7話 仕事は素早く
翌日、小人……種族と言うのを聞いたらドワーフと言うので、今後はそう言うようにする。大工のドワーフ達がぞろぞろとやってきて、ギルド内の建物としての状態を確認し始める。こういう事に関しては専門家に任せて、細かい所を質問して、完成を詰めていくのが最善なので、昨日買っておいた物品のリストを改めて作ったうえで帳簿を作っていく。
「それにしても古い作りだ、所々痛んでいるから丸ごと直さないといけないところが多いな」
「具体的な個所と費用をリスト化してください、此方としては専門家としての意見を尊重します」
「そういう細かい書類仕事は性に合わねえな」
「大事な案件です、直したところ、費用はしっかり記録しておきたいのです」
手元のボードを見ていたので少しだけ下がっていた眼鏡を上げ直してからドワーフ達の仕事っぷりを眺める。本当ならば全て任せて他に必要なものを買い込みたいところだけど、一番大きく費用が掛かるものを片付けてから細々した物に手を付けたい。そもそも色々買い込んだところで、修繕が終わらないと中に入れることもままならない。
「早い所、手を入れたほうが良いんだろう?」
「そうですね、早く完成できるであれば、代金の上乗せも検討出来ます」
「ふむ……お前ら!店から材料と道具取って来い!」
そういうと他のドワーフ達がギルドから出ていって、道具と材料を運ぶために一度出ていく。ギルドに残ったのは私といつもの2人、そしてドワーフの棟梁であろう1人になる。
「正直言えば、このギルド一回叩き潰して建てた方良くねえか」
慣れない手つきで掛かる費用や修理箇所のリストを作っているのを見ながら、そんな言葉を投げかけられる。
「その方が良いのは理解しています。その場合掛かる時間が増えるので今回は遠慮します」
「すぐにでもギルドの運営をしたいって事か……今じゃ他にギルドもあるし、新しくギルドが増えても仕事はねえんじゃねえのか?」
「まだこちらの世界に来て二日目ですので、同業他社に関しては失念していました」
「まあ種類は多くねえよ、取り扱ってる人と仕事がそれぞれ違うからな」
「……では、どういうのが?」
そこから同業者が何種もあることを聞く。大きく言えば商業目的の物と、所謂冒険者と言われる傭兵のようなものを束ねるところ、後は此処から職業別に分かれていたりするのでさらに細かくなる。親会社と子会社のようなものだ。
「本当に苦労するのはこれからだろう」
「分かっています、ああ、そうだ……ローザリンデ、セバスチャン、私の服を買ってきてもらえますか、流石にこれだけなのは不潔ですし、不便です」
自前のパンツスーツ一着だけってのは良くない。私はしっかり綺麗好きだ。
「どういうものを買ってくれば良いですか?」
「普通の物で良いです、余計な装飾が付いてるものや動きにくい物は論外です、そのあたりはセバスチャンと話して選んできてください」
正直服に関してはあまり気にしないので動きやすく普通の物なら何でもいい、プライベートと仕事はしっかりと分ける。
「分かりました、爺いきましょう」
「はっ」
とりあえず必要な経費を渡したうえで2人を見送っていると、のしのしと材料と道具を抱えたドワーフ達が入れ替わりで入ってくる。
「よし、出来た……って読めないとか言ってたな、まあ一応説明はいるか」
「ええ、お願いします」
そして立ったまま、リストを二人で確認しつつ、修繕箇所、費用、日にち等などを説明してもらう。現代のように何日もかけてリフォーム……とはいかず、すぐに取り掛かり、ガンガンと壁やら階段を壊していくと、その場であっという間に新しい物に張り替えていく。
「数日掛かると、言っていましたが?」
「仕上げや片付け込みだ」
「なるほど、ならば早い段階で運営ができそうです」
「今後とも御贔屓に」
「ええ、恩は忘れません」
こんな風にてきぱきと仕事をこなせる人物ばかりだったら、どれだけ良かったことか。いつもいつも私が尻ぬぐいとスケジュール管理、進捗の確認……ああ、嫌な思い出ばかり。
「この調子じゃ夕方くらいには片付くだろうよ」
「私の世界ではもっと時間が掛かるものだったのですがね」
「やる事が分かってりゃこんなもんよ、一部だけ直すだけだしな」
そんな会話を続けつつ、指示を出しているのを横目で見る。現場を俯瞰で見れていて、的確な指示を飛ばしている手腕も見事。勿論それぞれのドワーフ達の手際も悪くない。
「良い人員ですね」
「そうだろ?何十年も大工をやってりゃこんなもんよ」
得意げなドワーフと共に作業を見守る。
本当なら、同時進行であれこれと用意するべきなのだが、同時進行できるほど付近の情報も、人も何もかも足りてない。だからこういう時は確実に一歩を踏んだ方が良い。
「……とんとん拍子と言えばとんとん拍子、まずいことが起きなければいいのですが」