5話 何故絡んでくるのか
「道具類は十分でしょう、少々時間を食いましたが」
袋いっぱいに詰め込んだ掃除道具、それを手分けして背負いながら次の目的地へと進んでいく。その途中で時間はと思いスマートフォンを……取り出すわけにもいかないので暫く使っていなかったアナログ時計を取りだして確認、と、思っていたのだがそもそも時計と言う文化があるのかが分からないのに気が付く。こういうのは大体日の傾き具合で判断している……はず。
「自分の常識を変えなきゃいけないというのも面倒ですね」
「クレナ様、そろそろ大工の所に到着します」
「とんとん拍子で話が進めばいいのですがね」
大体こういうのは一見さんお断りだったり、職人気質の面倒な奴が相手ってのが相場だろう。現実でも結構面倒だったりするから、この辺は……金の力か。いや、金の問題じゃないという場合もあるから何とも言えない。ぽんぽんと自分の都合よく物事が進むと言う事はないのでこの辺りは地道な活動と交渉と言ったところか。
「それで大工は?」
「私が知っている最高が此処です」
「こういう所があるのですね」
こういう時に世間知らずと言うのは足を引っ張る。王族で第四って辺りでそこまで地位が高くないとは思ったが、自分が思っている以上に世間知らずなのだろう。
「とりあえず話を付けましょう」
そういって店の中に。中は簡単にテーブルと椅子、その奥では小人がのしのしと歩いて道具やらの手入れをしているのが見える。人はまばらに、結構出払っている……って訳でもなさそうだ。
「ん、なんだお前さんら」
「仕事の話をしに来ました、担当は誰が」
「ふむ、儂じゃが、どういう仕事か」
「ざっくりと言えば屋敷の修繕ですね、具体的な修繕箇所までは素人なのでそちらの判断に任せます」
「……あんた、召喚人か」
「そうですね、この世界の物ではありませんが……何か問題が?」
やけにずんぐりした小人が自分の顎を撫でながら少し考えている。と言うか、私以外にもこの異世界に飛ばされた人がいるのか。確かに言われてみれば後継者同士での争いで、ローザリンデだけが召喚を出来る訳ってのもおかしい話だ。昔からそう言う事があるというのなら、召喚人と呼ばれるのも納得ではある。
「非常識な奴が多いんだよ、なまじ力を持ってるから横柄だ」
「そうですか、では仕事の話を」
「話聞いてたのかてめえ……」
「ええ、聞いています、ですからこうして仕事の話をしようとしているのですが?」
別にふざけているわけでもないし、舐めている態度を取っているわけでもない。相手がプロだと思っているので感情抜きに仕事を頼みたいと思っているだけだ。
「……まあ、現物を見ねえとな」
「修繕の方法等細かい部分は全てお任せします、予算としては10万ゲルド前後だとこちらとしても助かります」
「だから、見てみねえと分からねえよ」
「では、なるべく早く確認を、日程はいつが良いでしょうか」
「……人の話聞かねえって良く言われないか、お前」
「回りくどい事は嫌いです、此方は金を払う、貴方は仕事をする、これ以外に必要な事が?」
そういうと顎鬚をわしゃわしゃと弄りながら考えた後、ぬっと手が差し出される。
「お前さんみたいな単純な奴、気に入らねえが仕事は受けてやる」
「商談成立です。書面を作りますので暫しお待ちを」
差し出された手をぐっと握り返すと、小人がにんまりと笑いかけてくる。人を気に入るか気に入らないかと言うのは、正直どうでもいい。それだけで信用するのははっきり言って博打が過ぎる。とにかくそんな事は良い、さらさらと紙に今回の仕事内容と報酬額を書いて、貰う。やはり自分でも文章を書けないと二度手間が過ぎる。どういうルールでこの世界に送られたのかあやふやなのが非常にストレスだ。
「これでよろしいですか」
「ふむ、いいでしょう……では、此方の所に名前を書いてもらえますか」
「あんた、よっぽど仕事が好きなんだな、此処まできっちりする奴はいねえぞ」
「お互いのためです、修繕に掛かる細かい費用や日程は確認後に詳しく相談で」
「きっちりしてんなあ……今日はもう遅いから明日の朝一で見に行ってやる、場所は?」
「セバスチャン場所を」
「はい、大通り沿いにある古いギルドは分かりますかな」
「あのボロ屋敷か、物好きな奴もいるもんだ」
くつくつと笑い、金が掛かるぞ、と言った感じの顔を向けてくるが、此方の予算は言っているし、何だったら書面に上限額も書いておいたから、何かあればこの書面を突きつけてやればいい。承諾した事を後で覆すなんてことをしたら商売にも影響が出るだろう。ただ、向こうが誠意をもって対応してくれれば何も問題ない。気前よく代金を払うと言っているのだし。
「では、明日よろしくお願いします。帰りますよ」
「はっ、わかりました」
そのまま小人に一礼し、退出。特にそこでは新しい問題も出ることもなく、これで少しは進展があったと思い一息つける、間もないくらいに待たせておいたローザリンデが何か騒いでいる。
「ああ、クレナ様、こいつらしつこくて……」
「良いから行きますよ、相手をするから反応するんです」
ナンパされていたローザリンデの手を取り絡んでる数人のチンピラから引き剥がしていつものように次の予定を考えながら歩き始めると前を塞がれる。
「連れないなあ、その荷物を持つのを手伝うって言ってるだけだろ?」
「不要です、それでは」
すぱっと断りさっさと行こうとするとまた前を塞がれる。こうまでしつこいのは逆に凄いともいえる。大きめにため息を吐き出してからちらりとセバスチャンとローザリンデの方を見て。
「どこに行ってもこう言うのがいるというのは世の中の常ですね」
「こっちの善意を組んでほしいんだけどなあ?」
チンピラは4人、前と後ろに2人いるが、こんな街中で堂々とこんな事できる神経は立派ではある。とは言え、私は腕っぷしに何かしら覚えがあるわけでもない、文武両道なんて言われそうだが思い切り文系だ。
「仕方がありませんね……こっちです」
もう一度大きくため息を吐き出して大工の店に2人を引き連れて中にそのままチンピラ共も頭に血が上ったのか中に入ってくる……程の度胸はないようで、悪態を付いて何処かに行く。
「……んだよ、なんか忘れもんか」
「チンピラに絡まれたもので、中に入る度胸まではなかったみたいです」
「賢い奴だ……ほれ、裏口から出ていきな」
そういわれてさっさと裏口から放り出される。なんともまあ、扱いの雑な事で。
「……召喚された方は総じて力が強いはずなのですが、何故手を出さなかったので?」
「今はまだ余計な波風を立てる必要はありません」
裏口から大通りの方に行きつつ、さっさとギルドの方に帰る。こんな調子で上手くいくのか分からなくなってきたよ。