契約書
アルノーの真似をして、天井に向かって、
「シズルさん降りて来て下さい。」と言って見た。コンコンと音がしたので、もう一度呼んでみた。すると何処からか彼女が現れ、私の前に跪いていた。
「降りて来てくれてありがとうございます。立って貰えますか?」
立ち上がった彼女を見せて貰った。予想通り、手、足に怪我をしていた。
「今日は、私を守ってくれてありがとうございます。私の為に怪我をされたんですね。治させて貰ってもいいですか?」
「これは私の役目です。お気になさらないでください。」
「駄目です。私をこれからも、守って頂くためにも、怪我や病気はきちんと治しておかないと。ベッドに横になって下さい、治療します。」
「駄目です。アマル様がお休みになられるベッドが汚れてしまいます。」と、逃げられそうになったので、「では、ソファーなら横になって頂けますか?」
「宜しいのですか?」
「構いません。横になって下さい。」
「では、失礼します。」と、ソファーで横になって貰った。
その後、刃物傷が数カ所、打撲傷数か所、他内臓と、足と腕に筋肉疲労が見えたので、治療した。
「お疲れ様です。完治したと思います。如何か、気になる所はございませんか?」
「いえ、有りません。痛みも消えとても楽になりました。ありがとうございます。」
「所で、ドランは其処に居ますか?」
「今は居ません。先ほど迄の報告に王宮に向かいました。」
「怪我はしていませんでしたか?」
「大丈夫です。ドラン様に怪我をさせられる方はこの王国には居ないと思います。」
「そうですか。そんなにお強い方なのですね。私に付いて頂くには勿体ないお方ですね。」
「では、私は戻らせて頂きます。本当にありがとうございました。」と、言うといつの間にかシズルは消えていた。
その後、私はお風呂に入り、ゆっくり休んだ。
翌朝、侍女さんの部屋をノックする音で目が覚め、昨日同様皆で朝食を頂き、部屋に戻り寛いでいると、侍従さんが、ご主人様が御呼びです。と迎えに来てくれた。
侍従さんに連れられ、執務室に向かうと、其処には、国王様とアルノー様とオステオ様ご夫妻にアンジェが居た。
挨拶を交わしながら、国王様は私の表情を楽しそうに見ていた。
「そなた達の言う通り、アマルの顔が昨日見たよりさらに若くなっておる。」と、アルノー様とオステオ様に向かって楽しそうに語り掛けた後、少し真面目なお顔をされ、私に向かい、
「では、アマルフィに、一度確認して置きたい、アマルフィがその力をこの国の為に使ってくれる間は、我等が必ず其方を守ると誓おう。但し其方が我が国を害そうとその力を使い、老婆の顔に戻った時は、我等は其方をどんな手を使っても極刑に処す。又逆に、我等が其方の力を利用し、其方を裏切り害した場合は、其方が我が国を滅ぼしても構わない。と、フロード・パルル二十三世の名においてアマルフィと誓約書を交わそう。アマルフィそれで良いだろうか?」
「私の様な者とそのような契約書を交わしても宜しいのでしょうか?」
「ああ、構わない。其方の力と考えは、我が国にとっては重要なものだ。此れからも宜しく頼む。」
「ありがとうございます。では、契約書にサインをする前に、聞いて頂きたい事がございます。本来は皆様に最初にお伝えするべき事だったのですが、今になってしまい申し訳ございません。実は、私はこの世界の人間ではございません。恐らく異世界から転生したのだと思います。私が産まれたのは地球と言う星の日本と言う国で92歳まで生きました。老婆の顔は私が日本で生きて居た時の顔です。私は日本で死んで、この国の貧民街で五歳まで生きたアマルフィーとなって行き帰ったみたいなのです。アマルフィーの記憶は余りありませんが、92歳迄生きた前世の記憶はあります。ただ、日本で死んで、このアマルフィーの身体になるまでに神様と話し、治癒の力を頂いた事は事実です。こんな私でも良いのでしょうか?」
「漸く納得出来た。アマルの立ち居振る舞いや、テーブルマナー、それにその考えや思慮深さ、どう見たって五歳の子供が考える事じゃないものね。お父様もそう思うでしょう。」
「そうだな、顔を見ながら話すから、余り不思議に思わなかったが、流石にこの大事業は五歳の子供の考えではないな。」
「そうだとしたら尚更、このまま契約書を交わすのがいいだろう。改めてアマルフィー、貴方のその92年の知識をこの国の繁栄のために使って貰えないだろうか?」
「構いませんが、私は前世で経営者ではありましたが、学者では無かったので、何処までお力になれるかは分かりませんが、それで良ければ頑張らせて頂きます。」
「有難い。では、アルノーとオステオ卿、今の条件を追加して準備を頼んで良いだろうか?」
「畏まりました。準備して参ります。」
「父上暫くお待ちください。」と、お二人は部屋を出て行った。
その間、国王様とこの部屋に残った私達四人で話す事になった。
「契約書が出来るまでの間、暫く話すとしよう。昨夜は襲撃者に襲われたと聞いたが大事無かったか?」
「はい、ドラン様や、シズル様に守って頂きました。本日は、皆さまが揃われていたので、また何か有ったのではないかと思ってしまいました。」
「昨夜アルノーとオステオ卿から聞いた。アマルが光の魔法を使い病気を治すと若返る話を、俄かには信じられず儂の目で確かめに来たのだが、よく秘密を良く打ち明けてくれたな。感謝する。ありがとう。それと先日の毒入り薬の件と、襲撃者の件で参ったのだ。」
「そうだったのですね。」
「儂と、アルノーに毒入りの薬を飲ませたのは、第二王太子派閥のバロン・バッシュ卿であった。襲撃者も第二王子派だろうが、中々口を割らん。 もう少し待って居てくれ。」
「はい分かりました。」そう話していた時、お二人がギルドマスターを伴い、契約書を携え部屋に入って来た。国王様と私がそれぞれ内容を確認した後、「では、早速契約を交わそう。」と、国王様の言葉で、国王様、私とギルドマスターの前に同じ内容の契約書が三通置かれ、それぞれ皆が三通にサインをした。これで、無事国王様と私の契約が完了したのだ。
話しに行き違いが生じると行けないので、国王様と私とギルドで一通ずつ、保管する事になる。
「では無事契約も済んだ事だし、アマル治療院の話をしようか。」と国王様が言い出した。
「治療院はやはり貧民街がいいのかい?」とアルノー様が確認して来た。
「そうですね、対象者が貧民街の方と、一般の庶民の方が中心になるので、その方達が通い易い場所が条件です。只、商人の方々や貴族の方々も対象にしたいので、完全に貧民街の中でいいのか、少し迷っています。」
「そうですね、商人はともかく、貴族はプライドが高く世間体を気にするから、貧民街の中では少し難しいかもしれませんね。」と、アンジェのお母様が助言してくれた。
「往診はしないのか?」
「基本、診療時間内はしない予定です。只私は徒歩でしか動けないので、やはり往診は難しく成りますね。」
「分かった、では、貴族や商人で往診を希望する場合は、迎えの馬車を準備する。でいいね。 それと貴族と一般庶民の診察室は同じになるのかい?」
「いえ、貧民街の方々と庶民の方々は同じ待合室と診察室に、商人の方々と貴族の方々には、それぞれ、待合室と診察室を準備します。また、男性と女性で分けて準備したいと思っています。出来ればお互い、顔を合わせずに出入り出来るように作れれば良いのですが?」
「そうだな、その方が良いだろう。診療の順番はやはり貴族が優先されるのであろう?」
「いえ、申し訳ございません、どなたが優先されると言う診療は行いません。私が行う治療院は全ての方々を平等とさせて頂きます。但し緊急を要する方は別です。人々の命の重さに変わりは無いと思っています。」
「そうかもしれんな。命を無くして悲しむのは、貴族も平民も変わらんからな。むしろ貴族の方が、命を軽んじているのかもしれん。 分かったそれで良かろう。」
「ではみんな、順番に治療するんだね?」
「はい、治療院に入った順番に治療して参ります。」
「それは、アマルどういう風にしてわかる様にするの?」
「治療院の入口だけは一つにして、入口で番号札をお渡しし、それぞれのお部屋に入り待って頂きます。そして、その番号の順番に治療して行きます。そうすれば、どの番号まで、治療が進んでいるか分かるようになります。それと、入口と出口を別にして、出口でお支払いと、番号札の回収を行い、翌日もその番号札を使用します。」
「番号札の回収は、不正の防止と、無駄の防止なのか?」
「はいそうです。番号札は持って帰れば、次に来た時また利用できるのでトラブルになります、それと仰る通り、安い物でも同じ物を何回も作れば無駄になります。」
「そうだな。」




