16 グループ名決定
「それでは皆様、引き続き会議を続行し、グループ名を決めたいと思います。何か良い案はございますでしょうか?」
そう問いかけてはみたものの。
部屋の中はシーンと静まり返っている。
「皆様、どうして黙ってらっしゃるのですか?」
おかしい。
いつもなら誰かしらふざけたことを言い出すのに。
どうして誰も何も言わないのだろう。
「アンリ様、何か良い案はございませんか?」
とりあえず、いつも真っ先に声をあげるアンリ様に話を振ってみる。
「……んー、特に思いつかないんだよね」
「では、ジュール様はいかがですか?」
「あー、俺もです。何も浮かばないんですよね」
なんてことだ。
ムードメーカー的な二人が黙り込んでしまうだなんて。
「で、では、バルド様はいかがですか?」
「すまない。俺も全く何も思い浮かばない」
おかしい。
いつもなら何かしら意見を言うバルド様まで!
「どうして皆さん、そんなに消極的なんですか!? 何でもいいから、意見を言って下さいませ!」
「シルヴィア、多分だけど、皆、本当に何も思い浮かばないんだと思うよ。僕もそうだから」
アレックス様までそんなことを。
でも、言われてみればたしかに、私自身も何も思い浮かばない。
「グループ名を決めるのがこんなに難しいとは…………とりあえす何でも良いので、思いついた言葉を挙げていきましょう!」
その後、それぞれが思いついたグループ名をいくつか挙げてみることになった。
一人に一枚ずつ紙を配り、最低一つずつグループ名の候補を書いてもらう。
「それでは、皆様に考えて頂いたグループ名の候補を読み上げて参ります。ええと、まずはアンリ様から『ゴミどもを癒し隊』……癒したいの『たい』を『隊』にしているのが工夫されていて素晴らしいですね。でもゴミどもというのはありえません」
「じゃあ、『愚民ども』でもいいよ」
「却下です」
「続いてバルド様。『第三王子と仲間達』 もしくは『アレックス&フレンズ』 二つも考えて頂いてありがとうございます。バルド様はアレックス様のお名前を強調する派なのですね」
「この計画が第三王子が主体となっていることをアピールしようと思ったのでな」
「深いお考えがあるのですね、素晴らしいです」
「お次はジュール様。『妖精姫と五人の騎士』 はい、却下です」
「えっ? どうして? すごく良くないですか?」
「妖精姫という言葉は永遠に封印だと申し上げましたよね?」
「えー。ぴったりなのにー」
「次にまた言ったら、ジュール様だけブーメランパンツもしくは全身タイツで踊って頂きます」
「ごめんなさい」
「さて、気を取り直しまして、お次はアレックス様の考えたグループ名ですね。『合唱&舞踊団』……無駄のない、ズバリそのままと言った感じの名前ですね」
「わかりやすいかと思って」
「仰る通りですが、少し素っ気なさすぎる感じがしますね」
「お次は『エルグランド音楽隊☆』 これはルカ様ですわね」
「アレックス様と同じく、わかりやすさを重視しました☆ イエーイ☆」
「イエーイ☆」
「マダム・ロシェは……『レインボー・カラーズ』」
「メンバーにイメージカラーがあるということをアピールしようと思いまして」
「素晴らしいです。グッズの購買意欲が高まりそうですね」
「最後は、マグダレーナとマリア。『禁断の扉を開く鍵』『セクシー・スターズ』 禁断の扉を開くのはちょっとまずいのでこれは却下ですね。それから、あまりセクシーさを強調すると、未成年がライブに参加しにくくなるので困ります」
「禁断の扉がだめなら『新しい世界を開く鍵』でもいいわよ」
「新しい世界を開くのもちょっと……」
「あらぁ、セクシー路線はだめなのぉ?」
「できたら万人にウケるような爽やか路線でお願いします」
色々な案が出てきたが、どれも今一つ決め手に欠けるというか、なんというか。
「これだ!」というインパクトのある名前が出てこない。
「うーん、どれもいまいちですわね……」
思わずそう呟くと、バルド様が眉間に皺を寄せながらこちらを睨んできた。
「だったらシルヴィア嬢も何か一つ考えてみてはどうだ」
「えっ?」
盲点だった。
たしかに、他人にばかり要求して、自分は何も言わないのでは申し訳ない。
どうしよう。何か男性アイドルグループにふさわしい名前はないだろうか。
慌てて考えを巡らすが、一向に良い案が出てこない。
そこで焦った私は思わず、目を開けたままで「会議に熱心に参加している風」を装っているリヒター様に声を掛けた。
「リヒター様! 起きて下さいませ! 何か良い案はございませんか?」
「良い、案……? グループ名……?」
リヒター様は視線を私に向け、ぼんやりとした口調でそう言った。
これは多分、熟睡していて話を聞いていなかったに違いない。
「そうです。我々のグループ名です。歌で黒雲病を癒し、踊りで人々を元気づける。暗闇で光を放つように人々の心を歌と踊りで明るくする。そんな風に、光り輝く未来のために集まった皆様に相応しい名前はないですか?」
「暗闇で光を放つ……」
リヒター様は、まだまだ眠そうではあったものの、真剣に考え始めたようだ。
「光り輝く未来………………ルミナス」
「え?」
「ルミナス、はどうでしょう」
ルミナス――Luminous。
「素敵です! リヒター様、なんて素敵な名前なんでしょう!」
今まで候補に上がったグループ名に比べて、ダントツでアイドルグループらしいものが出てきた!
興奮した私は、思わずリヒター様に駆け寄り、その両手をぎゅっと握りしめてしまった。
「シ、シルヴィア様!?」
「素晴らしいですわ、リヒター様! 簡潔で言いやすく覚えやすい、アイドルグループらしい名前ですわ! ああ、リヒター様! なんて素晴らしいんでしょう!」
「…………シルヴィア、落ち着いて。まずはその手を離そうか」
アレックス様が、私とリヒター様の間に慌てて割って入り、無理やり手を引き剥した。
おっと、いけない。
淑女たるもの、いきなり男性の手を掴むのはまずかったようだ。
「リヒター様、申し訳ありませんでした。……リヒター様、どうされました? お顔の色が悪いようですが……?」
「い、いえ。お気になさらず……」
リヒター様が何かに怯えるような様子だったので、視線の先を追ってみるが、笑顔のアレックス様が立っているだけだった。
一体、どういうことだろう。
「まあ、何はともあれ、これでグループ名は決まったようだね」
「はい! それでは皆様、グループ名は『ルミナス』でよろしいでしょうか?」
異議なし、という声が上がり、パチパチと大きな拍手が巻き起こる。
満場一致で『ルミナス』に決定だ。
「それでは皆様、二週間後の『ルミナス』初ライブに向けて、張り切ってまいりましょう!」




