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3 魔術師長の三男 アンリ・ジェイド

そして次の日。

私はアレックス様、バルド様と共に、魔術師の塔にやってきた。



魔術師とは。

身に持つ魔力の属性――火、水、風、土など――を利用し、攻撃魔術、回復魔術、幻術など、多種多様な「魔術」を使いこなすことができる者のことを言う。


この世界の人間は誰でも、多かれ少なかれ「魔力」を持っている。

だが、全ての人間が「魔術」を使えるかというと、必ずしもそうではない。


「魔術」を使うことができるのは、「魔力の流れ」が見える者だけ。

そして、その中でも、身に持つ魔力にはっきりとした「属性の色」が付いているものだけに限られる。


ほとんどの人間の魔力には、属性の色が付いておらず、ぼんやりと白濁した(もや)のように見える。

だが、魔術師の魔力は、美しい色付きの光の粒子の集まりのように見えるのだ。

なので、魔術師は「色付き」と呼ばれることもある。


火属性の魔力は燃え上がる炎の色。水属性は、透き通った青や水色。風属性は鮮やかな黄緑色で、土属性は温かさを感じる大地の色。


いずれにせよ、その身に持つ魔力の美しさから、魔術師たちは「色付き」とも呼ばれ、多くの人々の尊敬と憬れを集める存在であった。


魔術師の塔では、魔術をより上手く使いこなすための訓練や、魔力を増幅させたり特殊な効果を生み出す魔術具などの研究が、日々行われている。


その塔の最高責任者である魔術師長の三男、アンリ・ジェイド様は、塔の一番上の部屋にいた。


アンリ・ジェイド様は、魔術師長であるジェイド伯爵の三男。現在16歳。

アンリ様は、一見すると儚げで可憐な美少年。

紅玉(ルビー)のような紅色の瞳が印象的で、白磁のような肌に、薄いピンクの前下がりボブの髪がよく映える。

小さいがふっくらとした唇は少し幼い印象を与えるが、猫のように気怠げな仕草で妙に色気がある。


普通の魔術師は、一つの属性しか持っていないものだが、彼はなんと全属性を持っているのだそうだ。

しかも、魔力の量が半端なく多い。

従って彼は、「魔術師の塔始まって以来の天才」と言われている。


彼の二人の兄もかなりの魔術の使い手だったが、アンリ様と比べると雲泥の差だ。

なので、アンリ様は兄達から才能を妬まれていて、兄弟仲は最悪なのだそうだ。



「なぁに? 三人揃って何の用?」


アンリ様は窓枠に座って、気怠そうにそう言った。

一方、私はというと。


「……お、お初に……お目に……かかります……シルヴィア……コンフォールと……申します」


塔のてっぺんまで、長い長い螺旋階段を必死に登ってきたので、息が切れてまともに喋れない。


横を見ると、アレックス様とバルド様が涼しい顔で立っている。

小声でバルド様が「俺は普段から鍛えてるからな」と呟いた。悔しい……!

アレックス様は「シルヴィアの足……生まれたての子鹿みたいで可愛い……クッ」と言いつつ震えている。

ちょっと! 笑いをこらえてるの、バレてますからね!



「コンフォール公爵令嬢だよね? ずいぶんと苦しそうだけど、大丈夫なの?」


「はい。……なんとか息が整ってきました。……アンリ様はすごいですね。毎日、こんな高いところまで階段を登っていらっしゃるだなんて」


「僕は自分に風魔術をかけて飛べるから。ここまではあっという間だよ」


くっ……魔術師め……! ズルいぞ! 羨ましい! 


「僕は高い所が好きなんだ。高い所から下界を見下ろすのは気持ちがいいからね。ほら、見てごらん、人がゴミのようだ」


あ、このセリフ、なんか前世で聞いたことある。


「で、一体何の用?」


私は、アレックス様とバルド様にしたのと同じ説明をした。

私に前世の記憶があることと、魔力の流れが目に見えることも、もちろん正直に伝えた。

そして、メンバーになって欲しいとお願いした。



「君も魔力が見えるのかい?」


アンリ様は、黒雲病のことなど全く興味が無いようで、メンバーになることなど全く聞いておらず、私が魔力の流れが見えるということに()()興味を示した。



「ねぇ、知ってる? 魔術師は、自分の子供も魔術師にするために、魔術師同士で結婚するんだ。魔術師同士で結婚して生まれてくる子供は、たいてい魔力の流れが見えるからね」


そうなんだ。それは知らなかった。

魔術師同士で結婚することが多いのは、そういう理由があったからなのか。

てっきり、職場恋愛がしやすい職種なのかと思っていたが、どうやら違う理由だったようだ。



「でも僕は魔術師が大嫌いだ。だから生涯結婚しないつもりだったけど、君とならしてもいいな」


「えっ!?」


「君はまだ小さいけど、すごく綺麗な顔をしてるから大人になったらさぞかし魅力的な女性になるだろうし」


「失礼な! 私は15歳、アンリ様とは一つ違いですよ!? もうデビュタントも済んでます!」


ブフォッと激しく吹き出す声が後ろから聞こえた。

何故か2人分。「レッサーパンダ……!」という声も。


「ちょっと! お二人とも! 失礼すぎますよ!」


私が振り返って怒鳴ると、アンリ様が楽しそうに笑い出した。


「君はくるくると表情が変わるから、見ていて楽しいね。そうだ、僕を楽しませてくれたお礼に、君の魔力の属性を見てあげるよ。手を出してごらん」


なんだか手相を見る人が言いそうな言葉だなと思いつつ手を差し出すと、アンリ様は指と指を絡ませて、所謂(いわゆる)「恋人つなぎ」をし、目を閉じた。


「君の属性は…………!」


閉じた目をカッと見開いたアンリ様は、私の方を呆然とした表情で見ながら言った。


「信じられない……君も全属性持ちなんだね」


「えっ!! 嘘!」


あまりに驚いて声が裏返ってしまった。

私は魔力の流れが見えるようにはなったが、その色まではわかからないのだ。

なので、自分の魔力の色がどうなっているかなんて、全く考えたことも無かった。


「僕以外にも全属性持ちの人間がいるなんて。ああ、信じられない……」


アンリ様はうっとりとした様子で呟いた。

そして、興奮したように頬を上気させ、私の手を両手で包むようにしながら言った。


「僕と結婚して、魔術師になってよ」


(あ、なんか似たようなセリフ聞いたことがある!……って、今はそんなこと考えてる場合じゃない! 急に結婚てどういうこと?)


「そこまでだよ、魔術師君」


アレックス様が、私とアンリ様の手を強引に引き剥がす。


「これ以上は許さないよ」

「ふふっ、これはこれは。王子様は狭量だね……」


アンリ様はそう言って、アレックス様と見つめ合った。

お互い笑顔なのに何とも言えない殺伐とした空気を感じるのは何故だろう。



「決めた。僕もグループに入る。だって、君のそばにいたいからね」


アンリ様が可愛らしく首を傾げながら、ウインクしつつそう言った。

すると、今までずっと黙っていたバルド様が突然口を開いた。


「そんな理由でグループに入るのは困るな」


「じゃあ、グレンヴィル卿はどんな理由で入っているの?」


「…………………………黒雲病から人々を救うためだ」


今、すごい間があったな!?



「ふぅん。じゃあ、僕も人々を救うために頑張るよ。ねぇ、シルヴィア嬢、僕もメンバーにしてくれるよね?」


「もちろんです、そのためにここに来たのですから!」


「ふふっ。じゃあ、これからよろしくね。そうだ、シルヴィって呼んでもいいかな?」


「はい、お好きなように呼んで下さいませ」


そう言うと、アンリ様は輝くような笑顔になった。



「黒雲病なんて面倒なものは早めに片付けて、僕と一緒に塔で色々と研究しようね」


そしてウインク。

わーお、あざといけど可愛い。

うん、さすが小悪魔系天然キャラ!


何はともあれ、これで三人目のメンバーも決まった。

ここまでは順調だったが、あとの二人はかなり手強い。

かなり気合を入れて行かないと。


でもまあ、とりあえず今はそんなことより、もっと気合が必要な問題が目の前に立ちはだかっている。

そう、またあの長い螺旋階段を降りなければならないのだ。


「あれ? シルヴィってばどうしたの? なんか凄い悲壮感が漂ってるけど」

「あのですね……」


私が何故こんなに絶望感たっぷりの表情になってるかを説明すると。


「なんだ、そんなことか。大丈夫、僕に任せてよ」

「え?……わわわわ!」


なんと、()()()アンリ様にお姫様抱っこされて塔から下ろして貰えた。

重量軽減の魔術と、風魔術の合わせ技で、あっという間に下まで降りることができた。

いや、本当に夢のように楽だった!!

ちょっとだけ、魔術師になるのも、案外良いかもしれないと思ってしまった。


その後しばらくして、アレックス様とバルド様が、文句を言いながら物凄く不機嫌な顔で降りてきた。


私だけ楽をして申し訳ないような気がしたが、まあ、人のことをレッサーパンダ呼ばわりしたバチが当たったのだと思って我慢して欲しい。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。


僕と◯◯して◯◯◯◯になってよ!



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