王太子殿下
長男様ご夫婦と次男様の治療を終えた後、侍従さんから応接室に案内された。
そこには、先程話していた、アルノー様(王太子殿下)が待っていてくれた。
「いや、恐らくあの時のアマルだと思うが、本当に間違いはないのだな?」と、アルノー様に念を押されてしまった。
「はい、間違いなくあの時お世話になりました、貧民街の孤児アマルフィでございます。あの時は謝礼金を銀貨で二十枚頂きありがとうございました。もし金貨で頂いて居ましたら、泥棒と間違われ、囚われていたかもしれません。私共孤児にご配慮いただき本当にありがとうございました。」
「やはり、王太子殿下もアマルの顔が違っている。と、そうお考えなのですね?」
「ああ、失礼だが、あの時よりかなり若くなった気がする。」
「私も昨日、最初に見た顔と、今の顔では、違って見えるが、病のせいで、そう見えたのだ、と思っていました。」
「アマル、どういう事か少し事情を聴いても良いだろうか?」とアルノー様に言われた。
「はい,私でお答えできる事であれば、お答え致します。只、王太子殿下に失礼な答え方になってしまいましたら、ご容赦お願いいたします。」
「なに、案ずることは無い、私は忍びで来ている。どんな答え方をしても、咎める物は此処には居ない。アマルが答え易く喋って貰えればいい。」
「ありがとうございます。そういうふうに言って貰えると安心します。」
「では聴いて行こう。アマルは何時から、治癒の魔法を使える様になったのだい?」
「王太子…!? 申し訳ありません。アルノー様に出会う一か月程前からです。」
「ほう、一か月前からと、だが、治癒魔法に慣れた手つきのようであったが⁉ それとアマル本当の年齢は何歳なのだ?」
「答えが後先で申し訳ございません。みんなの話では、私は今五歳だそうです。以前の記憶がありません。アルノー様にお会いする一か月程前に、青白い顔のまま倒れ気を失ったそうです。気が付いたら、老婆の顔になっていました。気を失っている間、私は神様と話している夢を見ていました。」
「どんな夢を見ていたのか聞かせてくれるかい?」
「はい、夢の中で何故か私は、神様と向かい合い立って居ました。すると神様は私に、治癒の魔法を授けよう、但しお前は老婆の顔で生きて行かねばならない。只し良いことをすれば若返るが、悪い事をすれば、直ぐに老婆の顔に戻ると言われました。そして気が付いた時、私は老婆の顔になっていたのです。」
「だが、私と出会った時は、老婆の顔では無かったが、四十歳位の娘、と言った所だった様だが?」
「はい、あの時一緒に居た仲間三人と腕が立つ別の仲間ボブとその兄ロロアが護衛についてくれ、貧民街の病人を治療して回ったので、かなり若返る事が出来ました。」
「そうだったのか。」
そしてそれ迄優しく話を聞いていた王太子殿下の表情が、その後厳しくなった。
「アマル、今から重要な話をするけどいいかい?」
「はい、私で理解できる事でしたら、大丈夫です。」
「今、アマルが持っている治癒魔法の力は、我々の世界では光の魔法と呼ばれ、その魔法が使える者は「聖女」と呼ばれて居るんだ。私が知る限り、この国にはイヤこの世界でアマル以外にその力を持った者は居ないと思う。その力欲しさによからぬ事を考える輩がアマルを狙うだろう。勿論アマルのしたい事や、希望はオステオ卿から聞いた。邪魔をするつもりは無いが、一つ提案したいのだ。私の父親である国王の庇護下に入っては貰えないだろうか? 良いかな?」
「恐れ多いことですが、国王様の庇護下に入ったら、私の遣りたい事が出来なくなってしまうのではないでしょうか?」
「多少の不便は掛けるかも知れないが、言ったように、邪魔をするつもりは無い。それに国王はそのような方では無い。只、アマルを守る為には国王の庇護下に居てくれた方が、此方としては何かと動き易いのだが、ダメだろうか?」
「私のやりたいことを遣らせて貰えるのなら構いませんが……!?」
「それと、神父殿を治療したと聞いたが?」
「はい、どうかなさいましたか?」
「教会は異端者を嫌う、だが光の魔力を持ったアマルを、教会は囲い込みたがるだろう。 それ故一度国王に会っては貰えないだろうか?」
「お返事する前に、お話を一端変えて宜しいでしょうか?」
「構わないがどうしたんだい急に?」
「アルノー様、先日私が治療した後の御身体の様子はどうですか? お加減が悪くありませんか?」
「ああ…!? 大丈夫だ、タダあの時もそうだったのだが、胃が悪く薬を飲んでも、差し込みがたまに起こる。それだけだ。」
「では、今からもう一度治療をさせて頂いても宜しいでしょうか? それとそのお薬は今お持ちですか? もしお持ちでしたら見せて貰って宜しいでしょうか?」
「構わない。これだが、どうしたんだい?」
「ありがとうございます。」と受取った後、掌に魔力を通し薬に当てて見た。
「申し上げ難いのですが、アルノー様、今何か争いごとに巻き込まれていませか?」
「何故そんな事が、アマルにわかるんだい?」
「恐らく、アルノー様が今服用されている、このお薬には微量ですが、飲んではいけない物が含まれていると思われます。このまま飲み続ければお命の保証は在りません。」
「では、父上にも?」
「国王様にも、お命を危ぶまれるお心辺りがおありですか?」
「いや、まさかと思うのだが、父上が床に伏してしまっているんだ。」
「あんなにお元気だった国王様が病ですか?信じられない。」と、アンジェのお父様がびっくりされている。
「アマルに願いがある。父上を見て貰えぬ、だろうか?」
「構いませんが、まずは、アルノー様の治療を開始したいと思います。宜しいでしょうか?」
「ああ、頼む。」
アンジェのお父様にお部屋のご準備をお願いした所、この部屋に居る者は心配ない。と、仰られたので、この部屋で治療することになった。
「では、申し訳ございません。立って頂いて宜しいでしょうか?」
「これでいいのかい。」
「はい、では失礼致します。」と、身体中を確認したところ、先程から光って見えていた胸からお腹、足や腕の部分それとは別に背中側も薄ら光って見えた。
「それでは、まず背中部分の治療を行い、胸、お腹、腕、足部分を治療致します。宜しいでしょうか? 執事さんもう一度お願いいたします。」と、私の横に立った、アンジェのお父様の執事さんの御身体をお借りして治療する位置の説明を行った。
王太子様にはソファーに横になって頂き、背中から順に治療し、完了させた。
「お疲れさまでした。治療は完了です。完治していると思います。今後お薬の服用はお辞め下さい。」
「分かった。話を中段して申し訳ないが、父上の治療をお願いしてもいいだろうか?」
「はい、元はと言えば私が中断させたのですから、むしろ私の方がアルノー様にお詫びしなくてはならないのです。申し訳ございません。」
「構わない。では頼む。」と言いながら、アルノー様は天井に向かって、
「ドラン此方へ。」と声を掛けると、何処からか突然、男性が現れた。
「彼の名はドラン。私の護衛だ。アマル彼の事は心配しなくていいよ。これから度々会う事になるだろうから、覚えておいてくれ。」
「はい、分りました。」
「アマルには、これから王宮の私の父上の私室に向かって貰うが、アマルが王宮に直接入ると、色々詮索されるだろう。だから、王族しか知らない、秘密の通路を通って父上私室に直接入って貰った方が良いだろう。ドランに案内させる。ドラン、アマルの事は頼んだぞ。」
「承知いたしました。」とアルノー様にドランは返事をした後、わたしの方を向き、
「アマルフィ様、宜しくお願い致します」と頭を下げてくれた。私は慌ててしまい、
「アマルと呼んで下さい。此方こそ宜しくお願い致します。」とスカートの両端を持ち、挨拶を交わした。




