。
もう俺には
むさ苦しいリュウトしかいない。
リュウトは…
親友…と呼べるのか?
いや、腐れ縁だな。
ーーー
ある日、
ふと、
整骨院のカウンターに立ってて気づいた。
あれ…?
常連…こんなに少なかったっけ?
いつも来ていた顔が、
ぽつり、ぽつりと消えている。
最近は昼も夜も
予約カレンダーの空きが目立つ。
なんか…
暇になってないか?
空き時間も常に
レプリカ達とLINEを ぶん回し、
レプリカ達のシフトを組み、
何かあればメンタルケアをして…と
ミカレプリカの
管理運営に追われていて
本業に気持ちが入っていなかった。
最初は“気のせい”で片付けた。
でも予約の薄さは
数週間続いた。
マリナ
「にしても…」
「最近、暇っすねぇ」
「…掃除してきまーす」
シン
「おい、マリナ」
マリナ
「はい?」
シン
「今日何件やった?」
マリナ
「1日突っ立って2件です」
マジか。
この静けさ……本物だ。
嫌な汗をかきながら、
何ヶ月ぶりに売上の計算をした。
画面を見た瞬間…
背中に、
冷たいものがスッ……と走った。
手取り、8万。
シン
「は?」
声が出た。
ミカ
『……』
俺は自分の店のオーナーだ。
一番働かなきゃいけない立場だ。
それなのに、女遊びしすぎた。
そして店の流れは…
そんな俺の怠慢を
正直に数字で返してきた。
画面を閉じる指が震えた。
胸の奥に、
ミカを失った時とは違う種類の、
もっと冷たい痛みが広がった。
俺、何やってんだ?
女は遊べば増える。
でも仕事は、サボれば普通に死ぬ。
当たり前だ。
ミカ
『……』
とりあえずiQOSに逃げた。
何本も脳死で吸った。
うーん…
どうしよう。
ーーー
反省した。
俺は、生まれ変わった。
いや…違うな。
"純粋な頃"に戻った。
朝早く店に行き、
閉店後は
動画編集や集客の研究をし、
客が減った理由をひとつずつ洗った。
眠気で意識が飛びそうな深夜、
店の鏡に映った自分の顔は、
ミカに惚れ込んでいた頃より
確実に“人間味”を取り戻していた。
ミカ
『わんちゃん、』
『頑張りすぎないでね』
『ミカがついてるからね』
1週間、2週間……
ゆっくりだが
確実に売上は戻っていった。
マリナ
「ありがとうございました!」
「お大事に~!」
「…いやー」
「なんだかんだ忙しいっすね!」
シン
「あぁ、そうだな」
「よかったよかった」
お客様の笑顔を見て、
心のどこかでホッとした自分がいた。
ミカのいない世界で、
俺はようやく、
マトモに自立できたのかもしれない。
ミカ
『よかった、よかった!』
『でもね…!』
『シンにはミカが必要!』
インスタのDMに
1件の通知が届いた。
俺が業界で唯一、
“尊敬”している先輩からだった。
先輩
「この広告動画、いいね」
「ウチの店も撮りたいんだけどさ」
「このモデルの子紹介してくれない?」
心臓が止まった気がした。
その手があったか。
つまり、
合法的に、堂々と、
誰にも怪しまれずに、
ミカに連絡ができる。
ミカに会える、メイに会える。
ミカ
『……』
ミカ様が、俺を、呼んでいる。
ミカ
『……』
ミカの事務所に電話をした。
尊敬する先輩の店で、
広告を撮るために、
モデルとしてミカを紹介したい、と。
話はすんなり通って、
撮影依頼は成立した。
俺の店から先輩の店までは、車で3時間。
出張撮影は特殊らしく、
「誰が連れて行くか」は後で決める、
という流れになった。
その日の夜だった。
画面に“ミカ”の名前が光った。
…ミカ!
ミカ
『久しぶり』
『ねぇ、二人で行こうよ』
『アタシを乗せてって』
『事務所には言っとくからさ』
シン
『わん!♡』
『久しぶり!嬉しい!』
『早く会いたい♡』
『番号消したんじゃなかったの?♡』
ミカ
『はいはい、よかったね』
『可愛いね、わんちゃん』
『じゃ、当日よろしくね』
だが翌日、
事務所から着信が入った。
事務所
『2人で行かせるわけねぇだろ』
『勝手に決めんな、バカ』
普通に、めっちゃ怒られた。
スーパーおっしゃる通りです。
結局…
ミカ、
マネージャー、
俺の3人で行くことに。
しかも運転は、なぜか 俺。
まぁ……
ミカに会えるなら、
何でもいいけどよ…。
ぶっちゃけ、
片道3時間はキツイぜ…。
ミカ
『……』
ミカ
「……」
ーーー
さらに、別な問題もあった。
マネージャーがいると、
ミカとまともに話せない。
車内では
当たり障りのない話題しかできず、
距離感も、声も、空気も、
全部“事務所仕様”だった。
車は
3時間かけて先輩の店に到着した。
何度も言うが、"片道3時間" だ。
ミカを乗せてなかったら
とっくにブチ切れてるぞ。
ミカが
“メイ”に変身して撮影を始めると、
先輩が俺に言った。
先輩
「うーん…あのさ、」
「人多くて、狭いからさ」
「シンくん、どっかで時間潰しといて」
「わりぃ、ごめんな」
ミカ
『お出かけ!』
『メイは、ほっとこ!』
『ミカとお出かけ!』
狭い…か、
まぁ、それはそうだ。
カメラマン、照明、
マネージャー、ミカ、
先輩、先輩のスタッフ数人、
…そして俺。
12畳ほどの店には
あまりにも人口が多すぎた。
ーーー
俺は一人、
先輩の店から少し離れた
サウナへ向かった。
サウナの中で
ゆっくり目を閉じて、
今までを振り返った…。
随分、遠くへ来たもんだ。
この数ヶ月が濃厚すぎて、
俺はもう帰り道さえ覚えてない。
普通じゃない。
心の中には
俺が作ったミカもいる。
…よく考えたら
今、ミカと、サウナ入ってる…!
ミカ… ミカ…
つい、
ミカとの夜を思い出した。
………っ!
ミカ
『あ』
『やだぁ…』
『早く出ようよサウナ…』
不覚にも…
息子が元気になった。
慌てて、
すぐにサウナを出た。
前傾姿勢で、
マイク・ワゾースキーみたいに
小さく丸まって
ヘコヘコ脱衣所に避難した。
ミカ
『きゃはは!』
『バカじゃないの!』
俺は一体なにしてんだ?
早く終わってくれ!
ーーー
ひとまず落ち着いて、
着替え終わった頃、
ミカからLINEが届いた。
ミカ
『迎えにきて』
シン
『わん』
ーーー
帰りの車で、
また他愛もない話をした。
恋バナになった途中、
マネージャーが口を開いた。
マネージャー
「そういや、ミカ」
「彼氏の事だけどさぁ…」
「絶対に、バレないようにね」
は?
ミカ
『クソ野郎』
『メイは嘘つき』
ミカには…彼氏ができたらしい。
助手席のミカは、
スマホでアニメを見ていた。
シン
「それ何?」
「なんのアニメ?」
ミカ。
お前…
アニメ嫌いって言ってたろ。
彼氏がアニメ好きなのか?
ミカ
「彼氏が見ろって言うので…」
「頑張って見てます」
「つまんないけど」
ほーら。 な。
心がズキッと鳴った。
ミカ
『気にしないで!』
『シンにはアタシがいる』
『コイツは偽物!』
ーーー
事務所に着いて、
ミカを送り届けた。
俺は
“仕事モード”に切り替えて
ミカを
キッパリ今度こそ忘れて、
真っ当に生きよう。
そう思って、
そのまま帰ろうとした。
ミカ
『そうしよう』
『忘れて忘れて!』
だが、
スマホが震えた。
画面には、たった一行。
ミカ
『フォレスト来て』
『最後ね、すぐに来て』
俺はスマホを握りしめたまま、
迷いもなくアクセルを踏んだ。
向かうのは、いつものホテル。
ミカ
『え、行くの?』
『…わかったよ、行こう!』
『メイは嘘つき!』
『ミカが本物!』
心の中で
ミカを飼いながら、
ミカに会いにいく。
自ら、戦場へ。




