美少年の笑顔は無敵
ふぅ、即興でやってみたけど思ったよりいい感じだったんじゃね?
当主の部屋を出て私は肺に溜まっていた息を吐き出す。
いやぁ、それにしてもまさか殴って来るとは思ってなかった。
そりゃ、店で爆弾発言するようにちょっと誘導したところはあったけど、あれはあの人がお金を取り込もうとするからであって、正直ノアを外へ連れて行きたい理由に使う気はなかったし、当主にチクる気もなかった。
でも顔面殴られて、腹まで蹴られてさ、背中ごすごす蹴られてしまえば流石に温厚な私もプッチンしちゃうよね。
「隠すならしっかり隠し通さないと」
ふわんっと私の手のひらが淡く光る。
回復魔法。だがこれは傷の回復だけではなく状態異常も回復する魔法だ。
どうせあの男のことだし、私が当主の部屋に行きたいと言えば焦って最後に何度も何度も蹴ったであろう背中は絶対に確認するだろうから、背中と、あとお腹の痣は治して、一番最初に殴られた頬に関しては治すふりをした。
あの時治したのは痣ではなく疲労感だ。まぁ結局魔法使ってるから疲労は回復してないけど。
魔法を使う際に出る光で痣を視認さないようにして、治したフリをする。
そしてすぐに俯き長い髪で顔を隠し、男の右側を歩くことで右頬を視界に入れさせないように動いた。
あの男が用心深く、しっかりと治っているのかどうかを確認するような人間ならすぐに気づかれていただろうが、そもそも用心深い人間はあんな外で突然殴りかかってきたりしないわな。
で、問題のノアに関してだけど………。
あの感じを見るに許可は下りそうだ。奥さんのほうは納得してないみたいだけど、この家の決定権は当主にあるからね。
子供であるが故の有用さも教えたし、どうしてもこの家の品格を保ちたい当主としては伝手を増やせる可能性というのは欲しいはずだ。
それに私がこの”家”に心酔している、というイメージも植え付けられただろうし。
うん。家ね。あくまで家。当主?心酔する奴いるの?ああ、ノアくらいじゃない??心酔とはちょっと違う気もするけど。あと奥さん。
はー、素晴らしい家族愛。うん、もう家族三人勝手に執着しててくれ私はこの家を使ってレオと結婚するから。
今回のお出かけは散々な結果だったけど、いつかレオとデートするための前払いだと思えば安いもんだ。
待っててねレオ!私がんばるからっ!!!
「ふふふふふ……へへへへへ」
おっと、乙女にあるまじき顔しちゃったよ…。
だめだめ。いくら私がヒロインで美少女だからってこんな顔………ちゃんと引き締めないと。
「ただいま戻りました」
表情を取り繕ってから、がちゃりと自室の扉を開く。
「おかえりなさいま___」
中には掃除を終えたらしいノアがいつも通り出迎えてくれた。
わぁ空気がクリアだ~
窓が開かれているからか爽やかな空気が流れていて、気持ちまでクリーンになってくる。
うん、自然の空気っていいよね。
辺りを見回せばピカピカになった家具や床、壁
うーん。ゲームでも思ってたけど、一々律儀なんだよねノアって。
嫌いな相手なんだし、多少サボったってバレないはずなのに、しっかり仕事こなしていつも笑顔で出迎えてくれるし。
まぁだからこそ、ラスボスだと判明した時の衝撃が凄かったんだけど。
「いつもありがとうございます。ノア君」
まぁ、いくら未来のラスボスとはいえ
今彼が何を思いこんなに部屋を綺麗にしてくれているのかは知らないし、私を油断させ絶望させるための布石の可能性だって否めないが、それでも掃除をしてくれたのは事実なので素直にお礼を言う。
お礼って言われたらちょっと嬉しいよね。少なくとも悪い気はしないから私は人に何かしてもらったらちゃんという言うようにしている。
それにしても相変わらず返事がない。
敵意を向けられてないからいいけど………やっぱり仲良くなるのは難しいか。高望みは身を亡ぼすからね。仕方ない仕方ない。
とはいえどうしよう………。
ウィッグ、名案だって思って買っちゃったけど……受け取ってくれるかな。
嫌いな相手から貰うプレゼントって考えてみれば結構複雑だよね。
当主に頼んで渡してもらおうかな。お父さんからの初のプレゼントがウィッグってかなり嫌だけど、でも関心を向けてほしいノアなら喜ぶんじゃないだろうか____
「あの」
「へ?わぁッ!?うぐっ!!!」
「え、ちょっ」
声を掛けられて振り向く。
至近距離に顔面
吃驚する
足を滑らせる。
頭をベッドの角でぶつける。
結論。超痛い
「~~~っ」
頭を押さえて床をゴロゴロと転げまわる。
いやい”った!?めっちゃ痛い。え、痛い!!!
涙目になってプルプル震えていると誰かに抱き起された。
「すみません、驚かせて。大丈夫ですか」
誰かというのは当然ノアだ。
いつも通りの無表情だが、すこし心配そうな表情………な気がする。いやわかんねぇや。
「う、うん。大丈夫、です…」
痛みも引いてきたので返事をすればノアは「そうですか」と私から離れる。
私はよじよじベッドに座った。
「それで……えーっと、なんですか?」
「え?」
「あ、いや、話しかけてきたので。何かあるのかなと」
そう聞けばノアは暫くじっと私の顔を見つめた後
「頬が」
ぼそっと呟く。
「頬?」
「痣」
「…あー」
ノアが何を言いたいのかわかった。私の右頬のことだ。
治すのすっかり忘れていた。顔は大事だよね。ちゃんと治しておかないと。
指で頬をなぞればふわりと光が溢れて痣が消える。
「……何かあったんですか?」
この痣がどうしてできたのか気になるのだろう。
「少し人と揉めただけですよ」
「そうですか。ところでそれは?」
「え?」
ノアが何処かを指さした。
その指を辿って視線を下げる。さしている場所は私の足元で………。
「あ」
それは私が彼に渡そうと思っていたウィッグだった。
あ、勿論梱包されているやつだ。
ただ、包みが透明なので中身が丸見えだが。
その近くにはこれを入れていた袋が転がっていた。
先程転んだ時に袋を落とし、その弾みで中身が飛び出してしまったのだろう。
これは、当主に渡してもらっても私が勝ってきたものだってバレるやつだ。
「……あー、えっと…」
と、なれば仕方ない。作戦変更
私はウィッグの入った袋を持ち上げる。そうしてベッドから降りてノアの前までやって来るとそれを差し出す。
「ノアくんにあげようと思いまして………」
「……え?」
あ、無表情が崩れた。
思っても見なかったのかきょとんとした顔でウィッグの入った袋を見つめている。
「僕に、ですか?」
「あ、はい。そうです………その、要らなかったらいいんですけど。
もしかしたらノア君、外に出ることがあるかもしれないので、心置きなく外に出られたらな、と……えと、迷惑、かもしれないんですけどぉ………」
私はもごもごと口を動かしながらそれを渡す。
それを見つめて………。
『うわ、ウィッグプレゼントしてくるとかどういうセンスしているんですか?キモ、引きます』
う、うわぁぁぁぁぁ、こんなこと言われたらどうしよう!?
心の中で思われるだけならまだいいけど、面と向かって言われたら流石に心にダメージがくるって!!
こ、怖い。顔が見れない。
ドンびいた顔されてたらどうしよう。
「あの」
「は、はい!?」
びくっと肩が跳ねる。
なに、なにをいうの?!予想できなくて怖い!
「ありがとうございます」
「…………へ?」
聞こえてきた言葉に思わず顔を上げる。
するとそこには無表情から一転し、少し微笑を浮かべてウィッグの入った袋を抱きしめるノアの姿
お、おお?なんか好感触…………?
え、なに君そんなにウィッグもらえたのが嬉しかったの?
「僕のことを想ってわざわざ買ってきてくれたんですよね」
「え」
「ありがとうございます」
ぎゅうっと、包みに皺が寄るくらいに強くウィッグを抱きしめるノア
「………………」
な、なんでしょう。この胸に広がるモヤモヤは。
いや間違ってはないんだ。ノアの言ってること間違ってはないんだけど。
なんかすっごい罪悪感があるッ!!!!
あれか?やっぱ純度か?純度なのか!?
ノアが純度百パーセントで喜んでいるのに対し、私は不純度百二十パーセントでウィッグ送っちゃったからそれがこの罪悪感の正体なのか!?
「あ、あはは…………喜んでもらえたなら、うれしいです。はい」
「……はい」
なんかすっごいふわふわした雰囲気が展開されてるよぉ!
お花、お花が舞ってる!!
いや、いやでも冷静になるのよ私!ゲームでもこんなシーンあった!!
誕生日が来た時にプレゼントを贈れるけど、その時もこんな風に喜んでた!けど実は主人公のことが死ぬほど大嫌いだった!
そう、これはきっと演技で____
「……」
いや無理ッ!この笑顔で疑うとかできないって!仮に騙されてるとしてももう騙されてもいいやって思えるくらい嬉しそうなんだもんっ!!
「………いつか、外に出かけましょう」
「はいっ」
くそぉ、らすぼすのくせにぃぃ
すごいラフに話し作って何も考えずに投稿しているざっそーです。
見切り発車な上、思いついた話を適当に繋げて書いているのでネームてきなのが無い!
だから正直矛盾とか多そうだな、って書いてて思います。
まぁ気分転換に書いてるだけだから!ラフでいいんだよね!うんうん!




