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添い寝

お久しぶりの番外編。

ウィルフリード視点のお話です。

「わざわざ悪かったな」


「ううん。フリード様の仕事部屋、ちょっと興味ありましたから」


最近の俺は異常に忙しい。


何故かといえば、原因はこいつ、マリアンナだ。


「薬草を他領に出荷するのに色々と手続きがあるんでしょう?忙しいんですから、私の方が出向くのが自然ですよ」


そう、マリアンナが提案しルークと共に作った大規模な薬草園の薬草は、尋常じゃない速さで成長した。


いずれ……と思っていた他領への出荷が、予想以上の早さで可能となってしまったのだ。


「こういうのは早いに越したことがありませんからね。有能な領主様の元で働けて、幸せです!」


そう笑顔で言い宣いながら、マリアンナは提出書類を俺に差し出した。


それにしても、こいつは俺の苦労をきちんと分かっているのだろうか?


大体こいつはいつもなんでもホイホイ思い付くくせに、肝心なことは俺に丸投げだ。


それが俺の仕事だと言ってしまえばそれまでだが、だからと言って毎回予想外の仕事が舞い込むことになるこっちの身にもなってほしい。


まあその全てがダイアンサス領の発展に繋がっているので文句は言えないのだが……。


受け取った書類を前に、はあっと深いため息を零してこめかみを揉む。


このところ睡眠時間が短いため、目が疲れて仕方がない。


「……あの、これ」


そんな俺の前に、マリアンナが小瓶を差し出してきた。


「グレイさんに聞いたんです。最近フリード様が目を辛そうにしてるって。なので眼精疲労に効く薬、作ってきました」


驚いてマリアンナの顔を見ると、照れているのか目線を逸らして頬を染めている。


突然別に急ぎでもない報告書を持って来るなどと言うから、何かと思えば……。


心配だからと言えば良いのに、こういうところが素直じゃないというか何というか……。


「そうか。ありがとう」


だが、その気持ちが嬉しかったので素直に礼を言う。


マリアンナは俺の言葉に更に顔を赤く染めて小瓶を押し付けてきた。


「でも!一番は睡眠をよく取ることですからね!薬はただの気休めです、今日はちゃんと寝て下さい!」


恥ずかしくて堪らないといった様子で捲し立てているが、その言葉には俺への気遣いが溢れている。


愛しい、そんな言葉が頭に浮かんだ。


それと同時に、この素直じゃないくせにかわいい恋人をからかってやりたいとの変な欲が出てくる。


俺も大概だなと思いながら、苦笑を零す。


「な、なんですか!何が可笑しいんです!?」


笑われたと勘違いしたマリアンナが、目をつり上げる。


そんな仕草もかわいいと思ってしまうのだから、恋とは不思議なものだ。


「いや、そこまで言うならお前にも協力してもらおうと思ってな」


「きょ、協力?」


にやりと笑った俺に、マリアンナが後ずさりした。


「ああ。さすがに俺も限界だからな。今日は日付が変わる前に眠ろうと思う」


「あ、そうですね。それが良いと思います」


何を言われるのかと身構えていたのに、なんだマトモなことじゃないかとマリアンナがほっとしたのが分かる。


だが、そんな安心した顔をしていられるのは今のうちだぞ?


「だがな。ひとつ問題があってな」


「?どうしたんですか?」


首を傾げるマリアンナに、俺は今度はにっこりと笑って口を開いた。




 



「こっ、ここここれはさすがにアレじゃないですか!?」


「別に構わんだろう。婚約しているのだから、咎められる理由はない。それにお前もちゃんと寝ろと言っただろう?」


だからって!と赤面するマリアンナは、俺と同じベッドに横になっている。


そう、俺はマリアンナに添い寝してくれと頼んだのだ。


疲れ過ぎていると上手く寝れない、お前が隣にいてくれたら眠れる気がする、そう伝えたのだが、最初は絶対無理!と拒否された。


だがその後、もし眠れなかったら時間が勿体ないからやはり仕事をすることになるなと続ければ、かなり葛藤した様子だが渋々了承してくれた。


フリード様が寝たら、すぐに別室に行きますからね!と真っ赤な顔をして。


そして夜が更けるまでしばらく書類整理などの仕事を手伝ってくれ、夕食を共にし、風呂などを済ませて今に至る。


ダメ元だったのだが、言ってみるものだな。


心を許した人が側にいるという安心感、そしてその心地良い体温に、徐々に眠気が訪れてきた。


抱き締めて寝たいと言ったら怒られるだろうか。


まあ今はこのくらいまでが精一杯かもな。


ぼんやりとそんなことを考えていると、隣でマリアンナがもぞもぞと身じろいだ。


「?どうした」


「い、いやちょっと……。あの、やっぱりベッドから出てそこの椅子に座っていたらダメですか?」


ここまできて往生際が悪いマリアンナに、少しムッとする。


「なんだ。何が気に入らないんだ」


「いえ、気に入らない訳ではないのですが、その、なんていうか……」


マリアンナにしては珍しくはっきりしない言葉にイライラし、少しずつ眠気が覚めてきてしまった。


なおももごもごと口ごもるマリアンナに、痺れを切らして詰め寄る。


「なんだ!?はっきり言え!」


ぼふっとクッションをマリアンナの顔に押し付ける。


我慢できないくらい恥ずかしいのであれば仕方がない、顔を見なければ少しはマシかと思っての行動だったのだが。


何するのよ!と怒るかと思いきや、何故かマリアンナからは何の反応もない。


「?おい、マリアンナ?」


怪訝に思っていると、マリアンナはおずおずとクッションから顔を出した。


その顔は先程よりもさらに真っ赤だ。


「だ、だって……部屋に入るだけでも感じたのに、ベッドに入ったら、もっとフリード様の匂いに包まれた感じがして……」


「は?」


予想外の発言に、さすがの俺も固まってしまった。


「その、抱き締められてるみたいで落ち着かない気持ちになるというか……ああっ!もう恥ずかしいから許して下さい!」


そう言うと、マリアンナは再びクッションで顔を隠してしまった。


……ちょっと待て、こいつは一体何を言っているんだ。


先程まで感じていたはずの眠気は、完全に覚めてしまった。


「……おい、おまえ本当に俺を寝かせるつもりでいるのか?」


「当たり前です!恥ずかしいから早く寝て下さい!」


クッションの向こうからくぐもった声がした。


なるほど、こいつは計算でそう言っているわけでも、俺を誘っているわけでもないらしい。


無自覚とは随分とタチの悪い……。


はああと深いため息をつくと、どうしたんだろうとマリアンナが少しだけ顔を出した。


「くそ、今のはお前が悪いんだからな」


「は?何を言って……あっ!」


俺の言った意味が分かっていないマリアンナから、クッションを奪い取る。


そして一気に距離をつめ、ぎゅっと腕の中にその柔らかな体を閉じ込めた。


「苦情は後で聞く。今は俺のしたいようにさせてくれ」


「え?なに……んっ!」


一応予告はした。


あとはもうどうなっても知らん。


そんな、半ばやけくそな思いで俺は自分の欲望に逆らうことなく、マリアンナに口づけた。


「ならば、今日は朝まで俺の匂いに包まれたら良い」


真っ赤な顔であわあわとするマリアンナだったが、最終的に観念したのか、大人しくなって俺の服の裾をきゅっとつまんできた。


そしてその後そっと胸に顔を埋めてきたため、俺はそれを了承の意だと解釈し、マリアンナの髪をかき上げ額にキスをしたのだった。

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