大量生産は得意分野です!1
「マリアンナちゃん、この前のポーション、すごく助かった。急にたくさん頼んだのに、ありがとう」
「あはは、たくさん作るのが取り柄なので。お役に立てたのなら良かったです!」
王都を出てひと月。
私は今、予定通りダイアンサス領のポーション屋で働いている。
ちなみにルークは新しい借家でお留守番中だ。
王都から領地までは乗合馬車で丸五日かかったのだが、これがもう、痛くて痛くてお尻が大変なことになった。
貴族の使うようなスプリングのついた馬車じゃないし、柔らかいクッションが敷かれているわけでもないからね、仕方のないことなのだが……とても辛かった。
しかしそれ以外は順調そのもので、御者のおじさんとも仲良くなったし、天気にも恵まれて無事予定通りの日程で到着することができた。
そんなダイアンサス領の第一印象は、“のどか”。
そのひと言に限る。
街よりも田んぼや畑、森の面積の方が広いだろう。
私が勤めているポーション屋がある商店街ですら、賑わってはいるが、それでも王都とは比べ物にならない。
でも私はこの領地の方が好きだ。
人々は優しいし、自然が多い。
この店のオーナーも、王都からはるばるやって来た私に、疲れているだろうから仕事は二、三日休んでからでいいよと言ってくれた。
新しい住まいを整える必要もあったから、お言葉に甘えさせてもらった。
お休みの間に近所の人にもきちんと挨拶をして、少し打ち解けてきたと思う。
外で遊んでいて転んだ子に傷薬を塗ってあげたり、お腹を冷やした子に下痢止め薬をあげたりなんかして、親御さんには感謝されたし。
そうしてポーション屋で働き始めてから、私の無駄に多い魔力で大量のポーションが作れることが大層喜ばれた。
先日も、商人さんが急に遠方までの商売が決まったから、できるだけたくさんのポーションが欲しいという注文が入って、半日で五十本作った。
今のお客さんはその商隊の方だ。結構手強い魔物もいたらしく、たくさんポーションを揃えてくれて助かったとわざわざお礼に来てくれたのだ。
「戦争がなくても、この領地の周りの森には魔物が多いからね。ポーションがたくさん作れる人は重宝されるんだよ」
「あ、オーナー。お疲れ様です」
この方はポーション屋のオーナーである、エリックさん。
三十代後半くらいで、長身の糸目、栗色のふわふわの髪と柔らかい話し方が優しげなイケオジだ。
ちなみに丸眼鏡をかけている。
同じ眼鏡でも、あの陰険眼鏡野郎の室長とは全然違う。
見た目通りとても優しい方だ。
「ほんと、マリアンナのおかげでものすごく仕事が楽になったわぁ。私達じゃ一日に精々二十本が限界だもの。その倍以上のポーションを短時間で涼しい顔して作るんだから、すごいわよね」
こちらの明るい声の持ち主は同僚の薬師、アーニャ。淡いピンクの髪をポニーテールにしている、明るくて話しやすい美少女だ。年も私と同じ二十歳で、働き始めてすぐに仲良くなった。
「そんな風におだてて、面倒な仕事押し付けようとしても駄目よ」
「あ、バレた?だってこの注文書大変なんだもの。ちょっとでいいから手伝ってよー」
アーニャの手の中の注文書には、びっちりと文字が書かれていた。
おそらく作る時間やポーションの量などが細かく指定されているのだろう。
ポーションは半永久的にその効果を保つわけではない。
前世でいう消費期限のようなもので、その期限を過ぎると効果が現れなくなる。
この世界では効果期限と呼ばれていて、これは作る人によって変わるのだが、一般的におよそ十日前後だといわれている。
時々この日のこの時間まで保つものを用意してほしいと期限に合わせた注文が入ることがあるので、私達薬師は逆算して作ることになる。
「手伝うのは構わないわよ。その代わり、エレナさんの店でおごってね♪」
「うっ……し、仕方ないわね。五千ベルまでよ!そこから出た分は自分で払ってよね!」
エレナさんとは、この街で居酒屋を営んでいるおばさんのことだ。
この街に来て何度か店に行ったことがあるのだが、料理がとても美味しい。
私の歓迎会もエレナさんの店で開いてもらって、同僚のみんなとも仲良くなれた。
「そうと決まれば早速注文書、見せてね。ええと、納品日は三日後ね。それで希望効果期限がその一週間後と」
「そういえばマリアンナの効果期限は何日だっけ?」
「あー……えっと、十一日くらい、かな?」
ぼやかしてそう答えると、まあそんなものよねーとアーニャは特に気にした様子はなかった。