新しい俳句創ったった
「おい、北村! 新しい俳句を作ったぞ」
「へぇ」
「へぇじゃねーよ。真面目に聞いてくれ」
「ふーん」
「五七五なんてもう古い。これからは七四三三の時代なんだ」
「七四三三!?」
「おっ? ようやく興味をそそられたようだな?」
「ど、どんなんだ? 諏訪よ……。七四三三て? 聞かせてくれ!」
「いいだろう。ついて来い!」
「ど、どこへ?」
諏訪は北村を連れて古い庭園にやって来た。そこには古池があった。そこにトノサマガエルが音を立てて飛び込んだ。
諏訪は、詠んだ。
「ふるいけやかわっ」
「ずとびこっ」
「むみずっ」
「のおとっ!」
北村は度肝を抜かれた。
なんて風流な句だろうと思った。感動していた。
もちろん諏訪のオリジナルでないことはわかっていたが、リズムを変えるだけでこれほど新鮮な味わいがあるとは意外過ぎた。正直五七五よりも風流だと思った。
しかも一連ごとに小さな「っ」を加え、最後にビックリマークがつくのが斬新だと思った。
「凄いよ、諏訪! 特に『四』のところの『ずとびこっ』が素晴らしい!」
「だろう?」
「他にも聞かせてくれ!」
「いいだろう。では、ついて来い」
「ど、どこへ?」
諏訪は関ヶ原に着いた。戦場跡を見渡しながら、すうっと息を吸い込むと、詠んだ。
「夏草やつわっ」
「ものどもっ」
「がゆめっ」
「のあとっ!」
北村は感動に打ち震えながら、諏訪を褒め称えた。
「凄いよ! やっぱり四のところがいい! 『ものどもっ』て、勇ましい!」
「だろぉ?」
「じゃ、自由律俳句はどうだ? ああいうのも七四三三にできるのか?」
「できるとも」
諏訪は樺太からロシア大陸を望む岬の上に立った。
そして、詠んだ。
「てふてふがだったんっ」
「かいきょうをっ」
「こえてっ」
「いったっ!」
北村は戦慄した。
ふつうに俳句みたいになっている!
これは俳句ではない、一行詩だったはずなのに!
作者の安西冬衛は、78年も前に、先んじて七四三三のリズムを発明していたというのか!
二人は国境不法侵入で捕まった。