4話 価格調査はしっかりと
「そういえば何故、新しく道具等を買い直すのですか?」
「管理がしやすいからです、何を何本買ったかをしっかり記録しておくことに意味があります」
道具屋にローザリンデと一緒に入り、あれこれと物色しつつ質問に答える。数量の管理と言うのは大事だ。何が無くて何があるのかを把握しやすい。ギルドの中に古い道具等もあるかもしれないが、どうせ使い物にはならないだろう。
「箒にバケツ、雑巾、はたき……そういえばインフラ調査をしていませんでしたね……これだから全て1から急にやるとなると不備が出る」
とりあえず水回りだけは確認、最重要とボードに乗せている紙に書き込み、道具屋に置いてある必要なものの値段と個数をメモしてから一息。
「あんた達、掃除道具ばっかりじゃなくて他のも買ってくれんか」
「まだ買うとは決めていません、この国に道具屋が一つしかないというのは考えられませんので」
他店比較までしてやるとなるとケチと思われそうだが仕方がない。予算が無尽蔵にあるわけでもなく、節約できるところは節約しなければならない。だから可能な限り品質は落とさず、値段の安い物を求める。現代でも電気屋回って値下げ交渉するというのもあるので、それと同じ感覚だ。
「いやいや、うちはこの国で一番の道具屋だぞ、品揃えも豊富で値段も良心的で……」
「だから此処で買えと?その謳い文句だけでは購入する決め手には欠けますね」
必要なものリストと見比べ、ローザリンデに聞いて値段を書き込んでからさっさと外に出る。そういえば普通に会話する分には通じるというのに読み書きはさっぱり分からないというのは想像以上にストレスで不便だと言う事も分かった。
「全く持って合理的ではないですね」
この世界のルールを押し付けられている感じが不快に感じる。
「セバスチャン、次の道具屋を」
「……そこまでしなければならないので?」
「私は非効率的な事も合理的ではないことも嫌いです、わざわざ説明をしてほしいと?」
「ええ、説明をお願いいたします」
セバスチャンの問いを、ローザリンデが聞き直してくる。仕方ないと大きめにため息を吐き出してから、次の道具屋に行く道中に答えを話していく。
「貴方たちが持っていた50万、これを元手にギルドの運営を再開していくのは分かっているでしょう?」
街の様子、活気や文明のレベルを自分で見聞きしながら、説明を続ける。
「50万全てをギルドにつぎ込んで、すぐに利益が出て黒字運営が出来ると思っているなら甘すぎですね」
案内はされているが、ぴんと背筋を伸ばし足早に歩いているのに付いてくるのを見れば、ローザリンデが王族なんて分からないだろう。
「ギルドが仕事の斡旋や仲介をするというのなら何よりも信用が大事になります。そしてその信用と言うのは少しずつ積み重ねていくものです。草木と同じように大切に育む物です」
斡旋仲介の仕事でなくても、誰かと関わる仕事をするのなら信用は切っても切れない。金を出せば一時の信用は得ようが、金の切れ目が縁の切れ目。あっという間に見向きもされなくなる。
「その信用を重ねる間、常に赤字経営をするというのを考えれば1ゲルドも無駄には出来ないと言う事です。無尽蔵に金を出せるというならさっさと必要なものを買いそろえて運営を再開しますが、どうせ資金と召喚するための方法でも押し付けられて放逐されたってのが相場でしょう」
そういえば二人とも黙ってしまい、次の道具屋に付くまでそのままだった。
「暫くはこんな事ばかり続くと覚悟してもらわないといけません。私を呼んだ責任もあり、運営を任されたという責任もあります。甘ったれた考えや覚悟でやっていけると思わない事です」
ドアを開けた時のベル音を聞きつつ値段と品質を確認する。