旅立ちは計画的に2
ギルドに到着し受付に行くと、今日もあの綺麗なお姉さんが担当してくれた。
違う人の時もあったけれど、お姉さんが担当してくれることが多く、その丁寧な対応と仕事ぶりに私は勝手に好感を持っていた。
「こんにちは。今日は職探しではなく、手続きをして頂きたくて。これなんですけど、まだ他の方に取られていませんか?」
ドキドキしながら写しを渡すと、お姉さんは書類をざっと見て手早く調べてくれた。
「――――はい、こちら、まだ未承認の募集となっております」
「本当ですか!? よかった、ではすぐに手続きをお願いします」
せっかく決めたのに、一足遅かったですね〜では泣くに泣けない。
それから必要書類を記入して、手続きは完了。
向こうにもすぐに連絡を入れてくれるということだ。
「頑張って下さいね。先方は私も存じ上げている方なのですが、労働者をとても大切にしてくれると思います」
「はい! ここ数日、親身に対応して下さってありがとうございました」
親切にしてくれたお姉さんにお礼を言うと、耳元でこそこそと囁かれた。
「実は少し前に、あなたに関して前職場の方からよろしくないお話がありまして。ええ、もちろん我がギルドはそんな圧力には屈しませんが」
うわ、やはりあの陰険眼鏡の仕業ね。予想通りすぎていっそ呆れるわ。
「個人的には、あなたのように男性に怯まずに自分の信じた道を行く女性を応援したいと思っています」
にっこりとお姉さんは綺麗に笑った。
「あなたならきっと……」
「え?」
「いえ、なんでもありません。ダイアンサス領は遠いですからね、道中お気をつけて」
お姉さんの呟きが小さすぎて聞こえなかったのだが、では次の方と言われてしまったので、お礼を言って席を立つ。
もしかして出身地だったりするのかな?
なんだか思い入れがあるみたいだった。
ギルドを出る前にもう一度お姉さんの方を振り向くと、私の視線に気付いて、小さく手を振ってくれた。
頑張ります!という気持ちを込めて笑顔を返し、扉を開く。
外は温かな日差しが降り注ぐ、爽やかな五月晴れ。
「よーし、頑張らないとね!」
「わぅん!」
私の声に合わせ、ルークも元気に声を上げた。
それから二日程で荷物を纏め、借家の解約などの手続きを終えた私は、旅立つ直前、借家で最近こつこつと作ってきた薬を眺めていた。
ルークにも使った傷薬や血止めの他に、下痢止めと頭痛薬、これからの季節に重宝する虫さされ薬なんてものも作ってみた。
ちなみにこの数日で、私は調合スキルLv9の凄さを知った。
もしかしてと思い、薬を作る時に薬草採取の時のようにじっと見つめてスキル発動を念じてみたのだ。
するとどうだろう、なんとウィンドウが出てきた。
採取の時と同じ薬草の名前や効能の他に、この薬草と混ぜると効能が上がるとか、この薬草と混ぜると別の効能の薬に変わるなどの情報が見えるのだ。
例えばこの頭痛薬も、森に生えていたツキグモソウという薬草を手にしてスキル発動した際に、ショウヤクの花と調合すると頭痛薬になると書かれていたので、その通りに作ってみたものだ。
「これ、Lv10になったらもっとすごいことができるようになったりしてね。まあ、もうすでに十分チートだけど」
そういえば前世流行ったラノベにもチートというワードがよく出ていたなと思い出し、まさかねと笑って薬を大きめのポーチに仕舞った。
「この家ともさよならね。五年間、お世話になりました」
玄関を出て、もうすっかり自分の帰る場所になっていた一軒家を振り返り、お礼をする。
住心地が良くて、結構気に入っていたのだ。
「さ、ルーク行きましょう。馬車乗り場まで歩くわよ」
「わうわうっ!」
こうして私は、新しい自分を始めるための一歩を踏み出したのだ。