ここまでがプロローグ
はい、無事男たちに誘拐された私だよ!
あの後男はがくがく震えながら了承してくれたので私は予定通り誘拐された。
あ、ママンが両親と再会しているところはしっかり確認したよ。
ママンのお父さんもおかあさんもママンの姿見て驚いてた。
まさか本当にいるとは思っていなかったみたい。
あとはママンのやせ細った姿にも驚いてたな。
そりゃそうか。ママンってどうやら未成年だったみたいで、働いたことがないっぽい。
だから元々あったお金とそのへんに転がっていた家具とかそういうのを金に換金してくれる店に売り払うことでお金を得ていたんだけど。
こんな場所にあるものの価値なんてたかが知れてるからご飯を食べれない日なんてザラにあったし
だから、芋とか食べれる草とか埋まってないか探してたんだけど。
因みにママンには流石に渡してないが実は私、虫とか食べたりしてた。飢えてる状態だと何でも美味しく感じられるって聞いたけどアレマジだと思う。
そんな状態で有り金全部は払って薬買おうとしてたんだからママンって優しいよね!
あのまま行ってたら2人仲良く餓死してた気もするけど!
まぁなにはともあれ、よかったよかった。
でも両親に抱きしめられてる時、ママンはなんかぼーっとしてたな。私の風邪移ったのかな?
あ、そうそう。私の風邪だけど、男たちに買ってもらった薬で超元気だよ。
今は荷台に乗ってどんぶらこ、どんぶらこ
あんまりいい乗り物じゃないから石畳の上を走るとガタガタしてお尻が痛いけどそこは我慢することにしよう。
それにしても……。
華法の世界だぁ!!!!
キラキラと目を輝かせながら私は荷台から身を乗り出す。
私の行動範囲は貧民街だったから、あんまり華法の世界観を味わえなかった。
でも今移動している場所は違う。辺り一面草原が広がっている。
その草原の奥には綺麗な白と薄いピンク色の家々が立ち並び、花が咲き乱れる町。その中央には美しいお城が立っている。
これはまさに華法のパッケージイラストの背景そのまんまだった。
この景色を背景にヒロインとレオが手を握り合って……。
「ふへへへへへ」
おっと、思わず頬が緩んでしまった。
あ、誘拐犯の人たちがぎょっとした顔してる。気にしないでいいからねー
本編開始したら城下町にある超有名な魔法学校に通う。そうなったら聖地巡りするんだ。とても楽しみだなぁ
なんて思っていたら荷台が止まる。
どうやら到着したらしい。
「ここ?」
「は、はい。ここです」
「そう。ありがとうございます」
ぴょんっと荷台から飛び降りればそこには一軒の大きな家
西洋とかにありそうな白いレンガ造りの家だ。
庭には木が植えてあり、花が咲いていて……とても手入れが行き届いている。
ビックリするくらい綺麗で立派な家だ……外観は。
もうお察しだろう。ここが主人公の売り払われる家だ。
若干時期は早いが問題はない。
「それではお兄さんたち。さようなら」
「は?」
私はくるりと身を翻し男たちの顔を見ながら。
すると男たちは鉄砲食らった鳩のような顔をする。なにその顔
「え、じょ、嬢ちゃんはこれからどうするんだよ」
「この家でお世話になります」
「は、はぁ!?いやここはフローラル家だぞ!?嬢ちゃんこの家の子じゃないだろ」
名家フローラル家は表向きは立派な名家だから、驚くのも無理はないか。
本来なら私みたいな小汚い子供、どう頑張っても取り合ってもらえないだろうし。
まぁ私はゲーム知識を持って普通に転がり込む気でしかないけど。
「ここの子じゃないですがやりようはありますから。それよりお兄さんたちは早く働きに行かれてはどうでしょう」
「え、は、働き?」
しっしと手をひらひらとさせて言えば男たちはまたきょとんとした顔をする。
それに対して私は首を傾げる。
「何を不思議そうな顔をしているのでしょうか?心を入れ替えるとお兄さんたちが言い出したんじゃないですか」
「え”」
「あ、いやあれは……」
「…まさか嘘だったんですか……?酷い、騙すなんてっ」
「ま、まてまて嬢ちゃん待ってくれ!!」
私は手を男たちに向けて嘆けば男たちは慌てる。手を向けたから魔法発動されると思ったらしい。私ヒロインだよ?脅しなんてするわけないのに!ただなんとなく手を翳してみただけで。
「いや俺たちは確かに心を入れ替えようと思っているんだぜ!?ただ、ほら!
俺たちこんなことやってたからよぉ!表の仕事しようとしたって雇用されにくいんだよ!」
「俺等、学もないしな」
「魔法もそんなにつよくねぇし…職業っつっても碌な仕事できる気しねぇし……」
しゅんっとした顔をする男たち。
この華法の世界、実は治安があんまりよくない。
魔法至上主義のこの世界において弱い魔法持ちや魔法をそもそも持っていない人間は見下される傾向にあるのだ。
そのうえ、一部では弱い魔法使いなど殺してしまえ!みたいな過激派集団までいる始末
この説明だけで、この世界がどれだけ魔法の弱いものへの当たりが強いのかよくわかるだろう。
まぁ逆に強い魔法使いなんて殺してしまえ!みたいな反逆組織もいて、主人公はその組織に殺される、なんていうバッドエンドもあるんだけど……まぁそれは追々話すとして。
そういう弱い魔法使いは代わりに学校などへ通い職や学を身に着けこの世界でも生きるすべを学ぶのだ。しかし学校に行くにも金がかかる。
前世みたいに義務教育という訳でもなければ支援がしっかりしているわけでもないから、魔法の弱い貧乏な家は職も学も手に入れることなく彼らのように犯罪の道に手を染めることが多いのだ。
とはいえ、だ。彼等の過去がどれだけ悲惨だろうが誘拐犯であることに変わりはないし
ゲーム本編の内容的に今までも色んな人達を売り払い、本編のママンにしたようなことも大量にしているだろうから同情する気はない。
ぶっちゃけ通報して牢屋に入ってもらってもいいくらいだ。
でも、まぁ
「大丈夫ですよ。お兄さんたちでも今すぐ入れる仕事がありますから」
ここまで運んできてもらったからね。
「こ、これって」
「はい」
私はにっこりとした笑顔で言う。
「騎士団です♡」
説明しよう!華法は鬱要素さえ除けば王道な乙女ゲーだ。
だからか、お決まりのように騎士団、というものが存在する。
その騎士団は剣を用いて戦うので魔法はそこまで強くなくて構わないし、命を懸けて戦うので給料はかなりいい。
更に攻略対象の一人がそこで騎士をやっているのだが、彼はもとゴロツキで物を盗んでその金で生活をする、ということをしていた。
そこを騎士団長に捕まり、そのまま騎士団に引き入れられていたのだ。
他にも騎士団にはもとゴロツキが多いのでぶっちゃけ後ろ暗いことをしていても入隊は出来る。
え?騎士団なのにそんなにゴロツキが多くていいのかって?
本入団するまでは訓練生扱いらしいけど、そこで性根を叩きなおされるのだ。
本編に攻略対象の騎士以外にもモブ騎士とか出てくるけどみんな滅茶苦茶真面目なんだよね。
ゴロツキだったなんて思えないくらい。礼儀正しいし。
それに騎士団長は頼れる大人って感じで、思わず「あにきぃ!!」って叫びたくなるような人だったらしいし。
まぁだから騎士団長さん率いる騎士団に入れておけば多分大丈夫でしょう。
犯罪を犯したなら牢屋で飯食ってないで死ぬ気で働け。
あ、因みに訓練生時代は金は出ない。ご飯は食べれるけど。まあ訓練生だからね。
あと一度入ると規則が厳しいのか中々外に出られないらしいから頑張ってもらって。
逃げてもいいけど、その時は騎士団に通報する。
記憶力はいいから。騎士にはお抱えの絵描きがいる、似顔絵作ってもらって指名手配とかできるよ。
こんな幼い子供の証言だからね。証拠なくても泣きながら訴えれば信じてもらえるだろうし。そもそも嘘は言っていない。
「それで、どうします?」
にっこり笑顔で聞いてやれば彼らは顔を真っ青にしながらトボトボと騎士団本部がある方面へと荷台を走らせていった。うんうん、素直なのはいいことだよ。
一先ずこれで騎士団にいく動機は出来たし、あの三人が正式入団すれば騎士団に伝手もできる。
どう頑張っても私は子供だから大人の手が必要となる。その時は彼らの手を借りよう。
一般市民の困りごとを助けるのが騎士の役目だしね。
さてと
「ん”ん……」
喉の調子を整えまして
「う”わぁぁぁぁぁぁああああああん」
ぼろぼろと涙を溢れさせてその場にべしゃりと座り込む。
白く5歳児にしては痩せた頬を透明な雫が何度も何度も滑り落ちる。
深い青の瞳が溶けてしまうんじゃないかというほど潤む。
子供特有の高い響く声が青い空に響き渡る。
そうして数分
がちゃりと荒々しい音と共に立派な扉が開かれた。
そこには険しい顔をした男
この家、フローラル家の召使だ。誰かは知らん。ゲームじゃフローラル家の人間は一人を除いてビジュも名前もなかったし。
彼は眉間に皺を寄せ私の元へずかずかと大股で歩み寄って来る。
「捨て子か?ちっ、誰かがこんな場所に捨てやがったな……厄介なことを」
イライラとしたように男は続ける。
吐き捨てるように告げて男は私を抱え上げ、屋敷の門の前から退かすとそのまま適当な場所に放り投げた。
べしゃりと地面に落とされた瞬間、私は
「い、いたぃよぉ」
ボロボロと泣きながら、自身の体に回復魔法を使った。
淡い光が手から溢れ眩く輝く。
そうして光が収まったところで私は顔を上げる。
そこには目を見開いた男の姿
よし、かかった。
私は内心ほくそ笑んだ。
この家に転がり込む方法は至って簡単
目の前で光魔法を見せるだけでいい。
前も言った通りこの家は今優秀な魔法を扱える跡継ぎを他所から購入してでも欲しがっている。
しかしこの家、金銭面でも少々苦しい状況にある。
跡継ぎは欲しいが購入するとなると金は減るし、誰かに知られでもすれば一気に名家としての評判が地に落ちる。
彼等は悩んでいるはずだ。どうするべきか。
そんな矢先、身寄りのない光魔法を扱える子供が現れたとしたら?
「……大丈夫かい?お嬢ちゃん」
当然欲しがるに決まっている。
「う、うん……」
涙を浮かべながら頷けば先程の態度とは一転し男は「そうかそうか、痛かったね」と言いながら私を抱き上げた。痛いのはアンタが投げたせいだけどな。
「お父さんとお母さんは?」
「いないの……ずっとここまであるいてて…それでおなかがすいて……」
ぽろぽろと泣きながら言えば男は「そうかそうか。つらかったね。よければ食事を食べていかないかい?」と聞いてくるのでここは笑顔で頷く。
「これを期に旦那様に交渉して……」
おいこら、私を抱き上げながらアクドイこと企むな。
そうして屋敷の中に入る。
おお!すっご!ゲームで見た館内だ!
薔薇の模様が掛かれたクリーム色の壁紙
つるつる艶々の床、真っ赤なカーペットが敷いてあり、その先にはゲームやアニメで見そうな長い階段
その他、植物や動物の絵がかけられてあったり、青い花瓶などオシャレなものも数多く置いてあって上品な印象だ。
そうして次の部屋は
うん。知ってた。
一気に質素な部屋になった。
普通の木の机に無地の皿やコップが入った普通の棚
私の住んでいたぼろ屋に比べたら百倍裕福な家だけど、先程の玄関口と比べたら質素という印象しか受けない。
この家、ゴージャスにしてるのはあそこの玄関口とお客様を通す部屋とその廊下くらいだからね。
私は椅子に座らせてもらう。
そして美味しい食事を……ってパン一個かい。まぁ有り難くいただきますけど。
がぶがぶと固くて冷たいパンを齧る。
うーん。パンだな。うん。パンだ。バターを塗って食べたくなるタイプのパンだ。
もっきゅもっきゅと齧っていると、部屋に中年くらいの男が入って来る。
七三分けにしっかりと整えられた栗色の髪にちょっと良そうなピシッとした服を着たスラリと長い足の高身長な男。ビジュは見たことないが、恐らく彼がこの家の主だ。
その後ろには煌びやかなピンクのドレスに身を包んだ金髪の女。奥さんだろう。その斜め後ろには先ほどの召使の姿もあった。
険しい顔で彼等はこちらを見定めるようにじろじろと見てくる。
「この娘が本当に光の魔法を使ったのか?」
「はい。しかと見ました」
「汚らしいっ、みすぼらしいわ!!!
光魔法なんて到底持っているようには見えないわよ。今すぐ摘まみだした方がよろしいんじゃなくて?空気が悪く___」
「お前は黙っていろ」
「っ」
私をつまみ出せという女の言葉を一括して男は私の前にやって来る。
「魔法を使ってみろ」
そういって手を差し出した。
指先に目を剥ければ小さな傷が一つ。
場所と傷から推測するに紙で手でも切ったな。あれ地味に痛いよね。
私は光魔法しか使えない回復魔法を使う。
ふわりと淡い光が両手から溢れて指先の傷を回復させた。
「…………部屋に案内してやれ」
治った指先をマジマジと見つめたあと、男は召使に短く言い捨てると女と共に部屋を出ていった。
男の言葉に召使の男は「はい」と頷くと私を先程とは違い乱雑に抱き上げると、二階の部屋に雑に放り投げられ「ここに住んでいい。感謝しろ」とだけ言って扉を一方的に閉められてしまった。
誰も居ない室内にぽつんと座り込んだ私。
「いや説明しろよ!!!!」
思わず叫んだ。仕方ない。これは仕方ない。
いや、えぇ?普通ちょっとは説明するものじゃないの?なにあの一方的な感じ
てか私ここに住むって了承してないよ。感謝しろって上から目線すぎか。
普通にこれ誘拐だから。いやまぁ私はその気でここに来たからいいけど、でも私が転生幼女じゃなかったら犯罪だしギャン泣き確定案件だからな!?!?
人身売買平気でするうえに、幼女に鬼畜教育施すだけあるわ。やべぇは常識がねぇ……。
ま、まぁうん。計画通りだから。一旦は呑み込もう。
すっと立ち上がり室内をぐるりと見回す。
人一人寝れる程度のベッドとサイドテーブルが一つ。あと魔導書が大量に入った本棚
ベッドの傍には窓がある。
「…わぁ!」
試しに近寄ってみれば先程荷台で見た景色が広がっていた。
いや、あっちより視線が上がっている分あっちよりずっと綺麗に見える。
その景色を見たからか自然と先程まで下がっていた口角が上がり、同様に気分も紅潮していく。
「いいじゃん、いいじゃんっ!」
魔導書が並ぶ本棚、気分転換に丁度いい綺麗な景色。小さいがふかふかしてそうなベッド
主人公にとってはこの家の全てが嫌悪の対象だったのだろう。
主人公は魔法の才がありながらも本編開始時点では魔法をたったの三つしか覚えることが出来なかった。それはこの家に対する彼女なりの抵抗だったのかもしれない。
まぁプレイヤーによって強力な魔法使いに仕立て上げられ、大嫌いなこの家に貢献することになってしまうのだが。
だが今は私だ。
主人公が魔法を覚えないことでこの家に抵抗するなら、逆に私は魔法を覚えるという形でこの家に抵抗してやろう……別にこの家に恨みとかないけど。
「さ、頑張るぞ~!」
こうして私の本格的な鬱を蹴散らす生活は幕を開けた。
異世界系ってこんな感じでいいのか……?
そんなに多くはないけど、一応異世界系ジャンル読んでたのにいざ書いてみるとあってるのかわからなくなる。
というかざっそーが普段書いている小説がダーク寄りというか鬱系だからか、自然とストーリーがそっちに寄っている……?
いやそんなわけない!ざっそーはちゃんとハッピーエンド目指してるんだから!うん!大丈夫さ!自分を信じるのよざっそー!!!




