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1.主人公は悪役令嬢がお好き。

ふと思いついた話を何となく形にしてみました。

息抜きがてら書いていきたいと思います。

ーーー彼女が、死んだ。


「お姉さま···」

「君を害そうとしたんだ。仕方がないことだったんだよ、リネット」

「でも、私お姉さまに何もされてないわ!なんで、なんで···」

「君はあの女に魅了魔法をかけられていたんだ。その気持ちも作られたものなんだ」

「嘘···嘘よ!私、魅了魔法なんて、かけられてないわ!お姉さま···リディアお姉さまぁ!」

リネットは、今にも首を切られそうになっている、腹違いの姉であるリディアに必死に手を伸ばした。どこか淀んだ緑の瞳から涙を零しながらもがく彼女をエイデンは黙って受け止めながら、目を塞いだ。

リディアはそちらを見ようともせず、ただ虚ろな紅い瞳を自分を責める民衆に向け続けている。


「···本当に、この国はバカばかりなのね」


ーーーこの私の首を落とすだなんて。


その誰も拾えなかった言葉を呟いたのは、彼女の首が繋がっていた時だったのだろうか?それとも、落ちた後だったのだろうか。

無慈悲に刃が落ちて、彼女の首が落ちた時、憑き物が落ちたように魅了魔法が解け、リネットは『現実』を見ることができるようになった。

「···あ···」

「···リネット」

「エイデン、様」

「···やっと、君の本物の瞳の色が見れた。君の瞳の色は、こんなにも美しいエメラルドグリーンだったんだね。愛してるよ、リネット。いつまでもーーー」

こうして、リネット・ヘーデルバイツは本来の瞳の色を取り戻して。

エイデンと本当の意味で恋人になり、その才を惜しげもなく発揮し、王妃として王であるエイデンと国を支えて末永く幸せにくらした。

悪役令嬢であるリディア・ヘーデルバイツは首を断頭台で跳ねられて。彼女の首は晒し者になり、腐り果てるまで放置され、墓すら作られずに最後まで悪女だと罵られ死んでいった。

これが、腹違いの二人の物語。


「······」


「読んでいただき、ありがとうございました!次回からは番外編として、幸せになったリネットの姿をどんどん書いていきます?···いやいやいや。おかしいだろ。嘘だろ。そもそもリディア様は悪くないって。彼女はヘーデルバイツ家の正当な後継者じゃん!リネットは私生児じゃん!私生児がどうこうっていうよりも、これ1番悪いのはリディア様じゃなくてヘーデルバイツ家の父親じゃん!?なんでこの父親はこそこそ隠れて「悪かった、リネット」とか保身に走ってんだよぉ!俺の、俺のリディア様がぁあああ!!」

俺は思わず雄叫びを上げた。明らかにおかしい結末に、どうしても納得がいかなくて。

確かに彼女は悪役令嬢だった。我儘も沢山言ったし、悪いこともしたし、プライドも高かった。暴言も吐いたし側仕えの執事やメイドはほとんど毎回のごとく変わっていたし。そのせいか蛇蝎のごとく読者からは嫌われており、なんだったら毎回のようにコメント欄で「リディアのざまぁを楽しみに読んでます!」みたいなコメントだらけだったけれど。

「でも···こんな、酷いだろ···」

彼女は確かに悪い人だったのかもしれない。でも、作中での彼女は絶対に誰かを殺めたりしなかった。多少理不尽な事を言ったり、いやまぁ、折檻とかもあったけど理由を見る限りではあれは必要なものだったし。

でも自分の推しというのは不思議なもので、何をしても可愛く見えるというか天使というか女神というか。

「リディア様可愛いよリディア様」

とか同じ小説を読んでいる友人に言うと、「そんなに好きならイラストでもコメントでもなんでも書いて送ったらいいやん。リディアの可愛さは分からんが」と言われるのだ。

なんでこの可愛さが佐藤には分からないんだ!俺は同担拒否じゃないのに!確かに俺はイラスト部に入っているし、絵が書けないわけではないのだが、恥ずかしくて一度も送ったことがない。···こっそり小説に出てきたリディア様の姿を読みながら、想像してスケッチしたことはあるが。というか、「リディアザマァ」ばかり書いてあるコメント欄を開く勇気がないのもあったし、(好きな人の悪口は見たくなかった)なによりも作者の方に嫌がられないだろうかという気持ちがあったからだ。どう見ても女性向けの作品だし、男が読んでいるっていうのも気持ち悪がられたらどうしよう···という不安もあった。つまり俺は典型的なビビリなのである。


リディア・ヘーデルバイツ。


「魅了魔法にかけられた私生児の彼女は、王太子に溺愛される」というなんとも分かりやすいタイトルの作品に出てくる悪役令嬢の名前だ。

主人公であるリネット・ヘーデルバイツは私生児ではあるものの、大切にされていた。それを長年黙認していた彼女だったが、とあるオークションで得ることができなかった宝石が引き金となり、ついに彼女の我慢を打ち砕いた。リディア・ヘーデルバイツはメインヒロインのリネットに対して『魅了魔法』をかける。

理由は自分に心酔させてリネットを意のままに操るためであり、実際にリネットの瞳の色は魅了魔法をかけられたもの独自の色をしていた。目の色は本来の色よりもほんのり暗く、濁るのだという。

魅了魔法は魔法をかけた本人が死なないと永久に消えないという、酷く厄介な代物。そのことに気が付いたメインヒーローのエイデンがリネットを救い出すために、リディア様の罪を露見させ断頭台へと送った。これが大まかなストーリーだ。

リネットに魅了魔法をかけた、それは確かに悪いことだったかもしれない。しかし彼女はその魔法を使っているにも関わらず、決して理不尽な要求をしたわけではなかったと思うのだ。意のままに操れるにしてはやっていることが随分と優しかったというか、なんとなく違和感が残る話だった気がする。

「いや、どうみてもこれ主人公のリネットが悪いって···リディア様何も悪くないって···」


『···本当に、この国はバカばかりなのね』


この私の首を落とすだなんて。


「本当だよ!リディア様の首を落とすとかこの小説バカしかいないよ!!」

そんな作品はついに本日完結を迎え、読者お待ちかねのリディア様が死を迎えるというエンドを迎えたのだが。

「···やってられねぇ···リディア様が死んだとか信じない···俺は信じないぞ···」

俺は携帯をポイッとベッドに投げると、机に突っ伏した。開いたままのスケッチブックが目に入る。描かれているのは、全てリディア様のイラストだ。

と言っても別にこの小説は書籍化されているわけでも漫画化されているわけでもなく、普通の小説だ。なので挿絵があるわけでもなく、見た目に関しては文章から察することしかできない。

(···確か、送れるものにメールもあったっけ。今どきSNSじゃなくてメールなのも珍しいけど)

「······」

先程投げたスマホをもう一度取りにいき、どうにでもなれと思い1番綺麗にかけていると思われるイラストにコメントを書いて写真を撮る。

メールアドレスをコピーし、リディア様のファンです。最後までどうしても悪い人だとは思えませんでした、と書いてイラストを添付し、メールを送信した。


「···ついに送ってしまった」


まぁ、返事がくることもないだろう。ただのよくあるファンレターだ、おかしくなんてない。···はずだ。

「···もっかい最初から読み直そうかな」

もう一度最初から、リディア様の活躍を見るために。そして、この小説を読んでいる間に何度も感じた違和感の正体を探るために。

(作者がまだ何か隠していることがあるのかな?)

そんなことを思いながら、俺は再びスマホで小説を開いた。だが、読めば読むほどリディア様が死に近づいている気がして悲しくなってくる。この辺のプロローグなんて、1番ピンピンしてる頃なのに。

「···俺の推しがぁ···」

スマホを持ったまま、しくしくとまた男泣きしてしまう。なんで彼女は死んでしまったのだろうか。

意味もなくそんなことを考えて、俺はベッドに倒れ込んだのだった。

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