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チート薬師と偏屈辺境伯のその後 前編

後編は明日投稿予定です。

「え、やっと?」


「やあ、やっとかい?」


「やっとじゃのぅ」


「三人して“やっと”って言わないで下さいよ!自分でも分かってますから!」


アーニャ、ラムザさん、ヨーゼフ先生の反応に、私はついそんな風に叫んでしまった。


数日前まで、私はフリード様と一緒に実家(アルストロメリア家)に帰省していた。


ただ薬師としてこれからもダイアンサス領で暮らす許可を得るためだけだと思っていたのだが……なんとフリード様は、私との婚約を両親に申し込んだ。


どうなることかとは思ったが、どうやらフリード様は両親のお眼鏡に叶ったらしく、すんなりと了承してくれ、こうして無事にダイアンサス領に帰って来ることができた。


そして今日はお店が休みなので、アーニャとふたり、ヨーゼフ先生のお手伝いに来てみたら、ラムザさんがいたというわけだ。


まあアルストロメリア家は実力主義の家系だからね。


スキルに頼らず自身の努力で功績を上げてきたフリード様に対しては、かなり好感が高いようだった。


ただし、これからの君達に期待しているよ?とものすごい圧をかけられたが。


ちなみに私の態度が一変していることについては、大して驚いていなかった。


あの王宮薬剤室で揉まれて、随分良い性格になったじゃないかと笑われた。


正確に言えば違うけれど……否定して説明するのも面倒だったので、そういうことにしておいた。


ちなみにあの陰険眼鏡とやり合ったことも両親は知っていた。


その結果については大変満足しているらしく、良くやった!と父親に背中をバシバシ叩かれた。


とまあ、話は少し横に逸れたが、一応これで一件落着というわけだ。


「なにが“というわけだ”よ。大事なところがすっぱ抜けてるじゃないのよ!」


診療所で一仕事終えた後、私はフリード様と婚約することになったと皆に報告し、先生に淹れてもらったお茶を飲もうとしたのだが。


アーニャがそう言って診療所の机を叩いた。


「へ?なにが?」


胡乱な目つきのアーニャに、ひくりと頬を引きつらせる。


「だからぁ!辺境伯様とのラブラブいちゃいちゃ話は!?まだ口約束とはいえ婚約者になったんだから、それなりに甘い雰囲気で告白とか、そういうのがあったんでしょ!?」


勿体ぶらずにさっさと吐きなさいよ!とものすごい剣幕だ。


ら、ラブラブいちゃいちゃ話?


そう言われましても……


「――――は?告白はあったけど、急患が入ってそれどころじゃなくなって、なんとなく婚約〜な流れになった?あんた達バカなの?」


ぼそぼそと旅路でのことを話すと、アーニャは呆れたようにため息をついた。


あ、アーニャってば、口悪っ!


怪我でビービーわめく隊員達を相手にしている時の私よりも辛辣じゃない?


「まあ、言い方はキツいけど、確かにアーニャさんの言ってることは正しい、かも」


「そうさのぅ。ウィルフリード様もそれで良いのかと、疑問じゃが……」


ラムザさんとヨーゼフ先生にまでそう言われてしまった。


た、確かに、告白はされたしこちらからも返事らしきものはしたが、よく考えると私のあの言葉もちゃんと伝わっているのか微妙なところだ。


多分、拒否ではないことは分かってくれているだろうが……。


「ど、どうしようアーニャ。急に不安になってきた」


「今更?マリアンナって、本当に仕事はできるくせに、変なところで抜けてるというか、危機感がないというか……。油断してると、すれ違っちゃって上手くいくものも上手くいかなくなっちゃうわよ!」


前世からちょっぴり自覚していたけれど目を逸らしていたことをグサリと突かれ、私はよろめいた。


そう、確かに私の悪い癖だ。


“言わなくても大体伝わってるでしょ”って思ってしまうところ。


歴代の彼氏にフラれてきた理由の多くが、これだった。


「あのね、急患が入って大変だったのは分かるけど、それを言い訳にして、有耶無耶にしちゃダメよ?ちゃんと想いを伝え合って、ちゃんとラブラブいちゃいちゃしなさい!」


びしっと目の前に指を差される。


前半はごもっともだけど、ラブラブいちゃいちゃって……。


「普段ケンカばかりしておるからのぅ。まあワシからすれば、じゃれ合っているようにしか見えんが」


ですよね、先生。


なにかと言い争いが始まってしまう私達のラブラブいちゃいちゃって何……?と頭を抱える。


「まあでも、せっかく婚約者になったんだし、甘い雰囲気を作ってみたらどう?」


ラムザさんはそう言うが、そもそも甘い雰囲気ってどうやって出すんですかッ!?


ぐしゃぐしゃと髪を乱して考えるが、全く思い付かない。


甘い雰囲気なんて、前世の恋愛でもあったっけ?


あれ、そう考えると私ってかなり淡白な恋愛しかしてない……?


いや、そもそも恋愛と呼んで良いの?


それなりに彼氏はいたはずなのに、恋愛偏差値が低すぎることに絶句する。


まずい、全っ然分からない。


ずーん……と膝を抱えて小さく(うずくま)ると、外からバタバタという足音が聞こえてきた。

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