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6話 吐露するには詰め込まれている

 あれから色々買いこんだ掃除道具や細々したものをギルドの広間の一角に置いてから、そのままギルドの中で比較的まともな部屋で一泊。とりあえず小汚いのだけは我慢できなかったので寝室だけは綺麗にした。


「……それにしてもどうしてここに来たのかが思い出せません」


 帰宅途中だというのは覚えているが、その辺りが詳しく思い出せない。

 衣服が汚れていることもなく、鞄もあるし、中身も特には問題ない。いつも使っている鞄の中身でもあるし、何かが壊れていたり欠落と言うのもない。散々使っていたスケジュール表もそのままで、タブレットとノートPCも問題なく起動する。つまるところ、よくある事故に合って此方の世界に飛んできた……と言う線は薄い気がする。まあ、どういう理由でこの世界に飛んできたのかが分からない時点で、現代で死んだのか生きたままなのかは、文字通り生死不明って事になる。


「いや、あまり考えていても仕方ないですね」


 鞄の中からA4のノートを取り出してページをめくる。途中までは色々と仕事の進歩だったり、連絡する、確認する、あれこれと予定を立てていた物が書き込まれている。そして最後に書いてあるページには、明日絶対に13時に連絡、14時から会議と書かれている。それを見て大きくため息を付き、1ページ目からその最後のページまでの部分をホッチキスで纏めて止めて、厚い1ページとする。


「私がいなくても会社は回るでしょう。新しい仕事に取り掛かるためにも心機一転頑張らないといけませんね」


 綴じた厚い1ページをめくり、空白の部分から今日の出来事、所謂日報を書き始める。今日起きたことをしっかり書き込み、今後に必要な事をリスト化、そしてA4の4分の3程でしゃっと線を引っ張って区切る。そこから下には今持っている資金、それと今日使った経費を書いていく。元手は50万、ギルド内の修繕に10万前後と提示したが、15万程は食らうと考える。残り35万、本日使った道具類で約2万、細かい物品の管理はまた別にやるとして、こっちの方はあくまでも経費の計算だけ使う。


「物品リストも別で作って……紙類は一応あるレベルのようですから、それも今後経費としてつかうとして……」


 ぶつくさと言いながらノートを書き進める。現代にいた時もこうして自分の口であれこれ言いながら書き込んでいたのを目撃されて引かれた事があったかな。頭の中で考えるよりはよっぽど良いのだが、あんまり理解されない癖のようだ。


「明日にはあの小人……ドワーフ、ホビットと呼ばれる種族とのことなので、手作業に関しては信頼できるでしょう」


 昔からあんな感じの種族は手先が器用と相場が決まっているはず。そもそも不器用な人が大工なんてやっているわけもなく、そのあたりは信用に値するはず。


「ギルドの改修をして、掃除、全部綺麗にしてから家具等の入れ替え、それが終わったら人を雇う……前に、業務の方針と内容を吟味して……それが出来たら宣伝をして……」


 改めてやる事を書いていく、あまり難しい事はないのだが、とにかく費用が掛かる。そしてそれに合わせて時間も掛かる。ギルドの運営だけ出来れば良いが、多分私自体も外回りの仕事をすることになると思う。


「そういえば力があるとか、言っていましたね……実感がないのでよくわかりませんが」


 手を握り開いたりしつつちょっとだけ確かめるが、特に変わった様子はない。誰かに暴力を振るうというのも、粗暴な態度を取るのも私としては勘弁願いたい。


「昼間のチンピラの様なのが多いのであれば……ギルド周辺の治安改善も視野に……いや、これは行き過ぎ……」


 やりたいこと、やらなきゃいけないことをあらかた書き出してから、また大きくため息を吐き出して。


「まずは1歩ずつ、確実に……帰れないのであれば、此処で覚悟を決めなければ……中途半端にやるのは合理的ではありません」


 愛用の万年筆を置いて、また一息。

 休憩をしていると不意に後ろから声を掛けられる。


「クレナ様?」

「遅いですよ、明日から忙しいので早く休んだほうが良いです」

「……こちらの都合でこんな事を巻き込んでしまい……」

「それ以上はやめてください、謝罪した所で意味はありません。そうして気を使うのであれば明日からの仕事に力を入れてもらえますか」


 見向きもせずにノートを閉じ、文房具やノートをきっちりと片付けてから鞄に入れる。


「冷たいと言われませんか?」

「普通の人付き合いでならそうでしょうね、そもそも私は『仕事』として此処にいます。馴れ合うため、友達になるためと訳が違います」

「徹底しすぎでは……?」

「あくまでもビジネスパートナーと言うだけです。結果としてあなたが王位継承できるかもしれないというのが付いているだけで」

「それでも、もう少し話を」

「いいえ、今日はもう疲れました、いきなり訳の分からない所に連れてこられて仕事をしたのですから」

「……はい、ごめんなさい」


 眼鏡を外し、枕元に置いてから大きめに一息。


「少し感情的になりました、おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい」


 部屋から出ていくローザリンデを見送ってから、蠟燭の火を消して横になる。あんなふうに嫌味を言う気はなかったが、あまりにも詰め込んだ日が過ぎた。少しばかり言い過ぎたと反省をしたうえでゆっくりと目を閉じる。

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