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6 第一回作戦会議

「はい、注目!」 



私はパンパンと手を鳴らし、大声で叫んだ。


「それでは、只今より、第一回作戦会議を始めたいと思います!」


わー、という冷やかすような声と共に、ペチペチと軽い拍手が聞こえる。


「はい。それでは、僭越ながら私シルヴィア・コンフォールが、司会進行を務めさせて頂きます。なお、今後は、プロデューサーとしてもやっていく所存でございますので、何卒よろしくご理解のほどをお願い致します」


「あはっ、シルヴィ、言い方が堅苦しい!」


「そうですよ、シルヴィア様! もっと肩の力を抜いてリラックスして下さい!」


アンリ様とジュール様が、軽い口調で言う。


「真面目なのはシルヴィアの美点だけれどね? もっと気楽にやってもいいんじゃないかな?」


アレックス様も、にっこりと微笑む。



ここは第三王子の執務室の隣の部屋。

普段、アレックス様が来客と会うときに応接室として使用する部屋だ。



「さて、今後の方針についてですが。先日お話しました通り、黒雲病の有効な治療法は『元気が出るような明るい曲調でノリの良いリズムの歌を、複数の人間が歌うのを聞くこと』です。ここまではよろしいですね?」


5人とも、うんうんと頷いている。


「なので我々は、慰問と称して国内の主要な都市で、歌と踊りのステージを行うことと致します」


幸いなことに、我が国の大規模な病院のほとんどは、その敷地内に緊急時の避難場所となるような大きな広場が併設されている。

その広場に仮設のステージを設置し、そこで歌を披露するのだ。



「アンリ様、病室の患者達に、皆様の歌声が届くような魔術を展開することは可能でしょうか?」


「もちろん。騒音にならないように音量を調節して、各病室に窓から音が入るような魔術式を組むよ」


「まあ! さすがアンリ様です!」


「ふふっ、そんなのお安い御用さ」


天才魔術師と言われるアンリ様がメンバーになってくれて本当に良かった。

彼がいれば、音響関係の課題は全てクリアできるだろう。



「そういったステージを、国中を廻って行います。この国中を回る慰問の旅を、今後は『ツアー』と呼ばせて頂きます。さて、このツアーですが、国内の主要な都市を廻るわけですから、少なくともひと月はかかることとなるでしょう。ですが、アレックス様とリヒター様は学院を休むわけには参りません。なので、夏季休暇を利用してのツアーとさせていただきます。皆様、よろしいでしょうか?」


そう言うと、5人とも快く頷いてくれた。

良かった、皆が協力的で。

夏休み返上で働けっていってるのと同じだから、嫌がる人もいるかと思っていたのだ。



「では、それに向けてのスケジュール調整を行わないと」


バルド様が銀縁眼鏡を持ち上げながら言った。


「そうですね。よろしければ、バルド様にお願いできますでしょうか? やはりこういった調整は、優秀な方でないと難しいでしょうから」


「ふん、いいだろう。それくらい容易いことだ」


「ありがとうございます! さすがバルド様ですね!」


『バルドは褒めれば何でもやるからね』というアレックス様のアドバイスに従って良かった。

今後もこの方法でいこう。



「ツアーに関する様々な事務手続きはバルド様にお任せするとして……旅の手配やステージ設営に関することなどは、ジュール様の商会にお願いしてもよろしいでしょうか?」


「喜んでお受けいたします。……それはさておき、シルヴィア様はどうして私のことだけ名前で呼んでくれないんです? 苗字で呼ぶなんて、水臭いではありませんか」


ジュール様が少し拗ねたような口調で言う。


「ええと、それは……実はですね、私のペットと同じ名前なので、紛らわしいからです」


「え? ペット? ペットの名前がアランなのですか?」


「はい、ちなみにアランはゴールデンハムスターです」


「ハムスター……」


ブハッと吹き出す音がした方を見ると、アレックス様がくの字になって笑っている。

まずい、早く話題を変えなければ。

アレックス様は笑い上戸だから、このままだと笑いが止まらなくなる。



「さて、それでは次の話題ですが。皆様には、歌とダンスを練習して頂きます」


「歌とダンスか……難しいな。歌いながら踊るなんて、やったことないからな」


バルド様が眉間に皺を寄せながら言う。


「いえ、歌いながら踊るのではありません」


「「「「「は?」」」」」


私がそう答えると、5人が一斉に疑問の声を上げた。

よし、とても良い揃いっぷりだ。今後のハモリが期待できる。



「え? だってシルヴィア、アイドルはダンスをしながら歌うって言ってたよね?」


アレックス様が、笑いの発作から自然回復してそう言った。


「はい。アイドルとはそういうものです」


「じゃあ、僕らもダンスしながら歌うんじゃないの?」


「いいえ。皆様には、歌を歌ってもらった後で、踊り披露して頂きます」


5人の頭の上にハテナマークが見える。

全員、何を言われているのか理解できていないようだ。



「いいですか。今回のツアーの目的はあくまでも『()()()()()()()()()()』なのですよ」


――そう、あくまでも()()()()()


「皆様には、美しい歌声を披露して頂かねばなりません。踊りながら歌うのでは、息が切れて歌がおろそかになってしまいます。よって、歌は歌、踊りは踊りで別々に披露して頂きます」


私がそう言うと、5人とも納得のいかない表情になった。



「なんですか? ご不満でも? 意見のある方は仰って下さいませ」


「ええと、それなら、歌だけでいいんじゃないかな? 踊りは必要ないんじゃ……」


アレックス様が、おずおずと手を上げて言った。


「いいえ、踊りもセットでないとダメなのです。歌のステージだけだと、神殿の司祭の儀式と被ってしまうでしょう? 神殿からどんな難癖をつけられ、ステージを妨害されるかわからないですよね?」



司祭以外の者が黒雲病を治せることは、神殿の威信にかかわる不都合なことだろう。

その結果、民からの寄進が減り、ひいては神殿の弱体化を引き起こしかねない。

そうでなくとも、神殿の連中はプライドが高いのだ。

司祭たちは、自分たちよりも人気のある歌い手など、許しがたいと思うかもしれない。



「だからこそ、『歌だけではないですよー、ついでにダンスも披露しちゃいます、美麗な俺たちを見て元気を出してね!』という建前で慰問を行うことが大事なのです。おわかりですか? あくまでもメインは歌! ダンスは神殿に対する隠れ蓑なのです!」


「じゃあ、ダンスは適当でいいんだな?」


「はあ? 聡明なバルド様ともあろうお方がなんと情けないことを! そんなはずないでしょう? 全力で老若男女の心を鷲掴みにするダンスを踊って頂きます。歌で黒雲病を癒し、踊りで民を元気づけるのです。()()()()()()()()()()()()()()()、それが今回の慰問の目的だと、神殿に強くアピールするのですから!」


そう、このツアーは、黒雲病を治すだけでなく、人々の心を元気づけることも目的の一つなのだ。

あくまでもメインは歌だが、踊りも全力でやってもらわないと!


「なので、皆様にはダンスを専門家の指導の元で練習して頂きます! 明日から毎日、お時間のある方はコンフォール公爵家で練習に励んで下さいませ!」



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