やりたい事
小さなノックと「入っていい?」とアンジェの声
「どうぞ、お入り下さい。」
「今日は本当にごめんなさいね。まさかお兄様達やその家族まで呼んでの晩餐になるとは思って居なかったから、気分を壊したんじゃないかと心配していたの。」
「大丈夫。少しビックリしたけど、皆さんが集まってくれて、本当に嬉しかった。所で、アンジェは私達が貧民街の孤児って、お父様達には言ってなの?」
「伝えているわ、今日集まったお兄様達家族もみんなも知っているわ。でもね、それ以上に私達家族、いやこの家にいるみんな、アマル達に感謝しても仕切れない位、感謝しているの。だからね、この家では、出自は気にしなくていいの。本当にありがとう。」
「それならいいのだけど。此方こそ、楽しい一日を本当にありがとう。」
「所でお父様の病気は何だったか聞いていい?」
「恐らく、腫瘍が身体中に回る病気かな…‼ 全て治療したから大丈夫だと思うけど、定期的に見せて貰った方が安心かも?」
「どれ位の定期で?」
「一年~二年位かな?」
「分かった、伝えて置くわ。 お母様は?」
「お母様の病はお父様の病気が原因。心配しすぎて心が病んだための病気。お父様の完治を聞いた時に、治療は要らない位には治っていたんじゃないかしら。」
「でも治療していたわよね。」
「そうね、身体の自立をコントロールする場所にストレスが溜まっていたから、それをほぐしてあげただけ。アンジェのご両親は心の底からお互いを、信頼し愛し合っているのね。羨ましいわ。」
「私の胸の違和感は分る。」
「アンジェのも多分お母様と一緒かな? ただ、アンジェの病気は、ご両親が病気になり、お二人の病気の心配と、この家の暗く淀んだ空気の重さに耐えかねたストレスが生んだ病気。でもこれだけ明るくなればもう大丈夫。アンジェの表情は孤児院で会った時とかなり違って明るく笑っているから。」
「そう? そうかなぁ。それだったらとても嬉しい。」
その後たわいない話を暫くした後、
「ごめんなさい。もうこんな時間。アマルはとても疲れているのに。ゆっくり休で。おやすみなさい。」とアンジェは慌てて部屋を出て行った。
その後ベッドに潜った私は……気が付いたら朝だった。
部屋をノックする音で目覚めると、侍女さんが、
「おはようございます。良くお休みになれましたか?」と部屋に入って来た。
「はい、ベッドに入ったところまでしか覚えていません。」と伝えると、
「それはようございました。では、もう暫くすると朝食の準備が整います。お支度をお願いいたします。」と笑顔で伝えてくれた。
その後ベッドから起き出し、用意された洋服に着替え、身支度を整えた頃、今度は侍従さんが、昨夜の様に迎えに来てくれた。みんなも同じように侍従さんの後ろに並んでいた。
食堂に入ると、アンジェのご両親、独身のアンジェのお兄さん達に、アンジェが席に着いており、私達はアンジェの隣に案内された。
みんなで朝の挨拶を交わし合い、朝食を食べた。
「ねぇ、失礼な事聞いていい?」とアンジェが小さな声で耳打ちしてきた。
「何…⁉」
「昨夜も思ったんだけど、アマルはテーブルマナーを何処で覚えたの?」
「ん~…⁉分からない。自然と出来ているみたい。」
「そうなのね。完璧に出来ていたから驚いちゃった。」と屈託なくアンジェは笑っていた。
食事の後は部屋に戻りみんな寛いでいると、アンジェのお父様が御呼びですと侍従さんが、私達を迎えに来た。彼に連れられ、執務室に向かうと、そこには、アンジェの両親にお兄様達と、アンジェと執事さんが揃っていた。
「突然呼び出して済まない。私達の病の事はアンジェに聞いた。これからの私の身体の定期診察もお願いしたいと思っている。が、頼めるだろうか?」
「分りました。お引き受けいたします。」
「ありがとう。これからも宜しく頼む。それと昨日の謝礼についてだが、アマル達は此れからどうしたい。」
「そう言えば、神父様からも同じ質問を受けていました。」
「何…‼、神父様からも聞かれていたのか。それでアマルは何と答えたのかな。」
「いえ、その時はまだ答えないままでした。」
「それでは答えが出るまで、この屋敷で暮らすのが良いだろう。」
「ありがとうございます。ただ、ご承知の通り、私達は貧民街の孤児です。私達がお世話になる事で、こちらの皆様に御迷惑をお掛けするのではないでしょうか?」
「アマル、君達は自分の立場を弁えてそう言って居るんだね。だが、君達は私達の恩人なんだ。それにこの屋敷に居る限り、不埒者に襲われる心配は要らないからね。そして本当に、そんな事は気にしなくていいんだよ。」
「ありがとうございます。では、暫くお世話になります。」
「ああ、そうしてくれ。それにアンジェも喜んでいるからね。」
「ありがとうございます。実は、私の中ではやりたい事はもう有るんです。が、只可能かどうか分からないので少し調べたいと思っ居る所なのです。」
「差支えなければ、聞いてもいいだろうか?」
「構いませんが、此れはあくまで私の理想で有って現実的では無いとしてお聴き下さい。」
「分かった。」
「貧民街の住人や低所得者向けの治療院を作りたいと思っています。支払いが出来る方は王都の病院に掛かればいいと思いま。が、支払いが出来ない方には病気を治すすべは有りません。その方々の為の治療院を準備したいと思っています。」
「そこは、貧民街の住人や低所得者しか利用できないのかい?」
「いえ、ご承知の通り貧民街の住人や低所得者の方々は、病気が治ればそれで安心。と、言う訳ではありません。明日、いや今日食べる物もない人達も多く栄養が足りていないのです。例え病気が良くなっても、またすぐに違う所が悪くなってしまいます。万が一でも貴族の方々や商人の方々の治療が叶った時には、多少でも過分なお支払いを頂き、その過分に頂いた金額を、貧民街の住人や低所得者達の食事に当てたいと思っています。」
「過分な支払いと言う事は、どれ位を予定しているの?」アンジェのお母様が聞いてくれた。
「どれだけの人が私を必要としてくれるか分かりませんが、金貨二枚頂ければやって行けるのではないかと思っています。高いでしょうか?」
「今の計画を実行するには、恐らくそれでは全然足りないと思いますよ。貴方の力は偉大です。貴方を潰そうとする不届きな輩もいるでしょう。警備の面でも費用が掛かるし、貴族や商人も相手に考えているのであれば、治療院の設備も整えなくてはなりません。ですので、支払いが出来る、貴族や商人からは、金貨十枚~百枚以上支払って貰ってもいいでしょう。 但しアマルの言う通り支払えない方からは、パン一個、拾ったお野菜一つでもいいと思いますよ。」
「食事の提供と言ったが、どうやってするつもりだい」
「市場で売れ残り、廃棄される食材を安く分けて頂き、炊き出しをしたいと思っています。勿論足りないと思うので、足りない分はふつうに購入します。お手伝い頂く方は貧民街の方に一日銀貨一枚と食事三食を付けてお願いできないか考えています。安すぎでしょうか?」
「いや恐らくもう二枚増やす考えでいたほうがいいかもしれないな。」
「分りました。そう致します。それとアンジェ、孤児院の方々にお手伝いお願いできないでしょうか?」
「多分、大丈夫とは思うけど、みんなの食事の準備は難しいと思うわよ。」
「彼女たちと私の仲間達には、炊き出しではなく、私の治療のお手伝いをお願いしたいの。」
「アマルの手伝い? 治療院の?」
「そう、それまでに読み書き算術を覚えて貰わないといけないんだけど。彼女達には色々喋ってはいけない事を見、聞きする事になると思うので、治療院で見、聞きした事は、治療院を辞めた後も絶対口外しない約束を、ギルドを通して正式な契約を交わして貰う事になるんだけど。」
「読み書き算術、それなら出来ると思うわ。それと契約も大丈夫と思うわよ。」
「報酬は一日金貨一枚を考えているけど。」
「そうね、最終的には神父様に聞いて見ないと分からないけど、恐らく大丈夫だと思うわ。」
「では、神父様に聞かれる時は私達も一緒に伺います。でもまだまだ先の事だけどね。」




