(8)いきさつ 4
私は自分の顔の美しさというのは自分では評価できないが、客観的な事実としては、松井さんほど目鼻立ちがはっきりしてはいないが、うつつちゃんほど平板でもない、そのちょうど中間くらいではあると思う。
松井さんは誰が見ても美人であるが、顎や鼻が鋭角で攻撃的で冷たい、ややとげのある印象は否めない。
なのでそれに比べたら私の顔を松井さんのように「ちょうどよい」と評されれば、そうなのかなという思いはする。
「宗易は何度も秀吉から謝罪すれば許すと言われたのに、謝らなかったのよ。それは自分が切腹すればそれが秀吉に最大の屈辱を与えられるとわかっていたからよ。これは明らかに芸術家の気概よ。権力に執着するような政治家気質が5割もあったら、とっくに謝ってたわよ。あとあれよね?福田さんてもっといい成績も取ろうと思えば取れるんでしょ?」とうつつちゃんが言った。
先ほどの議論がみるくと再開している。新聞記事の議論をみるくとしながら私と松井さんの話しにも入ってきている。そして記事を書く手も止めていない。
トリプルタスク?もっとなのか?をこなしている。常軌を逸している。ほぼ宇宙人である。
「いや、それは本当にわからないわ」と私は言った。
これは謙遜ではなく本音である。取ろうと思えば取れると言って、実際取れなかったら、物笑いもいいところである。なので、ある程度の成績をとった後から、取ろうと思えば取れたと言えなければ(まあ私はそれでも、まさかこんな成績取れるとは思わなかったと絶対言うが)話にならないのはならないだろう。
「でも、そういうところよ。絶対出すぎないところ。おしとやかで品があって。そういうとこ含めてちょうどいいのよ」とこっちを見ずにうつつちゃんが言った。
「実際ユイナって成績はいい方じゃないわよね?それがまた絶妙な隙になっているのよ。うつつみたいに5ばっかの女子だと男子から見たら扱いにくそうじゃない?それに男子を見下してそうに見えるし」と松井さんが言ったら
「5は社会と国語だけよ。後、別に男子を見下してなんかいないわよ」とうつつちゃんがまたこっちを見ずに返答だけする。
「そう見えるって言ったのよ。じゃあ他はいくつよ?」松井さんが聞けば
「体育以外4だけど…」とうつつちゃんが言ったら
「ほら~!!」と松井さんが勢いで押し切ったらうつつちゃんが黙ったので、このやりとりはなんか松井さんが勝ったことになり、正直、私も途中から松井さんを応援していた。なぜかは自分でも分からないが…
参考図書
竹田青嗣著
「意味とエロス」「エロスの世界像」「自分を知るための哲学入門」「現象学入門」「ハイデガー入門」「現代思想の冒険」など
桑田忠親著
「千利休」
山本兼一著
「利休にたずねよ」