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15 第二回作戦会議

「はい、注目!」 



私はパンパンと手を鳴らし、大声で叫んだ。



「それでは、只今より、第二回作戦会議を始めたいと思います!」


わー、という冷やかすような声と共に、ペチペチと軽い拍手が聞こえる。



「皆様が、歌とダンスの習得に惜しみなく時間と労力を費やしていらっしゃるご様子に、私は心より感銘を受けました。その真摯な努力は必ずや実を結び、多くの人々を救い、この国を再び活気づける希望の光となることでしょう!」


「あはっ、シルヴィってば。大げさだなあ、もう」

「シルヴィア様! リラックスリラックスー!」


アンリ様とジュール様が、軽い調子で言ってくる。いや、本当に軽いな!



今、私達がいるのはコンフォール公爵家(我が家)の応接室。


本日の会議は、マグダレーナとマリア、ルカ様、マダム・ロシェなど貴族ではない者も同席するため、王宮ではなく()()でやることにしたのだ。


「皆様はリラックスしていらっしゃるようで何よりです。さて、本日お集まり頂きましたのは、二週間後の初ライブに向けての説明をさせて頂くためです」


「初ライブだと!? 二週間後? 聞いてないぞ!?」


バルド様が驚いて席を立ちあがった。


「はい、今、初めて言いましたから」

「おい! せめてスケジュール調整を引き受けているこの俺にくらいは、先に言うべきじゃないのか!?」

「申し訳ありません。実は、昨夜急に決まったことなのです。そうですよね、アレックス様」

「そうなんだ。母上が急に我儘を言い出してね……皆には迷惑をかけることになって申し訳ない」


アレックス様がすまなさそうに言う。


そうなのだ。

可愛い末っ子が歌と踊りを披露するグループを結成したと聞きつけた王妃が、是非とも見てみたいと言い出したのだ。


アレックス様はその要望をのらりくらりと(かわ)していた。

だが、昨夜ついに王から直々に『王妃の願いを叶えてあげてくれないか? 親孝行だと思って! っていうか、私を助けると思って!』と頼まれてしまったらしい。

(叔父)王妃(叔母)に甘い。というか弱い。



「気にしないで下さい、アレックス様。どうせツアーに出る前に、一度くらいは王都でお披露目ライブをやる予定でしたから。丁度良い機会だと思いますよ」


そう。

どうせどこかのタイミングで()()()()お披露目ライブを開催する予定だったのだ。

まあ、王妃様の誕生日の夜会などという、大規模な夜会の余興というのはかなりの予定外だったが。



「皆様は常日頃から、女性たちにワーワーキャーキャー言われ慣れていますよね? それに、最終的には老若男女問わずたくさんの人々の前に立つことになるわけですからね。全く問題ないですよね!」


皆が緊張するといけないと思い、励ますようにそう言っては見たものの。


「人間なんて何人集まろうが同じだよ。皆等しくゴミだ」

「まあ、アンリ様! ご自分だって人間でしょうに。何を人外者みたいなこと言ってるんですか!」


「王宮の夜会か……両親や兄に見られるのはちょっと恥ずかしいような気もするが……」

「大丈夫ですよ、バルド様。最近、リズム感が無いのを克服しつつあるんですから!」


「………………」

「リヒター様! 起きて下さいませ!」


「まいったな……皆、俺に夢中になっちゃうかもしれない……」

「はいはい、その意気ですよジュール様」


「くっ……くくくっ……」

「アレックス様! もう、笑うのをお止め下さい!」



誰一人、緊張なんてしていやしない。

まあ、それはそれで良いのだが。




「それでですね、マグダレーナとマリアには、その時に披露するダンスの振付と構成を考えて欲しいのです」

「お安い御用よ。で、どんな感じの振付がいいのかしら?」

「マグダレーナ達が普段『深紅の薔薇(クリムゾン・ローズ)』でやっているようなものだとちょっと刺激が強すぎるので、もう少しマイルドな……未成年が見ても大丈夫な、爽やかな感じにして下さい」


マグダレーナとマリアが主催する、王都で大人気の舞踊団『深紅の薔薇(クリムゾン・ローズ)』は、メンバーが全て男性だ。

観客たちの多くは、彼らのセクシーかつ刺激的なダンスを目当てにやってくる。

特に人気なのは、終盤で披露されるブーメランパンツのような水着で激しく踊るダンスだ。


「そうよねぇ、あれはちょっと刺激が強過ぎちゃうかもしれないわねぇ」

「ちょっとどころではありませんよマリア。パンツ一丁で踊るだなんて、叔母様は大喜びでしょうけど、少なくとも叔父様は卒倒すると思います」

「ねえ、シルヴィア様の言う叔父様と叔母様って、王様と王妃様のことよね? 今更だけど、シルヴィア様って高貴な公爵令嬢なのよね。パンツなんて言葉を気軽に口にしてもいいの?」

「もちろんです! 今の私はただの公爵令嬢ではなく、プロデューサーなのです。パンツごときを口にするのを躊躇(ためら)うようでは、プロデューサーは務まりませんから」

「キャー、シルヴィア様、素敵! 男前だわぁ!」


当然だ。

男性アイドルグループをプロデュースする上で、私が恥じらっていては物事が前に進まない。



「では、振付はそのようにお願い致します。次に、歌の方ですが。ルカ様、今からオリジナルの曲を作って頂くことは可能でしょうか? 王妃様の誕生日の夜会は二週間後なのですが……」


欲を言えば、練習する時間が一週間は欲しい。

無理ならせめて5日間は欲しいところなのだが。


「三日もあれば大丈夫ですよー☆」

「本当ですか!? さすがは王都で大人気の吟遊詩人ルカ様!」

「お任せくださーい☆ ところで、どんな曲がいいとかリクエストはありますかー?」

「そうですね、できたら、爽やかで思わず一緒に口ずさみたくなるような、元気がでるような曲をお願いします!」

「はーい、了解でーす☆ 頑張って作っちゃいますねー☆ イエーイ☆」

「イエーイ☆」


よし。これで曲の方も大丈夫そうだ。


ダンス、曲ときたら、次は衣装。

私達の会話を黙って笑顔で聞いていたマダム・ロシェの目が、金縁眼鏡の奥できらりと光った。



「それでは、今現在お作りしている衣装とは別に、夜会用の服をお作りした方が良いですわね。予定していたお衣装だと、夜会に参加するには少々派手すぎますから」

「まあ! 良いのですか? マダムのお店は一年先まで予約が埋まっているほどの忙しさだと聞いておりますが……」

「王妃様の夜会で身に着けるお衣装を作らせて頂けるなど、大変光栄なことですもの。喜んで作らせて頂きます」

「ありがとうございます!」

「それでは、この後で皆様のご希望を伺いつつ、イメージカラーを随所に取り入れたデザインを考えてみますわね。シルヴィア様からは何かご要望はございますか?」

「いえ、イメージカラーを取り入れて頂ければあとは特に何も。強いて言うなら、踊りやすいデザインでお願いします」

「かしこまりました」


マダムの作る服は斬新なのに上品で、着ている者をより美しく見せると評判だ。

私が色々と注文を付けなくても、メンバーにぴったりな服を仕上げてくれるに違いない。



「歌もダンスもお衣装も、どんなものになるのか今から楽しみでなりません! メンバーの皆様! 二週間後のステージに向けてより一層の努力をお願い致します! それでは、今日のところはこの辺でお開きに致しましょう」


作戦会議はここまでにしようと、そう締めくくったその瞬間。


「あの、ちょっといいかな?」


アレックス様が手を挙げた。


「なんでしょう、アレックス様」

「実は母上に『グループ名は何て言うの?』と聞かれたんだ。そこで思ったんだけど、グループ名があってもいいんじゃないかな?」


グループ名……!!


確かに、それはむしろ一番最初に考えるべきものだったんじゃ……!

私としたことが、なんという迂闊なことを……!



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